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売れぬエロゲー驚異の長寿命。WHITE ALBUM2が向こう側へ行けた理由

ファンと運営のコンテンツを通した理想的な関係性について考えてみました。アイドルマスターなど長期展開が盤石なコンテンツではなく、零細産業として苦しい状況にあるアダルトゲーム(エロゲー)を取り上げます。

「WAHITE ALBUM2」はLeafが2010年から2011年にかけて発売したPC用アダルトゲームです。「冴えない彼女の育てかた」で一躍有名になったシナリオライターの丸戸史明による持ち込み企画として成立。2とついているのは初代の「WHITE ALBUM」の世界観や登場楽曲、三角関係、というコンセプトを引き継いだため。

※特に楽曲レベルは非常に高く、アニメ版「WA」のOPはヒロイン役でもあった水樹奈々が初めて紅白に出場したあの曲。そう「深愛」です。

Leafはアダルト向けブランド、一般向けブランドはAQUAPLUS。運営会社は「とらのあな」を運営するユメノソラホールディングス子会社です。有名な作品としては「うたわれるもの」「To Heart」「痕」など。その他詳しくはwikiへどうぞ。

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「うわたわれるもの」と「WAHITE ALBUM2」の決定的な違い

近年のAQUAPLUSは17年の「ダンジョントラベラーズ2-2 闇堕ちの乙女とはじまりの書」を除き、「うたわれるもの」の展開が中心となっています。

ここから読み取れるのは、収益化です。

マネタイズ面でみればバトルのできる「うたわれるもの」の方がソーシャルゲーム化による継続的な収益をあげられる可能性が高い。単独作として綺麗に完結した「うたわれるもの」の続編を展開することで世界観を広げ、「うたわれるものロストフラグ」の配信へと至りました。(初めから三部作構想だったという話もありますが、02年発売の一作目から二作目の「偽りの仮面」が15年発売ということを思うと説得性がやや足りない)

売り切りのシミュレーションRPGから継続的な収入が見込めるソーシャルゲームを中心としたビジネスモデルへの転換です。

他方、「WA2」は違います。これは昨今ジリ貧状態にあるアダルトゲームで登場しました。パッケージの販売から広げるために唯一残されたのは歌。それ以外、この作品をスケールさせる道はないのです。しかし・・・

かずさのボーカルを封印し、運営は作品世界を守った

ヒロインの一人、冬馬かずさ(CV:生天目仁美)は歌える声優にも関わらず、この縛りを運営は徹底して守りました。これはプレイをしたファンたちにとって、もうひとりのヒロインである小木曽雪菜(CV:米澤円)が歌姫であり、かずさはピアニストであるキャラ性をリアルの場でも尊重したからです。

プロモーションだけ考えれば、せっかく歌える声優がいるのに使わない手はないのです。WA2が話題になる時期にCDを売り切った方がよいのです。

でも、Leaf名義のWA2が登場して以来しばらく、けっして歌わせなかった。

この間、PS3版が出るわ、アニメ化するわでWA2の発信力としては全盛期。雪菜ボーカルの原作名義・アニメ名義で計5~6本CDも出ているのですが、かずさのボーカルは一切含まれない。LIVEイベントもいくつかありましたが、かずさは歌わない(たしか)。

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このようにかずさがジャケットに起用された、プロのピアニストの演奏を収録したCDもありますが、かずさが歌っているわけではありません。あくまで、かずさはピアニストなのです。

動きがあったのは、AQUAPLUS20周年を記念して開催された15年の大アクアプラス祭、そのファン投票。男性と女性キャラそれぞれで投票を行い、1位キャラにはご褒美がもらえるというもの。ここで、女性キャラ1位をかずさが獲得したことで、初めてボーカルCDの発売が決定。17年にかずさだけが歌う「WHITE ALBUM2 ORIGINAL SOUNDTRACK 〜kazusa〜」を解禁しました。

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完結編のclosing chapterが11年末と考えると、およそ5年の間、ファンとの時間を共有してきたのです。この判断は、商業的観点では考えられず、あくまで作品を優先してきたAQUAPLUSスタッフたちの世界観を守る意識が感じられます。

音を大事にするCD仕様

曲を大切にする姿勢はCDの仕様にも現れています。「WA2」の楽曲、ほとんどが音キチの皆様おなじみのSACD(Super Audio CD)仕様です。

これは簡単にいうと、CDプレイヤーで再生できるCDより音質の良いCD。圧縮を抑えた大容量の音源データを入れることができます(CDは780MBでSACDは4.7GBまで)

AQUAPLUSの自社レーベルであるF.I.X. RECORDSから出されている楽曲はSACDに積極的なので、社としての姿勢もありそうです。

※一部SACDじゃないトラックもありますし、現在はハイレゾ配信があるので、高音質に関しては少々事情が変わっている面はあります

2018年11月11日

数々の濃いライブイベントを開催してきた「WA2」ですが、まさに伝説のイベント「WHITE ALBUM2 学園祭 2018~LIVE&TALK~」。2020年に予定されていた「WHITE ALBUM2 学園祭 2020~10th winter memories~」が開催中止となった現在、最後の「WA2」関連イベントです。

完結から実に7年経ったアダルトゲームの単独イベントが未だに開催されている前例はないのではないでしょうか。大アクアプラス祭のような、ブランドまとめてのイベントなら分かりますが、一つのタイトルでここまで続いていることは驚異です。

ファンがしっかりついてくること。運営がそれを信じて箱を用意してくれること。この2つが無ければありえません。

前述のかずさのボーカルに対する取り扱い。できる限り良い音を届けたいという姿勢。そうした細かい信頼によって開催できたイベントでしょう。

参戦ブログを書かれている方もいらっしゃいますので、詳しくはそちらをご検索ください。

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発売10年の「WA2」はまだ展開を続けている

例えば新作のCD。19年末の冬コミではボーカルCDを、20年5月末にはラジオCDを出します。さらに、HOBBY MAXおよびグッドスマイルカンパニーから(おそらく)初のスケールフィギュアの予約が開始。いままでPSVita版のにいてんご(サムネ画像)しか無かったのでは・・・?


―――ということで「WA2」における取り組みを見てきました。ここでいえることはいかに世界観を守るかということ。下手に商業に走らず、作品コンセプトを守る息の長い運営。これは時に目の前の収益を捨てることではありますが、ファンとの確かな関係性を築く方法といえるでしょう。

一方で、「うわたれるもの」というコンテンツがあるからこそ、利益を優先しすぎない展開ができることも事実。収益化をねらうコンテンツとファンとの関係性を維持するコンテンツの二方面で展開するブランドこそが、末永く愛され、事業としての継続できるのではないでしょうか。

他社事例でいうと型月など。Fateシリーズを積極的に商業展開する一方で「魔法使いの夜」のような古参向けのノベルゲームを発売したことが近い事例かもしれません。

最後に、WA2の愛を感じるエピソードで締めたいと思います。WHITE ALBUM2 学園祭 2018~LIVE&TALK~で米澤円がファンの心を叫んでくれました。

「私はアニメ2期諦めてないぞーーーーーー!!!!!」

キャスト、運営、ファンと共に、これからも末永いコンテンツへ。

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