顔のない彼ら/「女の子のことばかり考えていたら、一年が経っていた。」東山彰良著 を読んで

子どもの落書きのような絶妙な絵を描く人が往々に素晴らしいデッサン力を持っているように、阿保な物語を書ける人は往々にもの凄く頭がよいものである。

「女の子のことばかり考えていたら、一年が経っていた。」
圧巻である。タイトルがもうすでに阿呆この上ない。

主人公は有象くんと無象くん二人の大学生。彼らを取り巻く登場人物は、イケメンくん本命ちゃん八年さん温厚教授ビッチちゃんと続き、極め付けは抜け目なっちゃんだ。

この通り彼らはみんな記号であり、すなわちみんな顔がない。誰かであって、誰でも無い。

彼らの愉快で阿呆な日々は、それ故はてしなくファンタジーだ。

この物語は一見、何処にでも在りそうな学生生活をただ面白おかしく描いているようにみえる。もちろんそれは一面的にはその通りだ。
でも私には、そんな日々は何処にも無いのだという事を、筆者は描いているようにも思う。

無いからこそ描く。面白おかしく、何処でも在りそうに。

東山さんは「路傍」ではこう書いていた。
人生とはタクシーみたいなものだ。ただ座っているだけで、メーターはどんどん上がっていく。

有象無象くんは言う。
ビッチちゃんは人生は笑い事では無いからこそ、笑いが必要だと知っているのだ。

そう、この一言に尽きる。

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