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ふたりはPre-cure:秘技!ハートフェザー!


前回


『俺はじきに死ぬ 俺この踏みにじったクソ社会を一矢報いたい 明日 新宿駅で人を手当たり次第刺す 覚悟していろ』

 ツイートを送信し、スマホを残したまま家に出た。今ころRT数が万超えて炎上してるかな?どうでもいいことを考えながら、駅を歩いている。モッズコートの下は汗で蒸れている、緊張でなんとかなりそうだ。コート越しに、俺は腰に帯びているボウイナイフの柄の感触を確かめる。

 一ヶ月前、胸焼けがひどくなったので一回病院で検査を受けた。酒のせいで胃が不調だと思ったが、検査の結果を知った俺は検査報告を破り捨て、しばらく突っ立ていた。三期の食道がんだってさ。

 その時頭に浮かんだのは、親の顔でも、気になる女性同僚でもなく、中学に時俺をいじめたブーリー共の顔と、あの時から培った、幼稚で馬鹿げた願望だった。

 殺したい。俺をなめた奴と、そいつらの存在を許す社会を、ナイフめった刺しして出血死させたい。

 いつの間に俺はバタフライナイフを買い、体を鍛え、ブーリーどもを皆殺しにするための計画を立て始めた。雰囲気が変わったのか、それ以降はブーリーに遭うことがだんだん少なくなり、俺は体が締り、自信がつけ、当初の憤慨を忘れて快適な学生生活を過ごせた。しかしあの時植えた歪の種が緩慢ながら着実に成長し続け、心の隅に潜んでいた。

『やるのか?』

 中坊の俺が問いかける。あの頃は顔がはウシガエルのように腫れてて、とんでもなくダサかった。その目は怒りに満ちて、仄かに輝いている。

「ああ、やろう。遺憾を残さないために。治療などはあとで考える」『そうこなくっちゃ』ウシガエルが欠伸するかのように笑う中坊の俺は抱きしめた。中坊のマインド、大人の知力と体、なんでもできる気がした。

 ところがいざ行動に移すと、そううまくいかないものだ。もう駅の中を三周ぐらい巡回したが、切り刻んでもいい奴がなかなか見当たらない。『ふざけんなよ腰抜け!お前はいつもこうだ!肝心のとき役に立たねえ!』中坊の俺が俺を罵っている気がした。

Sami:ターゲット発見。オーカー色のモッズコート、ヴィジョンと一致している
Crayton:Got it。今からそっちに合流する。

 周りを見渡すと、営業らしいスーツ姿のサラリマン、放課後でもないのに制服姿の学生、トランクを引きずっている老夫婦、観光パンフレットを見る太った白人男性、どいつ殺意が湧かない人畜無害な顔している。もう心のどこかで帰りたいと叫ぶ自分がいる。やはり俺はサイコキラーにはなれない……家に帰って風呂入って、それから実家に電話を……

「あおっ」「ってぇ!」

 左肩が何かにぶつかり、転びかけた。

「いってえなおい!」

 振り向くと、黄色と黒の格子シャッを着たソフトモヒカン男がいた。小洒落た顎ひげ、首の付け根に何らかのタトゥーが覗かれる。いかにも悪そうな出で立ちだ。

Sami:インシデント発生。人とぶつかった。早急介入必要性
Crayton:早まるな

「あっ、すいません……」「ボーとしてんじゃねえよクソが」

 お男はそう言い、元に向かっている方向へ進んで行った。何だったんだ。なぜ俺はあいつに謝る必要があった?あいつに非がないのか?なぜ大人しく謝った俺にそれ以上に凄んだか?

 納得できない。屈辱が怒りに変わり、心臓に燃料を送る。俺は右手でナイフを抜き、逆手に持って刃をコートの袖で隠した。『みつけた!殺しがいがある奴!』中坊の俺は興奮している、俺もだ。さっきまでの躊躇はまるでウソのように簡単に捨て去った。アドレナリンの分泌で人が倫理と道徳を全部構わなくなるって聞いたけど、同じ現象が俺に起こっているのか?すげえじゃん。

Sami:ターゲットは動き出した。迷った外国人観光客プランで行く
Crayton:無理するな

 男の背中を向けて距離を詰める。喜べよ、おまえと俺の名前がこれから数日、嫌になるほどニュースで読み上げられるぜ?最初は古典のヤクザ映画みたいに腰の後ろから一発くれてやるよ!どんな表情をみせてくれるかな……

「ヘイ!ヘイサー!メイアイアッスクユーサンディン?」

「は?」

 突如、俺の前に中年の白人男性が現れ、道を塞いだ。なんだこいつ。

「アイサボーストゥミートマイフレンアットヒガシグチ、バットアイジャストウォークアラウンドアンドアラウンド」

「そ、そーりー、ばっとあいきゃんのっと……」これは困った。俺の英語は大部の日本人と同じ、つまり上手くないのだよ。

「ディストレーンステーションジャストライカダンジョンユーノー?フービルドディスアクショリ?ユーノーワットアイミーン?」

「あー、あいりありーどんとのー……」まずいな、ギャング風男の距離が離れてゆく。ていうか道を尋ねるのなら観光案内所にでも行けや。

「ダッツファイン、メイユージャスト……メイカPINオンマイマップ、ソーアイキャンゲットデア」

 外人はスマホを取り出し、Google mapの画面を見せた、ニシグチにPINを刺せばいいだな。ポチッと。

「オオ!サンクス!サンキューサー!メイアイバイユーアコーヒーとアプシエイトユー?」

 いま、コーヒーって言った?何がしたいんだこいつゥ!?

「いや、もう行かないと……」

 外人の横を通ろうとした、だが。

「ノー、アイリッシスト。プリーズ、アイワントゥリペーイフォーユアカインドネス」

 俺の行くてを阻むように、両手を開いて道を塞いだ。ギャング風男の後ろ姿が見えなくなった。

 ふざけんな!何をしてくれたんだ!せっかくの覚悟と高揚感が台無しじゃないか!スマホがあれば直接Siriとかに聞けばいいじゃん!どうしてくれんのこの白豚野郎!Fuck you!

 白豚はまた何かを言っているように口をぱくぱく開閉しているが、まるで聞き取れない。怒りが込み上がり、思考が短絡てきになった。もういいや、目標がおまえにする。隠していたナイフをくるりと回転し、順手持つであいつの腹を思いっきりブッ刺した。切り先が奴が着ている羽毛ジャケットを突き破る。ゴッ。

 ゴッ?

「ウッ!」

 ナイフを受けた白豚は前屈みになり、手で刺したところが覆った。しかし妙だ。ナイフが接触したとき、固い物に当たったような感触だった。練習でロース肉を刺すときの感触とは全く違う。

 まあいいや、どうせこれからは頸動脈を裂いて確実に仕留めるからよ。俺はナイフを握りしめる。周囲から「おい、なんかやばくね?」「どういう状況なんだ?」「警察を呼ばないのか?」の声が聞こえてくる。おう、そのまま見ていてくれよ。こいつを始末したらおまえらの番だからな。肘を後ろに引いて、白豚の首に狙い定め……

「ぐあーっ!?」

 何が起こった!?一瞬に肘が後ろに引かれると、信じられない痛みが走り、ナイフを落とし、右腕が背中に極められ、壁に押し付けられた。

「いったい!痛いんだよ!離せおら!」「ああ、離すとも」

 背後から低く、力強い男の声が聞こえた。キララーンとナイフが床を擦る音がした。

「ほら、縛ってやるから左手も出せ」「だれがあんたの指図なんか……」「そうか」「ってぇぇぇー!!わかった!わかったからもうやめてくれ!」

 両手ともプラスチック手錠をかけられ、ようやく苦痛から解放された俺は振り返り、俺を止めた奴の顔を見た。なんと、こいつも白人の中年男性だったが、禿げ頭と口髭、服の上からでもわかる強張った筋肉。まるでスーパーヒーローみたいな風格だ。

「このまま大人しく警察が来るまで待つんだ。いいな?」「あっ、はい」

 男は訛りのない標準語でいった。その口調に有無を言わせず迫力があった。


「サミー、無事か?」

 未だに片膝立ちで刺された部分を手で覆うサミーにクレイトンは尋ねた。

「ええ、無事さ、きみが来るのが早かった。そして」サミーはゆっくり立ちあがり、羽毛ジャケットのジッパーを下ろした。「さあやのおかげで、無傷で済んだよ」

 なんということか、その羽毛ジャケットの裏側に、ガシャポンから出たキュアアンジュ、即ち薬師寺さあやの缶ミラーが鎖帷子のごとく縫い付けられている!これがPre-cureアーマー、ハートフェザーなのだ!

「おまっ、本当にそんなもんを着て来たのか……事情聴取の時は友達ではないと言っておくからな」

「クレイトン、きみはわかってない、プリキュアグッズを身に着けるだけで、僕は想像以上の力を発揮するんだよ」サミーはさっきの突きで破損したキュアアンジュウ缶ミラーを撫でて、ジッパーを引き上げた。「とにかく、これでPre-cureは円満に完了だ。グッジョブ」「グッジョブ」

 ふたりは拳を叩き合わせた。

プリッキュウゥゥーオッ!(場面転換)

「ふぅーん」男子トイレの個室の中で、アップルグリーンの短髪を被った褐色肌の女、イッジェクトが声を立たずに欠伸し、アンモニア臭の空気を肺一杯に吸い込んだ。以外と嫌いではない。

 クレーメンスがしめした内容によれば、今回のターゲットは犯行を行う前に一回トイレに立ち寄ったから塵に返すのならここが最良の場所だと判断し、待ち伏せしていたが、30分経ってもターゲットが現れなかった。何かおかしい。クレーメンスの碑文は最近信憑性が下がっている。このままではPRE KILL部隊の威信が保てないーーと金髪の筋肉だるまオフェンシブが言ったが、イジェクトは正直それほど心配していない。

 自販機で購入したチョコ味のビスケットを一つ摘み、口に放り込む。未来ではココアが絶滅した、そのためイッジェクトは任務に出る度は必ずチョコのアナックを買うようになったいる。そうだな、もしこのままPRE KILLができなくなり、部隊も解散されたら、もう二度とチョコを味わうこともないだろう。それは少し困る。しばらく思案し、イッジェクトはビスケットのボックスをもって個室に出た。

「うおっ、ちょっ!?」

 小便器の前に立っている若いサラリマンが急に個室から現れた女に訝しんだと当時に、何とも言えぬ違和感を覚えた。女は上半身に軍服風のジャケットを着ているが、その下は体のラインにピッタリのボディスーツに覆われ、まるでコスプレみたいな格好だ。そしてその髪の色、キャンディみたいな鮮やかな緑。髪の毛だけではない、眉毛と睫毛も同じ色だ。そこまでするコスプレヤーが居るのか?しかしあの女、緑色によく似あっている、不自然なのに似合っている。まるで生来から体毛が緑色だったようだ。こんな人間がいるのか?サラリマンは排尿は既に終わったにも気づかず、女のことで頭がいっぱいになった。

 トイレの外は騒いている。イッジェクトは目を高速に動かせ、情報を読み始めた。どうやらターゲットは一分ほど前に、現代の警察に確保されたらしい。

「ほう」

 ビスケットのボックスを放り捨て、ステルスモードに入ったイッジェクトは通行人を避けながら騒ぎの中心に歩いていく。駅内の通路で、警察に取り押さえられるモッズコートの男と、警察と会話している二人の白人男性が居た。一人は屈強なスキンヘッドマッチョマン、もう一人は昔のドラマの脇役みたいに太った中年。

「ほっほー、これはこれは……」イッジェクトは視線をサミーに定め、スキャンをた。

[微量タイムジュースを検知]

「なるどど、君だったねぇ。クレーメンスの碑文を乱したのは」

 イッジェクトは妖艶に舌で唇を舐めた。ステルスモード故に見た者は一人もいない。

Pre-cure! Two guys are Pre-cure(Pre-cure!)
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