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【剣闘小説】万聖祭り、IRONの死闘3

「うん?先客がおったわ」
「本当だ。おーい!ライコ!」
「おや、ごきげんよう、お二人方」

 ライコオと呼ばれた鬼女は振り返り、二人にあいさつした。

「坊やもいるか。元気かい?」
「うん」

 生返事する少年幽鬼、気難しい顔。

「お二人方も、ゲーセンに用がありんす?」
「うむ、一年分のブランクを埋めて、とこんとやり尽したいところだ」

 ライコの問いに、ソーは手に持っている分厚いカードバインダーを叩いて見せた。

「はて、今年の店員は少し骨があるようだな。戦っているのは?」
「クルススさんざます。店員の女を見た途端に神剣な顔で飛びだしたました。」
「ほう」ヘラクレスは眉をあげた。「彼が一番槍に名乗り出るとは珍しいことよ。さて、お手並み拝見といこうか」

 右! 左! 右! 右! 左! 中!

「ルァーッ!」

 左右交差の斬撃とバンランス崩しを狙いに放った全体重を乗せた前蹴りが全て受け止められ、女を一歩後退させただけ。

「いい防御だ」クルススはグラディウス二刀流を構え直す。「もし俺の時代に生きていれば、優秀な剣闘士になれただろうよ」

 剣闘士、その言葉に反応して、弩木は眉をしかめた。

「そいつぁ光栄だね。けどあんたの剣闘に付き合うつもりはないよ。さっさと未練とか晴らしてあの世へいきな」
「それはお前の頑張り次第、だァッ!」

 地面を蹴り、クルススが突進!右上左下右左右下左上、全方向グラディウス斬撃!弩木は盾を前に押し出して耐える!盾を持つ左腕は太い血管が浮かび、筋肉がはち切れそうに強張っている!二刀流に対し、隻腕で対抗。現代の対暴徒樹脂盾は軽量かつ堅牢とはいえ、防戦一方ではいずれ隙が生まれる。

「ルァーッ!」

 クルススが極限に腰を捻り、右手グラディウスを突き出す!ターン!強化樹脂板を貫通して、剣先が5㎝めり込んだ。すかさず腰を逆の方に捻る、二撃で盾を破壊し、弩木ごと貫くという算段だ!弩木は斎藤一の牙突零式を喰らった魚沼宇水めいた末路を辿るか!?

 クルススが二撃を繰り出す前に、弩木が動いた。盾を維持した姿勢で踏み込んで、体重をかけた!「ヌゥ!?」クルススの方が体軸がずれて、押したおされた!身体が地につき、盾で上からプレスをかけて拘束!

(ますい!)横から拘束から逃れようとしたクルススだが、そうはさせぬと言わんばかりの警棒打撃!「イヤーッ!」「グワーッ!」

(このままじゃまずい!)盾の上から拘束から逃れようとしたクルススだが、そうはさせぬと言わんばかりの警棒打撃!「イヤーッ!」「グワーッ!」

(ますい!本当まずい!)盾を押し戻し、拘束から逃れようとしたクルススだが、そうはさせぬと言わんばかりの警棒打撃!「イヤーッ!」「グワーッ!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 雨のように降り注ぐ打撃を受けながら、クルススの脳内に走馬灯がよぎった。剣闘で名声を博して、名誉自由人になりながら、義心に駆けられてスパルタカスの一味に加わったが最後、アピア街道で磔され、失血、飢饉と寒冷で生死の境をさまよう3日目の未明に、襤褸姿で幽霊馬に乗った男が現れた、男はワイルドハントの王と名乗った。

『大いなる戦士よ、吾に魂を捧げ、共に終わりなき狩猟に参らぬか』

 王の口調が冷酷で、力強かった……「イヤーッ!」「グワーッ!待て!待たんか!」「なんだッ!」「走馬灯ぐらい、静かに……見せんかい!いい所なんだ!」「知るかボケェ!イヤーッ!」「アバッ」

 クルススの霊体頭蓋骨が割れて、血液と脳漿の代わりにエッセンスが噴きだす!

「あーあー、やられてしまった」
「む、障害物の多いゲーセンではクルスス得意のフットワークが発揮できなかったようだな。凡人あがりとしてよく頑張った」
「それにしても、いい女じゃないか。タフで」

 ヘラクレスとソーが評論している間、クルスス幽体が霧散して、本当の消滅を迎えた。

「次はわちきが行きましょう。坊やは待ってて」頭を撫でようと伸ばした手をを少年幽鬼がしかめ面で払いのけた。それでも仮面の下にライコは微笑んでいる。「では、参りましょう」

「つええよおばさん!」デーダカードダス筐体の後ろに隠れていた少女が頭を出した。「マジで幽霊をやっちまった!」

「隠れてろ!」弩木は振り向かずに叫んだ。「また終わってないぞ!」

 視線の先に、着物姿の鬼女が薙刀を上段に持ち、浮遊感を帯びたステップ、一歩、二歩、跳躍して一気に急接近!

(ヤバ)

 流星じみた勢いで、薙刀が振り下ろされた。

(続く)

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