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眞の拳 #ppslgr

『ALERT! ALERT! AAAALERRRRRT!!!!! 末法近し!なんか東京全域が黒いブヨブヨの肉塊に飲まれっちまったぜ!街はいま百鬼夜行、アポカリプス一歩手前状態ッ!戦闘手段のある者、特にソウルアバター乗りは今ッ!すぐッ!外に出て戦うべし!これは国難である!国はあなたを必要としているッ!WE NEED YOU TO』
「はいうるさいよー」

 スマホをサイレントモードにして異様にテンション高いアラート音声を止めて、室内が一気に静かになった。ド○ミーインのセミシングルルームに似た室内、ここは俺の想像力で形を成した、物理と虚構の間に存在する空間だ。

「あ~ホイズゥさんずるいだぁ~また軽率に新しい能力を出しちゃってさ~」

 という幻聴が聞こえたので少し弁明の機会を頂きたい(なんて自然な説明導入だ!)。まずこのイマジナリービジネスホテルは今回が初出ではない。そしてこういう、自分あるいは自分が許可した存在だけが出入り自由の空間は確かに強力で、便利で、ずるい。ジョジョのイルーゾォ、ハンター×ハンターのノヴ、どいつも油断ならない使い手であった。そして物語のバランスを保るために作者は必ず何らかのデメリットを与える。イルーゾォはスタンド自体の力が弱い、ノヴはプフのオーラに触れて心が折れた(禿げた)。そして俺の場合、ここで一泊につき6800円に相当する金額が口座から消える。日本の税率に合わせれば7480になる。ドー〇ーインの一泊とほぼ同じ金額。データカードダスアイカツ!なら74回ほどやれるの大金だ。しかも入った時点で一泊としてカウントされるのでうかつに多用したらすぐに俺の財産が底付きになってしまい、路頭に迷い、死ぬだろう。

「皆が戦ているのに一人で引きこもりなんて……腰抜けでは?」

 という幻聴が聞こえたので少し弁明の機会を頂きたい(なんて自然な説明導入だ!)。note敷内に異変が始まった時、俺も役に立ちたくてショットガンを携えて街を繰り出し、怪物どもに容赦なく散弾を撃ち込んだ、あやつが現れるまでは。

 あやつとは、頭から無数の目が生えて、粘液を垂らしながらグチョグチョの粘っこい音を立てながら蠕くナメクジのこと。俺は納豆と軟体動物が大の苦手で、やつを見たときは腰が抜けるぐらいビビって、ここに逃げ込んだ。情けないが、苦手な物は苦手。ゴキブリに服の内側を侵入されても正気でいられる人だけが俺を責めていい。

 アラートの言ったとおり、今は外はやばい状況だ。なんと都民全体が黒いブヨブヨに吸収されて電池兼人質に扱われ、新たな怪物を生み出して暴れている。既にパルプスリンガーの奴らが交戦を開始したようだ。俺もいつまでもこここで籠っていられない。布団の中でガクプルしてようやく落ち着きを取り戻したし、もう少しで日付が変わる。ならば今やるべきことはーー

 俺はベッドを離れて、ジョイコンを手に持ってフィットボクシング2を起動し、テレビと向き合った。

「ズコォーーッ!おい!外に出て戦うんじゃないのかよ!?」

 最近は幻聴が多いな?いいか、俺は拳聖だ。拳聖の座に居座り続けるには毎日エクササイズを欠かさず、スタンプを押して連続記録を伸ばし、同じ拳聖の座を狙っているフォロワーに見せびらかしてマウント取らねばならない。たとえ東京が壊滅寸前であろうと、デイリーエクサザイズを中断する理由にはならないのだ。

如何なる理由があろうとデイリーを欠かす連続記録が途切れてしまって、フォローになめられて笑いものになってしまう。

『もう夜だな。頑張って行くぞ!』

 テレビの画面上、青い海と青空、ヤシの木などトロピカルな風景を背に、ボディビルダーばりに凄まじい筋肉量のドレッドヘア黒人が映っている。彼の名はベルナルド、フィットボクシング2において一番フィジカルが強く、大塚明夫の声で喋るのでいつもお世話になっているインストラクターだ。BGMのSandstormが流れ始める。

『まずは基本姿勢から。右手は顎の前、左手は顎の横。前後にリズムに取るんだ。1、2!1、2!』

 ベルナルドさんに倣って、俺もスタンダードの構えを取って、両足を前後リズミカルに動く。

『右から、ストレート行くぞ!』

 右のレーンからストレートのマークがせり上がってくる。それがレーンの上端にある枠にピッタリ嵌ったタイミングでパンチすればJUST判定になる。俺はいま画面のベルナルドさんと同時にストレートを出した。シッ……ん?

 えっ?

 えっ?ちょっとまっ、なんかベルナルドさん、急に近くない?てか近くすぎない?あっやばっ

 次の瞬間、大きな拳が視界を遮った。顔面に衝撃が走り、目の前が白くなった。一瞬の浮遊感のあと、後頭部と背中に固い物とぶつかって感覚がした。倒れている?顔中が熱い。しかし唇の上にひんやりした感触がする。なめてみる。血だ。鼻血?なんで?また脳が混乱しているなかで、俺は頭を動かし、周りを見回した。壁と天井がない、海の空が無限に広げる中で、二本のヤシの木が舞台セットみたいにちょこんとと刺しているだけ。そして三歩先の距離に、ベルナルドさんが立っていた。

「おいおいどうした?まさかたった一発でのびたんじゃないよな?自称拳聖さんよ?」

 ベルナルドさんが俺を見下ろしながら吐き捨てた。

(続く)

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