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映画「シング・ストリート」

ずっと観よう観ようと思いながら、なぜか先送りしてしまっていたのですが、いやまじでなんでもっと早く観てなかったんだろ。シングストリートっていうタイトルから、勝手に路上ミュージシャンの話だと勘違いしてた自分ほんとに訳わかんな過ぎるな。めちゃくちゃ良作でした。


1985年のダブリンを舞台にした音楽映画ですね。実は僕、半年ほどダブリンに住んでいたことがあって、ただただ映像を見ているだけでも、うわ雰囲気なんかめっちゃ懐かしい!ていう発見があって、そういった意味でも個人的にすごく楽しめた作品でした。住んでたくせに知らなかったんかいていう話なんですけど、1980年代のダブリンは、「どん底時代」と呼ばれるほどに不況だったようで、そこにいても何者にもなれないしなんの希望を見出すこともできないような閉塞感の漂う時代だったんですね。で、そんな苦しい時代の中で、音楽という表現を見つけた主人公が、バンドメンバー集めて、ロックで好きな女の子を落としてやるぜ!っていうお話。ざっくり言うとこんな感じなんですけど、正直本当に好きなところがありすぎて、うまく整理できそうにないです。
とりあえず、観終わってすぐに抱いた感想としては、なんかもう情けないです自分が、ということでした。僕自身、10代の時に、何か確固たる好きだっていうものがなかったなあと。全部中途半端だったなあ。部活も勉強も趣味も、全部「ある程度」でした。頑張ってたんですけどね、でも頑張ってるようじゃダメなんですよね、好きじゃないと。
好きという気持ちが全てのエネルギーの源であるべきなんです。やっているうちに、初めてそれに触れたときに感じた好きという気持ちの初期衝動がどんどんどんどん薄れていって、いつの間にか好きなのかも分からず依存していただけになっていたのかなあと今振り返って思いました。
この映画の主人公は、熱量が全てを超えていくんですよね。自分の未来を切り開くために、苦しくても無茶でも、うちから湧き出るエネルギーがあればそんなの関係ないんすよね。傷ついても、悩んでも、全部音楽に変えて、前に進む主人公の姿がすごく眩しくみえてしまいました。いやちょっと主人公、盲目的すぎるんじゃないのって感じもしましたけど、それこそがこの映画が伝えたかった、未来に進むための強い意思の一貫性みたいなものを表していたのかなと思います。

個人的ベストシーンは、両親の別居が決まり、部屋で兄弟が話すシーンですね。2人とも、もう嫌なんです、家庭環境とか不況とか、自分じゃどうにもならないことに振り回されて、でもそんな中で、弟は音楽をやることで何かが変わるって信じてる。兄はそんな弟のある種の純粋さに少し苛立ってしまう。兄だって、何かを変えたいのは一緒だからです。「おまえのくだらないギグを観て、あの両親が変わるのか?」と、言いたくもないことを言ってしまって、そしてそれもすぐにクスリをやめてる禁断症状のせいにして。

「なぜクスリをやめてるの?」
「人生をやり直すためだ」
「いまさら?」

この兄のような状態の人って多いと思います。自らの不遇を嘆き、過去の栄光に浸り、クスリもやめられない、自分でも情けないなと思いながらも、そんな現実から逃げるように、好きな音楽を聴くだけの生活を送る。自分が進めなかった先の人生に弟が歩み始めている姿をみて苛立ってしまう、そしてそんな自分にも嫌気がさしていたと思います。でももう何もかも遅いんだよなって思っちゃうんですよね。大学は中退したし、弟の方がもうギターは上手いし、今からおれが何かやるって、いや無理だろって。何かをしたいのに何をすればいいのか分からない。大人になると、ブレーキがかかるんですよね、何するにしても。踏んでしまうんです。踏まないとダメだと思っているから、踏みたくもないブレーキを。そして、前に進まないことに苛立つ。ブレーキを踏まない勇気がでないから、全部苦しくなって、時間だけが進んでいくんですよね。
周りと自分を比べて、理想と現実を比べて、過去と現在を比べて、憂う。観てる僕自身、このシーン辛すぎて、じゃあもう全部どうすればいいんだよって叫びたくなりました。
そして場面は変わり、新曲のMVを撮影するシーンでした。『Drive it like you stole it』です。約束の撮影開始時間に現れない彼女、そんな中スタートした撮影でしたが、曲の冒頭で、映像が主人公の妄想に移り変わるんですね。そこには、美しい彼女がいて、頼りになる兄がいて、仲の良い両親がいて、理想の空間でした。正直、この演出は、この曲を最高に魅力的に届ける視聴者プレゼントみたいで嬉しかったです。本当に最高なんですよね、あの映像と音楽。演奏終了後の理想と現実のギャップを表す演出なんでしょうが、凄く良かったです。この曲、本当に1番好きですね。歌詞みてください。

This is your life,
you can go anywhere
これは君の人生
どこでも行ける
You gotta grab the wheel and own it
ハンドルを握って
かっ飛ばせばいい
And drive it like you stole it
アクセルを踏め

良すぎません?ほんとおっしゃる通りなんです、嘆いたって喚いたって仕方ないんだから、思いっきり前に進もうよ。自分の居心地の悪さを、変えられるのは自分だけなんだから、必要なのはブレーキじゃなくてアクセルなんだよ。的なね。

いや、それが出来たらこんな苦労しねえんだよ簡単に言ってくんじゃねえよっていう思いも一瞬頭をよぎりましたけども。でも絶対に人間として備えておきたいマインドですよね。大抵のことなら乗り越えられるような気持ちが湧いてきます。

あと個人的には、兄弟のシーンが魅力的で好きでした。兄が弟へ音楽や恋について助言をするシーンが何回か出てくるんですけど、それが全部いいんですよね。側から見れば、引きこもりでニートの兄が、キラキラした弟に偉そうにアドバイスしているようにも見えるんです。でもなんでこんなに、芯を食った良い助言ができるんだろうって考えたときにやっぱり、このお兄ちゃんが失敗してるからなんですよね。世の中では、成功者の言葉や習慣などが多々取り上げられているような気がします。成功者に習うことこそが美学と。もちろん大事です、ただそれと同等に価値があるのは失敗した人の言葉でもあると思うんですよね。弟には自分のようにはなって欲しくない、だからこそ自分が知りうる正解は教えてあげたい。自らへの後悔と弟に対する愛情とか、もしかしたら嫉妬もあるかもしれません、色々な感情が混ざり合った凄く良い助言でした。そして、そんな兄を尊敬している弟だからこそ助言を素直に受け入れられる。この関係性が良かったなあと思いました。僕自身も4つ上の兄がいるんですが、ちょっと歳の離れたお兄ちゃんて本当に自分の知らないものをたくさん知ってるし、同世代の友達とはやっぱり全然違うからかっこいいんですよね。うちのお兄ちゃんからも、小さい頃、音楽とか漫画とか色々なものを教えてもらいました。知らない世界を知ってるんですよね。
完全な余談なんですけど、僕が中学生になってゴリゴリの体育会の部活を始めたときの話です。その年、兄は高2になりました。めちゃくちゃ仲が良いわけではないですが、まあ僕としては普通に色々なものに詳しい兄のことは慕っていました。しかし突然、兄の部屋に2次元美少女の露出多めのフィギュアが飾られだしました。え??お兄ちゃん?えっ?兄の急な路線変更に戸惑いを隠せずにいると、いつの間にか壁は一面肌色多めのポスターで埋め尽くされていました。兄は完全なるアニメオタクになりました。小学生の僕に、BUMPOFCHICKENの良さを熱く教えてくれた昔のお兄ちゃんはもうその部屋にはいませんでした。
もうこいつから教わることはないなと気づいた中1の夏です。実際の兄弟ってこんなもんすよね、共通の趣味がないと話すことないっす。
だからこそ、この映画が描いた兄弟の形は素晴らしくて、羨ましく思えました。

話それましたけど、アーティストとかの持つ、この0から1を生み出し、それを届けるというこの一連の行程、かっこよすぎません?自らの傷から得た気付きを、音楽という形で表現する。音楽映画ってこういうとこ、痺れさせてくれますよねえ。芸人さんとかも、自虐でもなんでもネタにして、笑ってくれればそれでいいみたいなスタンス、かっこよすぎるんですよね。ゼロから何かを生み出す、創作をする人たちへのリスペクトは一生忘れてはいけないなと、良い物を見たあといつも思います。


他にも好きなところはあるし、書き切ろうと思ってたんですけど、noteまだ慣れてなくて、下書き保存ミスって結構消えちゃってもう萎えました。最後に、この映画を観ていて思い出した好きな本を紹介します。大槻ケンヂさんの『グミ・チョコレート・パイン』という3部作からなる自伝的小説です。こちらも高校生がバンドを組むというお話なんですけど、この映画とはまた違った角度から、「好き」という力が持つ原動力の強さや自らの手で人生を切り開いていく姿勢というものが感じられると思います、お薦めです。




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