見出し画像

浅っさい政治系トークで男らしさみせちゃう系カレシをもつ君へ

カレシが彼女に「都民ファーストの会」について延々話しているシーンを見かけた。

具体的には豊洲と築地について、築地から移転しないことの利を蕩蕩と語っていた。

あまりにも熱心に語っていたので、カレは魚の卸売業者なのだろうと思った。ちょっと昔の渋谷のどこにでもいるようなチャラッとした若者で、おしゃれでもかっこよくもなかったけれど、魚に対する愛は深いのかもしれなかった。

彼女はそれをふーんと聞き流していて、しかし妙に関心していたようにも思った。重たそうな荷物をもった量産型の大学生で、きっとクラスでも上手にやっているのだろうと思わせた。僕はその二人をほほえましく見ていたが、スターバックスコーヒーのトールサイズは体調不良の博士にはあまりにも重すぎた。

突然カレシが「仕事」といって立ち上がり、お互い手を振って分かれた。彼女も一緒にでていくのかと思いきや、やはりトールサイズのコーヒーが飲みきれないようだった。飲んだらいくから、といって、さっくり別れ、一人きりになった彼女は、アンソニー・ギデンズ『社会学 第五版』を読み出した。

アンソニー・ギデンズ『社会学 第五版』(超分厚い)である。

しかもあろう事か、彼女はノートを取り出し、小さなA5ノートにメモを取り始めた。僕は驚きのあまり卒倒しかけてしまった。A5ノートにギデンスの言を書き写す女性がこの世界にいた(いて当然なんだけど)ことにあまりにも驚き、しかもそれが先ほどまで築地の魚河岸と覚しき男の恋人であることに驚天動地の感慨をえたのだ。そしてなんだか悲しくなった。きっと魚河岸ではないカレシは、ただただ自分の知性を見せびらかすために、彼女が興味がさしてないであろう(もしかしたらあるとしって、彼女に話題を会わせるために築地トークをしたのかもしれない)都民ファーストトークをしていたのかもしれない。

*****

ちょっと前に、経産省の若手(と東京大学)によるプレゼン資料が話題になった。実際に話題になったのは、自民党政権下ではほぼ不可能に違いないその中身ではなく「不安な個人、立ちすくむ国家」というスローガンのほうだったろう。

不安な個人、立ちすくむ国家。

たぶん、こんな情けない言葉を戦後に吐いた思想家はいなかったんじゃないだろうか、と今ぼんやり思っていたけれど、耳障りがよくて不思議とよさげな雰囲気がある。実際流行った。僕を東京都最低時給でこき使うアルバイト先の上司もまた「不安な個人、立ちすくむ国家」という言葉をことあるごとに吐いていた。

とくに女の子に向かって。

よく分からないけれど、女の子はみんな誰一人政治に興味が無いような気がしている。というより「政治」に興味をもったら女の子ではなくなってしまうような気がする。そういうことをいうと腹に毎秒1030Mhzでパンチを打ち込まれても仕方ないと思うけれど、そう思っている男は多いと思う。

女性は知的な男性よりもワイルドな政治性をもった男が好きだと思う。

これも偏見だがそう思う。

そう思っている男子は、女性にたいして知的マウントをとるために政治トークをする。

してしまう。

してしまったときに、「不安な個人、立ちすくむ国家」と言ってみたくなる。

どんな顔をするのだろうか。と期待しながら、「え、なにそれ?」みたいな、「むずかしいはなしするのかな」みたいな、そういう事をいうのかもしれなかった。

でもそうじゃないよね。たぶんそう言われたら女性は意味も無く、というか強烈な感覚をもって「イラっ」とするはずだ。

でもたぶん、男の子はその「いらっ」のほうが理解できないだろうと思う。もしそんな男にあったら、政治トークをしないでほしい。さして知らない自民党会派の話とか、政治哲学における党議拘束の由来とか、パーティ券の値段とか、そういう政治的な話はもうしないでほしいのだ。ただ、かわいくこう言って欲しい。

「ばか、しね」って。

やさしく、「ばか」って。

そういうことばに男は萌えるのだった。それが君のカレシであればなおさらだ。そういうコトでよろこんでしまうような男が政治を語るわけがなかった。ただ、「立ちすくむ国家」になってみたいだけの、バカな男はバカなのだった(この記事もそうしたバカな男の視線によって書かれていま


昔のことや未来のことを考えるための、書籍代や、旅行費や、おいしい料理を食べたり、いろんなネタを探すための足代になります。何もお返しできませんが、ドッカンと支援くだされば幸いです。