僕も君も『バケモノの子』なのかぁ?

細田守監督の作品は好きでよく見ていたのだけれど、『バケモノの子』はタイミングを逃して劇場では見れなかった。つづくテレビ初放送も見れなかった。でもブルーレイも出たことだしということで見た次第。

全てを盛り込むとこうなる。

『バケモノの子』は親に捨てられ妖怪に育てられた男の子の物語だ、といっていい。実際には九歳から一七歳までの成長を描く物語で、幼年期から青年になったり、二時間ちょっとの映画だけど見所はかなり多いほうだと思う。

短いシーケンスでは旅もするし、廻りのバケモノーズもけっこうなかなか可愛かったりかっこよかったりで個性的。そしてこの手の異界ものにありがちで説教くささもなくはないけれど、自然と諭すようなやさしい語り口だ。

そして女子高生も出てくる。刀を使ったバトルがあって、渋谷の町を全力疾走もする。渋谷の町と、その裏側にある異世界という設定も魅力的だ

細田作品のモチーフである「実の親と仮の親」の話もよかった。受験勉強も出てくるし、あとは巨大な人間の心の闇との戦いもある。これだけ盛り込んだのだ。

当然、何がなんだかわからなくなる。

それでも本作はかなり善戦した作品だと思う。ベタにつぐベタというか、お約束の胸熱の展開が続く後半は、前半で感じた声と絵の相違に起因する強い違和感もなくなり、適切とは思えないCG表現や「ラスボス観」の薄さを含めても感動的な、というかいやでも感動するような作りになっている。

そうはいってもなかなか「よかったよ」と言いづらいのは、一重にこのごちゃ混ぜがあわさって

それがなんなの。

っていう気持になってしまうからだ。この案配は難しい。難しいが、かつての細田作品(『サマーウォーズ』とか)は、「細かいところおかしくない?」だったのが、今作ではテーマそのものが拡散しすぎて「だからなんなの」という気持ちにさせてしまう。それはベクトルの違うかもしれないけれど、僕はどちらかというと前者の感覚―こまけえことはいいんだよ!―に強いシンパシーを覚えていたから、テーマそれ自体がブレてしまうことは細田作品にあった気持ちよさをがくっと減らしてしまったように感じられたのだ。

もう一つは、演技体と絵の乖離がどうしても埋められなかった。細田顔という表現があるのかないのか(ない)わからないのだけれど、驚いて「ふああああ」となるどくとくの顔が細田映画では特徴的である。と思う。これは焦りや衝撃を描いてあますところがないけれど、『バケモノの子』ではあまりに多用しすぎていて、その表情と声とシーンがあってないんじゃないかと思う所がかなりあった。異界に初めて紛れ込むシーン。稽古を付けてもらったときの顔。

でも不満なんかないよ。

でも不満なんかないよ。僕がつまりこの作品が、ほかのすべてと同じように完璧ではなかった。そのことに対して理不尽に失望したってだけなんだよ。みんなは違う感想を思うだろう。はじめてみた映画がこれだという子供も。アクションもかっこよかった。相撲をとるのもよかった。人が見にくい生き物だということもわかった。女子高生は正義だということも。父親や家族との時間は簡単に埋められないということも間違いない。

象徴的な作品だと解釈することも出来る。ベタに気持ちのよい親子愛の作品だとも言える。そういう映画だよ。『サマー・ウォーズ』は政治家がネット社会の勉強にみてたらしいけど、ありゃあ夏休みに子供といっしょに見に行くべき映画だ。だからこれも、リラックスして、お茶でも飲みながらゆったり見るべきなんだ。



昔のことや未来のことを考えるための、書籍代や、旅行費や、おいしい料理を食べたり、いろんなネタを探すための足代になります。何もお返しできませんが、ドッカンと支援くだされば幸いです。