見出し画像

2023年上半期に聴いたアルバムセレクション

 気がついたら半年過ぎてたよね。

 今回は「半年過ぎた節目」というのもあれなんですが、自分で今年何を聴いて何を思っていたか忘れそうなのでこのへんで今年触ってきたアルバムからピックアップし、寸評とともになんとなくまとめようと思います。
 いやホントはいろいろやることあるんだけどね…!Steamのサマーセールの記事書いたりブルアカの二次創作小説書きたいとかあるんだけどこれも同じくらい書きたいので書いちゃう(欲張り)

 でまあ毎度のことであれなんですけど、音楽に関しておれはしっかりとした知識を持ってるライターとかではないので変なこと言ってても「お~なんか言っとるな」くらいに流しておいてください。
 やっていきましょう。


E-Motion-L - Terrence Parker

 40年近くハウスDJをやっている大ベテラン、テレンス・パーカー先生。ひとりで趣味でやっているとはいえDJ MIXをやり始めたので、勉強の意味を込めてアルバムを買いました。

 この人なにが面白いってDJやってるとき電話の受話器で音聞いてるんですよ。

 DJがよくヘッドホンで音を聞いたりしてるのはキューイングと言って、次の曲のかけ始めを自分だけで先に聴いておき頭出しをしたりタイミングをはかるためにやっているのですが、別にガッツリ曲を聴き込んでいるわけではなく必要な音さえ最低限聞けていればいいので理屈の上では受話器でやったって問題はないわけですね。というより両手を塞がずに聴ける受話器はむしろ効率がいいかもしれません。
 さらに驚くべきはこの改造受話器でキューイングするDJが当時テレンス・パーカーだけではなかったらしい、ということです。当人がインタビューなどで語っていますが、彼は友人から教わって受話器ヘッドホンを自作したらしいので結構これをやっていたDJが草の根的にいたみたいです。今と違って昔のヘッドホンは壊れやすかったし、その点ラフに扱ってもそう壊れずコードが巻かれていて邪魔にならない受話器はむしろ賢い選択だったのかもしれないですね。
 受話器は置いておくにしても、DJプレイを見ていても参考になるし選曲もいいしでかなり好きですね。


Expansions In The NYC - Louie Vega

 この人もスゲー大御所のハウスDJ兼プロデューサーということで聴き始めました。

 先程のテレンス・パーカーもそうなんですけど、やっぱDJやりながらトラックメイカーを兼任する人の曲の何が良いかっていうととにかく使いやすいということですね。
 前奏が長めに取られているから余裕を持って曲の入り始めを決められるし、ブレイクないしはわかりやすい間奏を取ってくれるので曲の切り上げ時もわかりやすい。おれのような音楽理論に疎い人間でも「あ、ここでスッと抜けってことだな」と意図がわかりやすい構成になっている。純粋に曲として聴いていても楽しいですが、DJとして見たときにも非常に練習がしやすい音源なんではないかと思います。

 ラテンを感じさせるソウルフルな曲調が気持ちを盛り上げてくれる、良い一枚だと思いますね。


RE PAK 05 - greyl

 このへんでちょっとアングラなところに行ってみよう。

 ロシアのリミキサー、greylの一枚。昨今、アジア圏では日本含むバブリーでレトロな時代の音源をサンプリングして作るフューチャーファンクが地味にアツいのですが、ナードコアやナイトコア的な切り口でアニソン・キャラソン・サブカル楽曲をカットアップしているのがこのgreylですね。

 この曲なんかはYunomi & nicamoq「インドア系ならトラックメイカー」を基軸に構成されているフレンチハウス。原曲自体はTikTokなんかでも流行ったりして有名ではあるものの、ふんだんにまぶされた音源と再解釈でまったく印象が異なるトラックに仕上がっている。
 それにしてもこの人の「音の引き出し」がなかなかに謎。押入れ開けたら素材が雪崩になって1テラバイトくらい溢れ出してきそう。おれは音ネタに明るくないのでただでさえわからんのだがこの人の持ってくるサンプリング元は本当にわからん…。ぼんやりと「たぶんDirty AndroidsのSpining Aroundもこんな音源サンプリングしてたよな…」までしか思い浮かばなかった。

 フューチャーファンクもそうなんだけど、日本の文化圏でない人が日本語を客観的に解体して組み直すカットアップがマジで予想外で面白くって、チョップで歌詞の意味の連なりをなくし楽器にされた言葉が聴いていて心地よい。しかも日本人でも知らない曲に案内してくれることがしばしばある。サンプリングである以上著作権が絡むしあんまり大々的には勧められないけれど、埋もれた名曲に光を当てているのは間違いない。


ゆのもきゅ - Yunomi

 というわけでそのサンプリング元のYunomiのアルバムもじっくり聴いた。もともとMaltine Recordsで「枕元にゴースト」だけ聴いたことがあり「これはすごい!」と思っていたが他のトラックも実に素晴らしかった。

 先述した「枕元にゴースト」は最近二ディガの「INTERNET YAMERO」でスマッシュヒットを放ったあのAiobahnとの合作。躁気味なくらい元気に飛び跳ねるメロディーラインがマジでAiobahnだな~~~~!!って感じする。
 そんな曲調と裏腹に、歌詞は一貫して「もうこの世にいない幽霊が大切な人を見守る」「もう会えないことを噛み締めながら幸せを祈る」という切ない内容になっている。アップビートにのせてこの歌詞を……そんな……そんなことされたらアガりながらダウナーになってしまうやん!!!!!感情のジェットコースターか???????こんなん情緒おかしなるで。

 曲もいいが詞の世界観も秀逸でエモーショナル。nicamoqのキュートなボーカルも相まってどのトラックも聴き応えがあります。


NEIN / pinkpong - YAXA IN DA HOUSE

 この前も記事を書かせていただいたワニのヤカ。どれもいいがNEINがたまらなく良い。

 ゲームを買ったけど起動しただけで遊べてねぇ。仕事に追われて読めねえマンガがいつのまにかエンパイアステートビルになってんぞ……。その倦怠感。深くリリックを読み込むということはまだしていないけれど、上辺をなぞるだけでもああいう倦怠感が見事に表現されている。
 就職して社会人生活が始まると学生生活のころみたいな自由な自分の時間が取れなくて、報復性夜更かしで昼と夜が逆転しちゃったりする。納得行かないけれど声を上げて反抗するでもない、なにかする元気もなくてなにもしたくない・ない・ない……そんな疲れ切った日々に、そっと「何かできることでもしてみるか?」と声をかけてくれるような曲。

 音作りもローファイで気だるげながら太い音が鳴っていて力強い。インタビューでも語っていた通り、「物理的なシンセが好きで積極的に使っていきたい」というこだわりがよく活きているように思いますね。


結束バンド - 結束バンド

 自分でも逆張りよくねえな~とは思うんだけど、話題が落ち着いてきたので先日からゆっくり聴いています。

 ぼっち・ざ・ろっく!はすごくコミュ障というか「よかれと思ってやってみた行動が突飛すぎて空回りする変な人間」の精神構造を丁寧に描いていて、終始ぼっちちゃんの人付き合いうまくないところがそのまんまうまくないままで話が進んでいくのが心地よかった。
 人間、そんなすぐ簡単に性格は変わりません。しみついたクセのようなもので、相当日の当たるところに置いておかないと暗い人間の考え方は暗いままです。だけれども親切に接し続けてくれた他人に対する印象とか、信頼というものは培われるもので、その結実が「星座になれたら」となって現れてくる。

 収録されている曲の中でも特に一番好きなのは、「ひとりぼっち東京」ですね。
 どことなくヨルシカを思わせるようなシューゲイザーな歌詞とコード進行の中に、"ギターの音が熱くなるのは わたしの中に青い炎があるから"と創作に対する殺し文句を携えている。どうにも止められない燃えるような創作への激しい衝動ってのは、梶井基次郎信奉者のおれによく沁みます。

 常に酔つてゐなければならない。ほかのことはどうでもよい――ただそれだけが問題なのだ。君の肩をくじき、君の体(からだ)を地に圧し曲げる恐ろしい「時」の重荷を感じたくないなら、君は絶え間なく酔つてゐなければならない。
 しかし何で酔ふのだ? 酒でも、詩でも、道徳でも、何でも君のすきなもので。が、とにかく酔ひたまへ。

ボードレール(富永太郎 訳)

 自分をコントロールして社会で良い子ちゃんやりながら、その生活になんの疑問も抱かず、生きることが楽しいコミュニケーション強者は、生が苦痛でもなんでもないのです。
 だけれども、おれたちのような社会不適合者は生きることが死ぬまでの絶え間ない苦痛で、その際限なくできる生傷を何か好きなものなり執着しているものなりへの情熱で焼灼して塞いでいかねばなりません。こんなゴミ溜めみたいな世の中でまっとうでなんかいられるわけがない。狂気!生きるために狂え!狂って文章なり、絵画なり、音楽なりに衝動を叩きつけることが明日への命をつないでくれます。作るでも受け取るでもどちらでもいいのですが、酔い続けてまともではいないことが生きるコツです。

 その「酔い」「狂い」がこの曲にはある。結束バンドのそれぞれの曲は掲載誌のきらららしくあくまで高校生バンドが歌っているマイルドな範疇に収まっているように思いますが、それでもぼっちちゃんの孤独から湧き上がる止められない炎や情熱がときどき牙を覗かせ、本物の説得力を持ってロックをやっているのだと感じさせてくれます。
 彼女が一心不乱に自分の口下手と戦いギターという武器を研ぎ続けていった結果、メンバーの信頼を勝ち得ていった姿は美しい。ぼっち・ざ・ろっく!は見た目こそ少女だらけの穏やかな絵面のアニメですけど、そこにあるのは確固たる闘争だったと思いますね。


戦略的生存 - ポップしなないで

 あのさぁ…おれェ……女同士のデッケぇ感情のやり取りが好きでぇ……ガール・ミーツ・ガールのPVが最高でェ……。

 あつまれUFOを呼ぶダ~ンス。かめがいさんの声の使い分けとメロディがキャッチーで癖になりますね。歌詞も素晴らしくて「君はそいつらの指へし折りながら歩いてる」がもうメチャメチャに我が道を行くロック精神してて好き。すべてが最高。ありがとうかわむらさん、ありがとうかめがいさん。

 以前、「どうすんの?」をピックアップして記事を書きましたが、ポップしなないではいつも少しマイナスのところに軸足を置いて歌詞を練っているところが好きです。
 無責任に「人生いいことがあるよ」とは言わないけれど、人生は苦しみだらけという前提の上で「えぇ?いま死ぬ必要もないんじゃないの、しらんけど」くらいの適当な突き放し方で見守ってくれる温度感。つかず離れずでどっちかというとまあ若干近い寄りくらいの感じ。これが心地良いですね。


 別アルバムなんですけど、「魔法使いのマキちゃん」はとても重く、深々と胸に突き刺さりました。
 「…マキちゃんは実家に帰って魔法使いになったらしいんだ」。その、"し"と"んだ"を長音で繋げるような"い"の存在。「飲みきれない」思い。この歌はたぶんそういうテーマを隠し持っていて、聴いていると昔のことを思い出すんですよね。

 もう、11年くらい前になるかな。とても深い関わりを持っていたというわけではなかったけれど、ひとり、インターネットで出会ってとてもお世話になった人の旅立ちを見送ったことがあって…。この曲を聴いていると、飛び立つ瞬間まで寄せられた呼びかけに精一杯返事を遺してくれた当時の彼のつぶやきを思い出しますね。
 おれがまだ自分のことを僕と称していたような若い頃、死にたくなるほど無限に感じられたモノクロームの高校時代に出会って、おれがネットに吐き出し続けるやるせない激情と人間への絶望と泣き言をそっと見守ってくれた大人のひとりでした。当時、彼の周りは同じように彼に救われた人が多くいて、インターネットを通じて社会に馴染めない自分たちの苦しみを分け合いゆるく連帯していたように思います。それを繋ぎ止めているような、クラスタの中心にいる人でした。あの日は、そんなおれが大学に行ってやっと世界の広さや人生の楽しみを知った矢先のことでした。

 おれは高校時代、人生も世界も基本的に全部クソだと思っていて、昔は「そこから一抜けすることは賢く勇気ある決断だ」なんて思うこともあったんですけどね。
 でもね、やっぱり遺される側になってみると違うんだよな。キッツいんだよ、自分が信頼して親しくしていた人に置いていかれるとさ。自分には手の届かないところで、自分にはどうすることもできない事情によって世話になった恩人を喪うってのは、本当に自分の無力さを実感するよ。
 それを思うと、おれはこの処理しきれない気持ちを軽率に他人に与えることはできない。彼のように悩んで悩んで、本当にどうしようもなくなったときにひっそりとそうしたいと思う。

 あれから自分が少しずつ老いていっても心は青くて幼いままで、年嵩ばかりが無駄に降り積もったままかつてのあなたほど魅力のある人になっている気がしない。この世は相変わらず他人を指差して笑うような人ばかりで、殺したほうがいいようなやつがどこにでもいる。
 人生27歳で死ねるなんてロックンロールなこともなかったし、自動的に太く短く眠るように終わるなんてこともなく。憧れていた美しい死やこの世からのドロップアウトは気づけば逃げ去っていて、薄ぼんやりとした不安や恐怖心だけが手で触れるような輪郭を伴って近づいてくる。ヒトはそう簡単に死ねるものでもなく生活は続くんだな、と思います。
 あの人が生きていていたかった世界で、いまも僕は諦めが悪くてただ死んでないだけの生き方をしていることがたまに情けなくなりますよ。まあ、ぼちぼち生きていきます。せめていつか会うときまでに少し面白い奴になれていたらな、と思うばかりです。
 三十過ぎて童貞なので、とりあえず魔法使いにはなりました。


 …つい暗いことを語ってしまいましたが、聴く人の心抉る曲もあって、良いアーティストだと思います。ポップしなないで。
 ところで100%おれの思い出話のせいでメチャクチャ重たくなったこの雰囲気どうすんのかな…。まあどうもしなくっていいか。明日か明後日になればマイライフノットソーバッド……



この記事が参加している募集

私のプレイリスト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?