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施錠の強化という安全ではなく、地域の人と顔の見える関係という安全(ミノワホーム見学レポ①)

社会福祉法人愛川舜寿会のミノワホームに見学へ。ミノワホームは、1992年に建てられた従来型の特別養護老人ホーム。「従来型」とは、2・4人で相部屋として使用し、食堂なども大部屋で大人数で利用するようなつくりが中心のもの。(2000年に初めて全室個室の特養ができてからは、「ユニット型」と呼ばれる居室はすべて個室で、共有部分を10名単位の特養も増えて来ましたが、それ以前に造られた施設の多くは「従来型」です。)

“病院”、“学校”という文字が過ぎるような装いの古いハードは、見学させていただいておいて失礼だが、住みたい環境とは言い難い。しかし、ここミノワホームには、定期的に見学者が訪れ、毎年開催する納涼祭には800人もの人が集うような、地域に欠かせない施設になっている。

従来型の施設における生活の質とは何か?問い直し、日常の小さな変化を積み重ね、“特別”ではない“普通”の暮らしを追求している。そんな数々の実践は、ハードの古さと暮らしの質の狭間で葛藤する介護職に勇気を与えるかもしれない。


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到着して、真っ先に案内してくれたのは厨房。

お昼の準備真っ最中。この日のメニューはカレー。

これはミキサー食の方向けの食事。じゃがいもと人参を一旦ペースト状にした後、型に入れて見た目は普通食とほぼ同じ状態に。

ちなみにお昼にご好意でとっても美味しくいただきました。お皿は陶器のお皿で、プラスチックのお皿から少しずつ変えているのだそう。馬場さんの「いっぱい食べる女性いいよね」の言葉に乗せられ、ちゃっかりおかわりまで。笑 ごちそうさまでした。


施設を見学していると、一際目立ったファッションのおじいちゃんが声をかけてくれた。

何やら胸から取り出して、

見せてくれたのは亡くなった奥さんの写真が入ったペンダント。「わしの青春〜」なんて言いながら嬉しそうに見せてくれた。

実はおじいちゃんが身にまとうステキな洋服はすべて奥さんのもの。よく見ると爪にはネイルも。大好きな奥さんが亡くなった後、奥さんの物を身に付けるようになったそう。「奥さんのズボンはゴムでチャックがないから、社会の窓が空いたままになることもないからいいんだよ〜。笑」と私たちを笑わせながら、たくさん思い出話を語ってくれた。

“奥さんが亡くなった後に全身の洋服を身にまとう”という行為の裏側にある心の内は私にはまだ理解できないが、奥さんと素敵な関係だったこと、そして亡くなった今も愛していることが伝わってきて、なんだかじ〜んとした。

奥さんとの思い出話が尽きず、余裕で1時間話してくださる勢いだったので見学もご一緒いただくことに。笑

外を見学していたら窓からおばあちゃんが、「あの人(おじいちゃん)、また奥さんの話でしょ〜。いつもそうなんだから」と。笑 どうやらおじいちゃんはみんなに話しているようで、おばあちゃんたちは惚気話にお腹いっぱいのようだ。そんな入居者同士の関係性がなんとも愛らしくてほっこり。


特養の壁崩壊。ハンマーで壁をぶち壊したら、地域の顔が見えてきた。

2016年8月「特養の壁崩壊」と題し、施設を一周囲っていた壁をハンマーで勢いよくぶち壊す写真。Facebookでこの写真が流れてきたのをみたとき、「いいぞいいぞ〜」とどこか安心した気持ちになったのを覚えている。

なぜなら同じ2016年の夏、忘れもしない障害者施設津久井やまゆり園で19人もの人が命を奪われた残酷な事件。あの事件の後、防犯に力を入れようと防犯カメラの設置などの防犯対策に補助金がついたり、介護業界で名の通った弁護士が防犯の重要性を唱えるなど、「地域包括ケアシステムの構築」という号令のもと地域に開いていこう〜というこれまでの流れから逆行しているように感じて違和感を覚えていたからだ。

もちろん必要に応じてセキュリティは重要だと思う。だが、ほんとうに必要なセキュリティとは一体なんだろうか?

ここには、“高い壁、施錠の強化という安全”ではなく、“地域の人と顔の見える関係という安全”がうまれている。

壁があった時はここまでが地域、ここからが施設という境界が明確だったのが、壁がなくなったことで境目があいまいに。敷地内のベンチには、通りすがりの人が腰をかけて休む姿も。誰でも「座れる」この庭は「minowa 座 garden」という名。

名の通り、思わずベンチに腰をかけたくなる。座って見える景色は、

道路とガソリンスタンド。笑 目の前の道路は車が走り、絶えず人が出入りしするガソリンスタンドが向かいにあり、地域の人の目による見守りが成立する。

他にも庭にはたくさんのこだわりがある。車椅子に座ったままでも、立ったままでも土いじりできる畑。地面の傾斜を利用し、右端の高さと、左端の高さが異なり、自分の高さにあった場所で土いじりをできるのが特徴。ちなみにここに植えられている苗は近所のおじさんが定期的に無償で持ってきてくれるんだとか。

全体はこんな感じ!と全体を伝えられるような写真は1枚も撮っていなかった(おい!)ので、ネットから拝借。

「特別養護老人ホームと地域との距離を縮めるプロジェクト」と題し、建築家・社会福祉学科の学生・生活環境デザイン学科の学生などと共に、コンセプトを磨いて作ったという。地域の人を巻き込み、ハロウィン、焼き芋、流し素麺の会場ともなり、施設の敷地がまちの人の庭となっている。

極めつけは、施設の横の駐車場スーペースで開かれる夏祭り。なんと800人もの人が集うお祭りに。

伝えたいことがたくさんありすぎて、まだ庭のことしか書けていない。笑
次の記事では施設の中についても触れていきたいと思う。

ちなみに馬場さんからぜひ直接話を聞いて欲しいと思い、ゲストにお招きしたイベントを企画したので、9月29日(日)ご都合つく方は、ぜひご一緒ください。(東京会場だけでなく、大阪・名古屋・金沢でも中継会場もあります!)


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