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シン・ゴジラ全盛期だからこそドラゴンブレイドが傑作だったという話をしたい。

シン・ゴジラをみて「傑作だった」と言わない人は居ない。だってもう予告編からして面白そうだったし、とにかくもうめちゃくちゃ面白かった。歴史に残る傑作だ。

でも一方ですごい傑作だったのに忘れ去られる作品もある。

それが、ジャッキー・チェン主演『ドラゴン・ブレイド』だ

http://dragon-blade.com/#topPage

『ドラゴン・ブレイド』は2016年公開の映画、7月にDVDとブルーレイが発売された。撮影期間なんと7年。総制作費は80億円。ジャッキーが「成龍」を襲名した40周年を記念する超大作だ。

日本でも「王様のブランチ」他で一瞬だけとりあげられたものの、多分「なぜジャッキーがローマ兵と戦っているのか」「あのへんてこな衣装はなんなのか」「ファンタジーなのか」「それにしてもなんなのか」とあらゆる点で意味がわからず、意味が分からないまま公開されて忘れ去られてしまった

ところが、どっこい超傑作である。

どこが?

1.東洋と西洋がごっつんこ。

 ドラゴンブレイドの舞台は古代シルクロード西洋と中国の境界。そこに迷い込んできたのはローマ軍の落ち武者達。東洋と西洋が出会う場所は東西を遮る要塞だった。そこは建築途中のままで各地の犯罪者たちが強制労働に従事している場所だったのだ。

東洋と西洋。シルクロードは両者が出会うもっとも自然な場所である。

侍と騎士がバトッているバッタもんとは大違いである。徹底的に拘りをもって作られた美術や衣装は、リアルではないが、とにかくかっこいい。中国系やモンゴル系のみながず、中東、アラビアの民族も多数登場する。どれひとつとってもすごいリアルではないけれど、そこはかとなくイスラム教徒であることを示す記号があったりする。しかも全員めちゃくちゃかっこいい。

2.建築映画である。

なぜかローマ兵たちと共に建築を始めるシルクロードの犯罪者たち。これは超壮大な建築映画である。建築に一年以上かかるという砦の建築設計を、ローマ人たちの技術をもってすれば、わずか15日間で終わらせられるという。そのシーンがすごい。ローマ人たちが東洋人たちが知らなかった様々な建築機材を設計開発し、小石を鉄柵にいれて補強材にする。鉄檻を巨大な重機で持ち上げて上に次々と運んでいくシーンは、建築映画好きならばちょっと看ただけでも胸が熱くなるシーンだろう。

3.異文化コミュニケーションである。

突然ジャッキーがシルクロード警備隊のメンバーに「訓練だ」といって演舞を始めるシーンがある。非常にジャッキーらしい少林寺拳法を主体にした派手で動きのある演舞があり、そのあとになぜかローマ人たちが長槍と重楯をもって陣形をたもち、それからお互いに模擬実戦をする。このシーンも見応え抜群だ。ジャッキー以外の俳優達の演舞が見所になっていくところは、そこはかとない寂しさを感じるけれど。

 このあと、無事に砦を完成させた暁に、宴会が開かれ、ローマ人軍人たちがいきなり歌い始めるところがあるんだけど、それをしんみり聞いているみんながかわいい。

4.ジャッキーが自分の老いと戦う物語である。

 そして一番の見所はやはりジャッキー・チェンのアクションである。ラストシーンはローマ人となったジャッキーが自ら敵の総大将と一騎打ちをするんだけど、そのシーンは以前のキレキレの動きをしていた彼をみていた者はみな「もういいよ! 十分だよ!」といいたくなるような、なんというか、そういうシーンだ。ジャッキーが「成龍」を襲名から、40年を記念した作品ということはそれだけの年月を送ってきたということなのだ。

5.みんなみてね。

という映画なので、史実だと思ってみると世界史が消えるような気がするけれど、ジャッキーがみたかった理想の平和な世界はこういうところだったんだな。こういう様々な人種が入り乱れて、しかしそれでも何かで結びつけられるような世界を描くようになったのはハリウッドに進出したことが大きかったんだろうと思う。

一方で、ここ十五年ぐらいで中国映画、香港の映画シーンも大きく進んだ。とくに衣装や小道具、大道具の使い方がもう80年代とは全然違う。色鮮やかで豊かな世界を時代劇だろうと現代劇だろうと最高に描き出していくのだ。シルクロード警備隊の軽やかな革鎧と、ローマ人たちの重厚な鉄鎧の対比も美しい。

話は正直めちゃくちゃだけど、そこがいい。それがいい。その世界に浸らないで2016年の映画シーンは語れないぞ!(たぶん)


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