METライブビューイング「マルコムX」感想

音楽も良かった。
舞台美術も良かった。
でも脚本が、、、

https://www.shochiku.co.jp/met/program/5442/

マルコムXをテーマにするなら、もっとセンセーショナルに描けたんじゃない?、と部外者の黄色人種は思ってしまうわけで。

第1幕は、黒人迫害の歴史をもっとガッツリ描いて欲しかった。
少年マルコムがマルコムXになる過程で、重要なシーンになるはずなのに、
お母さんの嘆きのアリアで終わっちゃう。

活動家で牧師の父親が殺されるシーンを、KKKの仕業として正面から描くことはNGだったのかもしれない。
(実際、KKKの仕業であったことは明らかになっていないらしいby Wiki)

KKKの白頭巾なんて、絵的にすごくオペラ的なのに。
なんとなくゾロっとした白い衣装の男女の群舞で、お茶を濁されてしまった感じ。
しかもダンサーは全員黒人である事がわかるよう、顔出ししている。

最も盛り上がるはずのラスト、第3幕もまったくもっていただけない。
演説中のマルコムが銃撃を受けて、突然終わる。
え!これで終わり!!??
何もカタルシスが得られなかったんですけどーーーー!!
食い足りねえ!!

オープニングで宇宙船が出てきた時は、
「お!斬新な演出!?これは期待できそうだぞ!」と思ったんだけど、
結局その宇宙船はただの舞台美術として最後まで宙に浮かんでるだけ。
ブラック・フューチャリズムとかお題目だけ唱えられましても…。

タイムスリップとかして、現代のBlack Lives Matter運動につなげるとか?、
公民権運動がアメリカを変えて、ついにMETでブラックオペラが上演されるようになった事をメタ的に描くとか?
なんかそういうぶっ飛んだ脚本&演出を期待してしまったけど、完全に裏切られた。
通り一遍のマルコム伝でしかなかった。
マルコムの苦悩もアメリカの苦悩も、あんまり伝わってこなかった。

考えてみれば、METのオペラなんて基本お行儀のよいエリート白人のための芸術なわけで。
そもそも2年前に初めて黒人による黒人のためのオペラ作品が上演されたのはすごく画期的なことだったと思うけど、2020年頃に盛り上がったBLM運動を受けて、リベラル系のエリート白人が「多様性」をうちだそうとする一連の流れから生まれたものなんだろうし。

METのブラックオペラ第一弾“Fire Shut Up In My Bones”は、少年時代に性的虐待を受けた男性の心の旅を描いたものだったし、
(METの総監督だった人が、性的虐待の疑いでMETを解雇された直後だったし)
第二弾の“Champion”は同性愛をテーマにしたものだったし、
どちらも「多様性」をスローガンをかかげるエリート白人には格好のテーマだったんだろうと思う。

で、3作目でマルコムX。
ちょっと早すぎたのかもしれない。
いや、早いとか遅いとかの問題じゃなく、黒人差別について正面から描くには、オペラというプラットフォームがあまりにも白すぎるのか。

いろんな方面に配慮(黄色人種を除く、黄色人種はここでは全くの部外者、苦笑)した結果、なんだか歯切れの悪い表現に脱してしまったという感は否めない。

英国王家御用達ロレックス他の提供でお届けしています。

ちなみにMET公演時の原題は
“X: The Life and Times of Malcolm X”

緞帳は黒地に白で「X」の文字が大描きされたデザイン。
そしてカーテンコールで出演者&スタッフが、スタッフTシャツで出てきて横にズラッと並ぶんだけど、Tシャツも緞帳と同じデザイン、、、

あれ、なんかこれって、、、

旧Twitterじゃん〜(笑)!!!

そういやイーロン・マスクって南ア出身じゃなかったっけ…?
とか余計な深読みをしてしまう。

期待していただけにちょっと残念な演目でした。

あれでスタンティングオベーションしたくないけど、もし現地で見てる白人がここで立たなかったらレイシスト呼ばわりされちゃうんだろうな、というのもわかる。

ついでに言うとその前の週、歌舞伎「唐茄子屋不思議国之若旦那」を同じ映画館で観た後だったので、「黒も白も黄色も、混ぜりゃ良いってもんじゃないんだよな」とも思った。多様性って、偏りがあるから多様性なんだよな。全部混ぜたらのっぺりした灰色になっちゃって、何も面白くないんだよな。


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