商業謎解きができるまで(孤独の一人団体ver)

この記事は「謎解きについて書きたいことを書こう」アドベントカレンダーの記事の一環です。
https://adventar.org/calendars/3438

市場ン億円といわれる謎解き市場。

王者SCRAPのリアル脱出ゲームが様々なコラボをしていたり、他企業もたくさんの謎解きイベントが開催されています。
また、自主制作でも、ナゾガクなどのフェス系イベントでは出展団体の申し込みが多数です。

しかし、最近、制作者が足りないという意見を商業関係者から聞きます。

そんな流れを受けて、商業謎解きイベントができるまでの一通りの流れを書いてみたいと思います。
立場的にも性格的にもそこそこあけすけに書ける人も他にあまりいない気がしたので。

まずは、簡単に自己紹介します。
バス謎制作連合という団体の代表です(代表といいつつ団体メンバは一人です)。
最近だとほぼ商業イベントの制作をしていて、普通の会社員の傍ら、団体としては年5、6件制作しています。
また、個人で他団体からの謎制作依頼も受けていて、今年だと団体・個人あわせて25件くらい制作しました。

副業バンザイ。

これから書くのは団体(バス謎制作連合)として制作した場合の流れです。
また、あくまで制作のみ受けた場合の『一例』になります。
これとは違う流れもあります。

■制作の流れ

①制作相談
まず、先方からメール等で制作の相談があります。
この時点で具体的なイベント内容や予算が決まっている場合もあれば、内容決まってないけどとりあえず話聞いてみたい等様々です。

クライアントの希望に合わせて提案や見積もりをしていきます。

ちなみに見積もりをどう決めるかに少し触れると「相場」という単語があります。
私も昔使いがちでしたが、最近はなるべく使わないようになってきてます。
理由は単純で「わかんないから」です。
当然ですが、他の団体の見積もりなんて知りません。
(打ち合わせ等の中で、ある程度「察する」ことはあります)
HP等で公開しているところもありますが、全部ではないですし、前提条件などが異なるので一概に比較できません。
なので「相場より安く作るところは~」みたいなことを言ってる人は主語が大きい人だなあと最近は思って見ています。

なので見積もりを出すときに「相場」というのはあまり参考にしてません。
(「あまり」なので他団体のHPをチェックすること等はあります)
今までの実績をもとに謎制作はいくら、デザインはいくら、みたいな感じで見積もりを積み上げていきます。

「相場」を参考にしていない、というと「やっぱり安く受けてるんだ!いくない!!」みたいなこと言われる気がしたので補足です。
クライアントのリアクション等からの推測ですがウチが安すぎということはなさそうです。
法人も含め、ウチより高いところもあれば低いところもいる、という感じです。当たり前ですが。
(ちなみにこういうことを書くとそれはそれで「儲けてるんだ!」っていう人もいるので、せんない話です)

ちなみにウチは人数が少ない(謎制作は一人)ので、単純に頭数で考えると、制作費がそんなにハネないというのもあると思います。
最終的には工数の話になるので、一概に言えませんが。
逆に、他を見てるとその案件にその人数でちゃんとメンバーに還元できてるのかな?と他を見てて不思議に思うこともあります。
ただ先述のとおり、他の団代の見積もりは把握してないので、その分制作費用確保してるんだろうなあって思ってます。

②打ち合わせ
制作相談のお返事をもとにクライアントに「依頼してもいいかも」って思ってもらえると次は直接会っての打ち合わせになります。
内容は基本的には「①制作相談」とあまり変わりません。
「①制作相談」の内容について、より深く細かくお互いの認識あわせをするようなイメージです。
向こうの要望を聞くだけでなく、こちらの要望(例えばウチの場合だと、基本は制作のみで運営はしていないとか)みたいなことも伝えます。

なお、この段階ではウチに依頼がくるか確定していないケースが多いです。
大抵は企画自体検討中or企画は決定していても他の謎解き企業との相見積もりだったりコンペだったりの状態が多いです。
打ち合わせをもとに更にクライアントで検討して、別途正式に依頼するか連絡します。という形で終わります。

③外注(メンバー)選定
確定ではないものの、打ち合わせの感触でなんとなく依頼をゲットできそうか見込みが見えるので、制作依頼をするメンバーを選定します。
ウチの場合、謎制作自体は私が行いますが、デザイン、映像、小道具もろもろ謎制作以外のほとんどは他の人に依頼しています。

制作範囲(デザイン、映像、小道具の有無等)は「①制作相談」や「②打ち合わせ」で確認しているのでそれをもとに必要人材をピックアップしていきます。
まだ確定していないので、脳内で候補をあげるのみの場合がほとんどです。
ただスケジュールによっては「あれ、これ確定してから交渉してると間に合わないや」ってことがあるのでその場合は、声をかけて依頼交渉を始めます。

交渉内容としてはおおざっぱな作業内容やスケジュール、金額を提示して、受けてもらえそうか確認します。
この段階ではまだヒアリングベースで、正式に案件確定したら正式に依頼します。

メンバーに依頼するときの金額も補足します。
ここでも結局「相場」はわからないので、個人的には「イヤなことがあってもやり遂げられる金額」を意識しています。
(もちろんなるべく無いようにしますが)意に沿わないオーダーや修正が発生する可能性があるからです。

例えばですが、絵を描くのがうまい人が、絵を描くのが好きとは限りませんし、絵を描くのが好きな人が私の制作物の絵を描きたいとも限らないと思います。
私の依頼より、自分で謎作ったり同人誌作ったりするほうがメリットあるんだったらわざわざ私の依頼を受ける必要ないですよね?

依頼する側は自分が作りたくて作ってるから、ついつい他の人も同じようなつもりで仕事を振りがちですが、商業に限らず、依頼して協力してもらった人にはそれに見合った対価を払うことが大事だと思っています。(※「対価」は必ずしもお金とは限らないと思います)

④案件確定&謎制作開始
クライアントから正式に依頼が来ると、もろもろ具体的な確認や制作が動き出します。
この段階までくると、先方に聞く、というよりは「こういう感じで進めてますがいいですか?」というようにクライアントに内容を共有しつつ制作を進めるようになります。

⑤謎完成&デバッグ
なんやかんやで謎ができたらデバッグします。
このあたりは自主企画でも商業でもあまり変わらないのかなと思います。

強いていうと参加者の想定層が変わってきます。
自主企画の場合、多くは謎解きが好きな人、興味ある人がターゲットになると思います。
が、商業ではそうとも限りません。

私見ですが、よく謎解ける人解けない人とか難易度的なことが話題になりますが、それ以前の段階として「頭を使うことに積極的かどうか」があると思っています。
例えば、TVのクイズ番組を見たときに、謎クラスタのほとんどは出演者と一緒になって考える人が多いと思っています(解ける解けないは置いといて)。
でも、中にはそうでない人もいます。「なんか難しそうだー、わかんない」で思考がストップする人もいます。
そうした人も苦手意識を持たずにどうやれば入ってきてくれるかを意識する必要があると思います。

なお、某氏によると簡単な方が需要があるだけでなく額も大きいそうです。
(真偽は知りません)

もう一つはクライアントごとに観光PRだったり商品PRだったり目的が異なる点です。
単純に面白いものを作ればいい…とも限りません。
そうしたことを意識しつつ制作を進ます。

また、この段階でまだ告知されてなかったりするので、デバッグ協力者は非公開で集めることが多いです。

⑥デザイン依頼&最終確認
デバッグが済み、謎の内容がほぼほぼ固まるとデザインを依頼します。
なお、告知その他スケジュールの関係で、「⑤謎完成&デバッグ」と並行してデザイン準備してもらってることもままあります。
デザインができたら再度デバッグ&謎以外も含めて体裁や文章校正等々最終確認をして謎は完成になります。

⑦残作業
「⑥デザイン依頼&最終確認」で謎自体は完成になりますが、まだ作業は残っています。
スタッフマニュアル、解説、ヒント等、関連制作物を作っていきます。

⑧納品
制作物一式が出来上がったらクライアントに納品します。
確認してもらい、質問や修正があれば随時対応します。

このあたりで支払いの話も出始めます。

⑨リリース&清算
最終的にリリースとなり、無事に稼働していることを確認したら、クライアントに請求して、メンバーに支払いして終了となります。
お疲れさまでした。

以上が商業制作の流れです。
この①~⑨を2~6か月くらいのスパンで行います。
ここまで書いて、自主企画と根本的に何が違うんだろうと思わなくもないですが如何だったでしょうか。

最後に補足すると、商業よりも自主企画のほうがやりたいことができる的な意見をたまに聞きますが、個人的にはベクトルの違いと思っています。
例えば、たくさんの人にやってもらいたいと思ったときに、商業だとン千人や場合によってはン万人の人に解いてもらえたりしますが自主企画だと難しいと思います。
(Web謎だったりすごい人気がある団体だと違うかもしれません)。
他にも、遊園地、劇場、球場等々の会場使ったり、コラボ謎だったら原作のキャラや世界観使ったり。
個人では難しくても商業ならできることも多いです。

最初に商業制作者が足りない的なことを書きましたが、個人的には商業制作者が増えると、その分仕事が減る可能性があるので、増えなくても良いと思ってますが、商業制作したいと思っている人の参考になれば幸いです。
長文ですが、ここまでお読みいただいた方々、ありがとうございました。

P.S
商業制作もですが自主企画でも「⑤謎完成&デバッグ」あたりの話題は出ても、こうして全体を書いた記事はあまり見たことがない気がします。
なので、他の制作者の記事も聞いてみたいなと思いを込めて【孤独の一人団体ver】というサブタイトルを付けました。
誰か他のverを書いてくれるのを心の中で願ってます。

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