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ジ・エンド・オフ・コーン・ウォー END

「なんだあれ!?」「車を止めろっ!」

 略奪品の冷凍トルティーヤ、コーンフレークス、ドリトス、コーン髭茶パッグなどのコーン製品を載せたトラックを運転している原コーン派戦士は目の前に迫ってくる災難映画めいた砂塵の波を目にし、ブレーキを踏んだ。キューギギギギー!アスファルトがタイヤを削り、長い黒い線を描いた。運転手はハンドルにしがみつき、助手席の男はアシストグリップを必死に掴んで「ハイレコーンセイコーンハイレコーンセイコーン……」とコーン神への祈りを呟きながら爆風が去るのを待った。車体全体がガタガタ震えている。およそ88秒後、風が止まった。二人は恐る恐る互いを見、車から降りた。

「ケッホ、ケッホ!何が起きたんだ?」「おい、あれを見ろよ!」

 二人は目的地であるカスティーヨの方向へ見やった。まだ土煙が舞っているカスティーヨ残骸上空に、長さ100m超のシガー状物体……いや、巨大なコーンだ。一日一コーンの教えをしっかり守っている二人は直感で分かった。色が鉄鉱石みたいに黒ずんでいるが、あの形は間違いなくコーンだ。

 ゆっくりと巨大黒コーンの葉っぱの部分が実ったばかりのコーンみたいに緑色に変色し、展開していく。中から現れたのは……おお、何と!上質のコーンみたいに金色に輝く女巨人である!コーンの葉っぱがスライドして彼女のマントになり、コーンひげめいて頭髪は戦士の三つ編みを結んでいる。金色の肌はクラスジェムコーン模様の薄いドレスに包まれ、露出している肩以下の逞しい両腕はヘビのタトゥーが纏わりついている。女巨人は目を開き、周囲を環視した。

『吾が名は、ケツァル・コーン・アトル』

 彼女は口を動かずにしゃべった。その声を全身で受けた原コーン派戦士たちは電撃が走ったかのよう体が震え、その場で跪いた。これが彼らは待ち望んいたもの。教祖サーモンライズが言っていたコーン神再来の日!それが今日!

「嗚呼……!ケツァル・コーン・アトル様ァ!」「ケツァル・コーン・アトル様が我らの祈りに応じて、この地に降り立った!」

 二人は感激し、涙を流しながらケツァル・コーン・アトルを見上げた。彼女の胸は豊満であった。視線を感じたケツァル・コーン・アトルは二人の方へ見返した。

『お主等、吾の名を騙り、非道を繰り広げた者。生かしてはおけん』

 口を動かず、死刑宣告を伝えた。

「えっ、どういうことでっ」「待ってくだっ」

『玉蜀黍昇華(コーン・ライズ)』

 ケツァル・コーン・アトルのアメシスト色の魔眼が光り、その睨みに晒された二人の原コーン戦士は痛みを感じることなく体が爆発四散し、数千のコーン粒に化した。コーンはコーンのままで食えと訴えてきら彼らにとって、それが彼らが望んだ死に方かどうか、もはや知る由もない。

  何の感慨もなくコーン・ライズを実行したケツァル・コーン・アトルは次に西の方を見た。メキシコシティの方向へ……

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「ハァー……!ハァー……!ぺンデホ!手こずらせやがって……」

 ダニードレホ似のタコス屋台トラックの中年店主は毒づきながら足で麺棒男の胸を蹴り、その左肩に食い込んでいた肉切り包丁を引き抜いた。

「グフッ……シュボー……」

 麺棒男は悲鳴すら上げられず、仰向けになって苦し気に口をパクパクさせ、空気を吸おうとしている。肉切り包丁の一撃が骨をも砕き、肺に達したのだ。

「ざまあみぃやがれ。そこで窒息していろ」

 中年も無傷ではなかった。開放骨折した左前腕、骨が皮膚を突き破り、血が痛々しく滴っている。たとえ完治できようが、後遺症必至の重傷。今後は生地をこねて、トルティーヤを作れるかどうか……

「よおし、撤収だ。まずはおれを病院へ……ああん?」

 踵返してタコストラックに戻ろうとしたその時、東の方向、何かが高速で飛来しているのを見た。あれは人間の形をしている。しかし人間より遥かに偉大で、神々しい。彼は瞬時であれは何者かを理解した。

「……ああ、そういうことか」包丁を捨てて、両手を広げた。まるで恋人のハッグを受け止めるかのよう。「戦争は終わった」

 仰向けている麺棒男は朦朧とした意識の中で、横目で東の空を見た。そこに金色輝く女神の姿があった。女神のアメシストの目は光った。

『玉蜀黍昇華(コーン・ライズ)』

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 時を遡り、新石器時代。その時代ではコーンは現代の姿ではなく、豆のようなショボい植物だった。

 ある日、ユカタン半島に羽が生えた大蛇が飛来した。大蛇は自分のことケツァル・コーン・アトルと名乗った、領域(うちゅう)の旅で疲弊した彼は諸国の王により優れたコーンの種を提供する代わりに、健康の男50人、女50人の生贄を要求した。そして豆のようなショボいコーンにアメシスト色の目で睨みこむと、コーンは一瞬で成長し、錘状のいかにも美味そうな果実に変えた。王たちはその魔法のような業で心を奪われ、喜んで生贄を差し出した。

 ケツァル・コーン・アトルは三日三晩かけて男女たちと交わり、人間遺伝子を身に染まった彼自身も美しい女性に姿を変えた。

 豊穣の女神として称えられたケツァル・コーン・アトルは約束通りにコーンの種を残し、空へ飛び立った。その前に彼女は言い残した。「また戻ってくる。その間、吾が子同然のコーンをしっかり育てよう。そして濫用するなかれ。さもなくば吾が自ら天罰を下す」と。

 だがマヤ文明は後に滅んだためその言い伝えも絶ってしまった。

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 テキサスとメキシコ国境、「殺戮ウォール」。それは全長236kmに渡る、高さ12m。さながら現代万里長城の如く国境に鎮座している。その壁は20m毎にセントリーガンが配置され、24時間稼働している。コーン・ウォーで以前より増えた違法移民を図る者を殺戮し、合衆国の就業率と社会福祉を救う最後の砦である。今日もいつもと様子と違い、唯一の税関が設けられた出入口「嘆き門」前で、テキサス州軍の戦闘車両が集まっている。殺戮ウォールの指揮所内、サミュエル・L・ジャックソン似の陸軍大佐が報告を受けている。

「5分まえ、メキシコシティにてユカタン半島と同じエネルギー反応が観測されました」「うむ、CIAからの報告はまたか?」「それは、今メキシコで活動中のエージェントは全員、連絡が取れない模様です」「そうか……無線を繋げてくれ」「繋げました」「よし」

 大佐はスピーカーを手に取った。

「兄弟姉妹たちよ、待ちに待った時が来た。今、我々のピースオフシットな隣人メキシコは原因不明の天災やらで滅亡しかかっている!人道的見地からして、寛大なる合衆国政府は助けの手を差し伸べると決めた。その先陣を切るのは、君たちテキサス州軍の勇敢な男女たちだ!」

 スピーカーから離れ、スゥーと換気する。

「願ってもないチャンスだ!無能のメキシコ政府に代わる、我々がその土地を手中に収めよう。諸君らは征服者として名を残り……」

『サー!南から、メキシコから何かが来ていますっ!』

「んだよぉ、調子がノってきた時によ~」

 もちろんこの発言はちゃんとスピーカーのボタンを離してから話したので無線に流されなかった。大佐は作戦室のモニターに覗き込んだ。何かが近づいてきている。トルネード?いや、トルネードは光らない。えっ、人?金色に輝く豊満な巨大美女?その後ろは何だ?黄色の……津波?ワッダヘウ……

「ホーリーマッザファッカー……」

「玉蜀黍の鼓動(ポップ・コーン)」

 殺戮ウォールはケツァル・コーン・アトルがもたらしたコーンの浪に飲まれた。ケツァル・コーン・アトルの両掌から放ったマイクロウェーブでコーンが熱され、ポポポポっと膨らんでポップコーンとなった。ポップコーンの体積はコーンの少なくとも5倍、もし数百万単位のコーンが一気にポップしたら、どうなる?

 コーンの爆発で生じた圧力でコンクリートを砕き、鉄板をひしゃげた。戦車の砲口や覗き穴から車内に侵入したコーンは組員を押しつぶし、車内から戦車を爆発させた。ポップコーンの浪は勢いが止まらず、そのまま国境線を超え、沿線の都市は甚大の被害を受けたという。

 殺戮ウォールを壊滅させたケツァル・コーン・アトルは次に東を見た。メキシコ湾に、キューバ革命軍艦隊は不穏な動きを示している。ケツァル・コーン・アトルは再びコーンを集結させ、東へ飛んだ。

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 その日、メキシコ全土、アメリカ南部、中米諸国、アメリカ大陸の食コーン文明のある地域に不可解な現象が起きた。住民が消え、軍事施設が破壊され、演習中のキューバ艦隊がメキシコ湾に沈み、地表からコーンが消えた。ごく僅かな生き残った者は光り輝くケツァル・コーン・アトルを目撃したと言い、この事件をケツァル・コーン・アトルがコーンを冒涜した人類へ裁きを下した「アポカリコーンプス」と主張したが、映像記録は残していなかったためただのPTSDだと思われ相手にされなかった。

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『おまえたちに吾の子を託すにはまたすぎた』

 コーンに爭う人間をコーン・ライズし、そのコーンを集めて作った巨大コーンオベリスクの上に、ケツァル・コーン・アトルは広範囲念話を飛ばした。

『吾はコーンを回収し、再び星々を廻る。いつかお主等がコーンに相応しい種族になった時、吾が再び、応許の地にもどる。その間は自分の業を悔い改めよう!』

 マントガスライトしてケツァル・コーン・アトルを包み、コーンの形状に戻った。ケツァル・コーン・アトルは上昇していく、コーンをコーンオベリスク連れて……人間はこの日、当たり前に存在していたコーンを失った。

 同時刻、シエラ・マドレ山脈某処。

 地面に埋めた合金製のハッチが開けられ、中からコナン・ザ・グレートを想起させる、精悍の男が出た。

「行ったのか、ケツァル・コーン・アトル……」

男は離れていくコーンを見た呟いた。

「ソウイチロー先生!」

 ハッチの方から中学性ぐらいの少女が顔を出して男を呼んだ。ソウイチロ―と呼ばれた男は顔をしかめて振り返った。

「カタリナ、安全になるまで大人しくバンカーの中に居ろと言ったはずだ」「でももう安全だよね」

 少女がそう言い、ハッチを登ると、四人の子供たちが次いでに出て来た。皆はコーン・ウォーで家族を失い途方に暮れたところ、ソウイチローに保護されたのだ。

「私たち、これからどうすればいいの?もうコーンが無くなったし……」

 静かになったモンテレイの見据えて、カタリナが心細くいった。それを見たソウイチロ―は懐を探り、一個の小包みを彼女に渡した。

「先生、これは?」「開けてごらん」

 カタリナは小包みを結んだローブを解き、中身を覗き込んだ。なんと!中には金色に輝くコーンの種が!

「そんな!?コーンはさっき地上から消えたんじゃ……」「地下20フィートに埋められた鉄と鉛合金製バンカーに中に居れば、ケツァル・コーン・アトルの操コーン波(コーン・トロール)が届がない」

 ソウイチローは次々とコーンが入った包みを子供たちに渡す。青いコーン、白いコーン、色とりどりのコーン……そう、真の男であるソウイチローはケツァル・コーン・アトルの到来を予知し、コーンの種を集めて備えていたのだ!

「よく生き残ったな。でも真の試練は初めてばかりだ」ソウイチローは厳めしい表情で子供たちに言った。「おれは今、おまえたちに希望を託した。おまえらの肩にはメキシコ復興の責任が掛かっている。だがおれはそれをつおまえらにそれを強いるつもりはない。したくない者は今すぐ種を捨て、ここから立ち去るがいい」

 しかし。子供たちはかえって小包みを強く握りしめた。彼らの目に闘志が宿ってる。ソウイチロ―はかずかに微笑んだ。

「よかろう、では最初のプラクティスだ。ついてこい」

 ソウイチローは鋤を肩に担い、開闢しておいた田園に向かった。

【ジ・エンド・オフ・コーン・ウォー END】

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