中野で姫ちゃんのリボンを探した話。

ちょうど10年前に、中野で姫ちゃんのリボンを探した。ぼくはバカなだけの大学生だった。

大学生の頃には、高校生では考えられなかったぐらい、いろいろな人と会うものだ。そのうちの一人が、彼女だった。

恋人ではなかった。彼女には年上の恋人がいた。その子とは一緒にオタオタしい話をしたりアニメを見た感想を言い合う程度の仲だった。ある日、なぜか姫ちゃんのリボンの話になった。僕は姫ちゃんのリボンをちゃんと読んだことがなく、しばらくしてから全部読んだ。

全然関係無いけどサントラは名盤だった。

「姫ちゃんのリボンの、リボンがほしい」と彼女は突然いい、なぜか中野まで姫ちゃんのリボンのリボンを探しにいった。

僕は姫ちゃんのリボンのリボンがどういうものかわからなかった。「パラレル・パラレル○○になーれー」という動作や所作のどこにも、その秘密の道具が「りぼん」である必然性はなかった。

中野ブロードウェイの中は今よりも、もっとずっと猥雑でいい加減な空間だった。ゴミを売っているのか宝物をうっているのか理解できなかった当時の僕は、ゴミと宝物を必死で峻別しようとしている大人たちは不思議な生き物に思えた。

おもちゃは不思議なものだと思った。

結局、姫ちゃんのリボンのリボンは見つからなかった。
どんなものか、そもそもうっているのか売っていないのかすら分からなかったのだ、見つかるはずがなかった

中野ブロードウェインを後にして、近くをぶらぶら歩きながら、その子は突然「選ばれたかったな」と言った。僕は、誰に、どんなふうに選ばれたかったのか分からなかったから、少し曖昧な返事をした、と、思う。

「レイアースみたいにさ、誰かに選ばれて異世界の平和とか取り戻したいなって思うの」

「死ぬかもしれないじゃん」と反射的に答えた。

「死んでもいい」

と耳に残るぐらい強い言葉で彼女は肯定し、それから「でも最終的にはいろいろあって仲良しの子たちと一緒に生き返って地球で楽しくくらす」といった。なんじゃそりゃ、と思った当時の僕を、今なら殺すことが可能だった。

姫ちゃんのリボンのリボンはみつからず、中野でパンケーキを食べてから、小さな宝石屋にはいった。僕はとくに理由なく「ひとつ買ってあげる」といった。そして一つ、小さなイヤリングを買った。

それを身に着けているところは結局、そのあと見ることはできなかった。

僕はバカなだけの大学生だったのだ。それ以外のなんの取り柄もない無力だった。

「わたしね、お父さんがいないの」と彼女はいった。

僕は「すまない」と謝った。いいの公言してるし、と彼女はいい、生活にも困っていないと言っていた。僕はもう一度すまない、といった。彼女が「選ばれたい」という願いと、「父親がいない」という現実は、僕には見えない複雑な糸で結び付けられているように感じた。その日の空はやけに高かくて呆れるほどの快晴だった。快晴は見上げたくなる不思議な引力をもっている。

その子の名前が思い出せなかった。ずっと思い出そうと思っていたが、思い出せなかった。

今頃結婚して幸せに暮らしていてほしかった。もう二度と会うことがないだろうと思う。でも出来ることならば、子供は2,3人にいて懐かしアニメで子供にレイアースを見せているようなお母さんになっていてほしいと思う。そうしたテンプレートな「女の幸せ」が彼女の望むところかどうかは知らない。


しかしそれからずっと姫ちゃんのリボンを僕は探しつづけていた。

姫ちゃんのリボン、のリボンか。

全然関係無いけど、アイキャッチも可愛かった。

姫ちゃんのリボンのリボンは見つからなかった。姫ちゃんのリボンは続編が怠るい物語になっていて、なぜ姫ちゃんのリボンがあんなに面白かったのかは理解できなかった。

幸せについて考える。

それと、見えない糸について考えてもいる。

古川日出男の小説だったら、もう僕は死んでいただろう。第二章までたどり着くことなく殺されていた、いや、燃やされていただろう。モー娘。

**

今日は昨日にひきつづいて、ひどく体調が悪くて医者にいった。医者はかかりつけのヤブではない全然知らない医院だった。そこでは全然違う処方箋をもらって、ストレスを減らすように言われた。それは不可能だった。

ストレスという言葉の裏側にはつねに変身がついてまわると思う。自分の境遇をすり替えることができる力が「ストレス発散」というものだった。ストレスは見えない力だった。不可視の暴力でもあった。

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