バーチャルと融合し進化を始めたファッションという領域について

バーチャルガールズユニットKMNZのプロデュースをはじめてからというもの、より服について調べたり考えたりするようになった。正直大変面白い。飽きることがない。

2019年現在、服はただ身体を守るためだけに買われるもの、と考える人は稀だろう(もちろんアスレジャーのように近年、機能性特化の服の売上が急成長してることは理解している)。服ほど記号的価値が大きく影響している産業はない。

同じ素材/製法でつくってもブランドロゴマークがあるかないかで価格は大きく変わる。ファッションというのは情報産業である。服の素材、フォルム、販売主体、ロゴマーク、そのブランドが提供するイメージ、愛好する人々等、様々な情報が渾然一体となり、その情報の総体がブランドの価値となっていく。極めて社会的な存在である人間だからこそ成立する産業だ。

世界で300兆円にものぼるアパレル産業、何故人はファッションを買うのか。

所属コミュニティの表現/流行を読み解く知的遊戯として

着ている服を見れば大体その人がどのようなコミュニティに属していて、同時にどのような価値観を大事にしているか何となくわかる。民族衣装にはじまり、現代のような消費社会においては、どのハイブランドを好んでいるか、スニーカーはどのモデルを履いてるか、どのように古着を組み合わせてるかで、その人の趣味嗜好、価値観が大体理解できてしまう。

また服の流行には答えがないのも面白い。AIでどれだけ機械学習したところで、流行りはつくれない。流行は今、生きている人々が相互にフィードバックしあった集積の刹那的結果として生まれるもので、それは日々移ろい続ける。

AIによってみんなが購入するであろうデザインを見つけ出したとして、「量産系」と笑われる程度で、ファッションの先端となることは難しいだろう。(それでもビジネスとしては成立する。AIが機械学習を完了しているという時点でそのデザインパターンがレイトマジョリティに普及する段階だから。買う人は多い。しかしその時そのデザインの価値は暴落の一途を辿る。これは流行とはいえない。古い流行をAIが学習しただけである。)

ファッションを考えるというのは、人と世の中の感性を読み解きつづけるという行為である。今世界はどのような気分なのか、どのような価値観が美しいのか、クールなのか、メジャーなのか、パンクなのか。流行を読み解き続ける、価値観を問い続けるという行為は答えがなく終わりのないゲームで、だから面白いわけだ。

VTuberのブランドを着るということ

KMNZのオリジナルアパレルはオフィシャルグッズストアKMNSUPPLYで手に入れることができる。

しかし販売は常時行われてはおらず、とある1日だけ販売される。この1日だけの販売にもかかわらずファンであるHZのおかげで大きな売上になっているのだが、服を手に入れたファンの感想を見ているとああ、これがファッションの原初的な楽しみ方なのかなぁと思うことがある。

中々手に入らないKMNZの服を無事に買えて、届いた時嬉しくて写真を何回も撮ったり。KMNZの服に合うようにコーディネートを意識するようになったり。大学で着て行って友だちにほめられて得意な気分になったり。KMNZやVTuberのライブやイベントにきれいにしまっておいたKMNHOODIEを着て行ったり。着てる人を街で見かけるとああ!君も!って感じで嬉しくなったり。そうしてまた、新作の発売が楽しみになったり。

KMNZはバーチャル上の存在である。そのバーチャル上の2人の感性や世界観が反映された服をきて、リアルな街を闊歩する。KMNZというロゴマークやアートがプリントされたTシャツやフーディーをみて、そのバーチャル上の2人の存在を感じあえるHZたち。人によってはロゴマークをみただけで、2人の音楽が聴こえてくる人もいるだろう。プロデューサーという一発信者でありながら、この現象は見ていて本当に面白いしこれがファッションの可能性だなぁとつくづく感じてる。

KMNZだけに限らず、先日原宿のラフォーレにてポップアップストアを出店し、大きな話題となっている輝夜月のBeyond the Moonであったり、バーチャルねこのTシャツであったり。XXXのマークや、かわいげのある猫のイラストをみるだけで、人は彼女たちがつくりだす仮想世界を思い描ける。人間だからこそできる高度な感性だと感心してしまう。

VRoid x chloma/量産型のらきゃっとの可能性

リアルとバーチャルの関係性を常に考えるファッションレーベル「chloma」がVRoidとタッグを組み、バーチャルとリアルそれぞれに同じデザインの服を提供するという画期的な取り組みをはじめた。

バーチャル上の服というのはあくまでデータなのでデザインの制作原価はあれど、複製にあたっての原材料費は必要ない。しかし、この取り組みに未来を感じたり、純粋におもしろさを感じた人たちが、その「データ」に対し、対価を支払いはじめている。

リアルの姿と同様にバーチャルの姿も着飾りたい、もしくはリアルよりもバーチャルの方が自分にとっては大事だから、リアルクローズは買わずバーチャルクローズを買いたい。chlomaが発する価値観が好きだから、バーチャルでもそれを身につけたい。そのようなニーズが価値を持ち始めてるのだ。

 先日、人気VTuberのらきゃっとさんがBOOTHにて発売した量産型のらきゃっとという3Dモデルデータが、1000体の販売を達成したことが発表された。

これは服というよりは、アバターという形だが、これもニーズはVRoid x chlomaの例と近い。バーチャル上の見た目にこだわりたい。大好きなのらきゃっとさんのような姿に自分もなりたいというニーズの現れだろう。

chlomaのデザイナー鈴木さんがマクルーハンの言葉を引用してつぶやいたツイートが示唆に富んでいる。

まとめ

KMNZやBeyond the MoonなどのVTuberアパレルブランド、VRoid x chlomaの取り組みや、量産型のらきゃっとのニュースからわかるのは、ファッションが今新しい領域に向かいつつあることだ。それはバーチャルから発生したコミュニティに所属することや、バーチャル上における見られ方、バーチャル上での価値観の表現について、重要視する人が増えてきているということ。ここに今、大きな可能性が生まれようとしてる。

バーチャルという領域とあわさることで、ファッションはどのように進化していくのか、ファッションに求められていた機能はどこへ向かうのか。まさにバーチャル x ファッションが融合する最前線で、変わりゆく人間の価値観を考察しつづけながら、その可能性を拡張していきたい。

バーチャルとファッションの融合についてこれから色んなアウトプットや、プロジェクトを仕掛けたいと思っています。ぜひ興味ある方はTwitterフォローしてもらえると嬉しいです。


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