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ふたりはPre-cure:VOTE、それは戦争②

「なんという不毛の争いか……」

 偽魔法使いとふたりはプリキュア原理主義者は床に正座し、サミーは二人の前で両手を後ろに組んで左右に行ったり来たりしている。そしてクレイトンは二人の背後に腕ん組んで威圧的仁王立ちしている形だ。

「君たちはプリキュアのなにを観て来た?」

 事情を聞いた結果によると、ふたりともこの埠頭の作業員で、仕事終わってから付近の居酒屋で飲んでいた。プリキュアファンという共通点で話が盛り上がったが、話題が全プリキュア大投票に変わり、互いの推し作品とキャラ語り出すと、雰囲気が一変し、初代原理主義者の『はっきり言うけど、まほプリは初代のパクリだろ?』の一言で口論が始まり、さっきの事態に至った。友情にヒビが生じ、カップルが別れ、家庭が崩壊、最悪殺し合いまで発展する。それが選挙、熱狂だ。

「包容、理解、ラブ・アンド・リスペクト。それがプリキュアたちが毎週半時間、体張って伝えたメッセージではないか。なのにあなた達ときたら……自分の心に手を当てて考えてください」

 サミーは率先に己の弛んだ胸に両手を重ねた、まるで小学生に説教する教師みたいだ。

「こんなことして、あなたの推しが喜びますか?いいえ、喜びません!」

「ハイ、スミマセンでした」「ワシが大人げなかった」

 心の中でのそれぞれの推し、つまりはーちゃんとなぎさの悲しむ顔が浮かだ二人は自分の行いを反省し、素直に謝った。

「分かればよろし!」サミーは大げさに頷いてみせた。そして片膝を地について、二人の高度に合わせた。「推しの得票数と順位が思い通りにはならなかった。その悔しさ、何としてても票数をあげたい気持ち、僕は知っている。でも悔しさのあまりに人を傷つけるなんて本末転倒です。ただでさえ世間がアニメの暴力に過敏なお時勢に!」

「うぅ……」

 偽魔法使いの頭がさらに低くなった。彼のやったことは立派な拉致そして暴力傷害だ。ちなみに原理主義者の怪我はクレイトンがキュアラモード・デコレーション(応急処置のことだ)を施し、持ち前のタフさでなんとか持ち堪えた。

「だからこそ、合法かつ平和の手段で推しを支持しようではないか!全プリキュア大投票は8月11日から後半戦、投票したはもう一度票を入れられる。チャンスはまたある、きみの一票で何かが変わる、直ぐでなくても、確実に何がが変わるはずだ!」

「この兄さんの言う通りじゃ。ワシは投票する。プリキュアへの愛を、平和な方法で」初代原理主義者は穏やかに言った。「実はワシもリコのことが気に入ったんじゃ。でも選挙の話になると頭に血が昇ってのう。嫌なことを言ってしもうた。すまんな、魔法使いくん」

「いや、私だって、酒で自制が効かなくなってとは言え、やり過ぎてしまいました。申し訳ありません。医療費用はその、出します、はい」

「ハハハ!絶対請求書を持っていくからな!」

 二人は握手し、和解した。

「ところで、お二人さんは一体何者なんです?その、プリキュアに詳しそうだし、強そうだしまるで……」偽魔法使いは横目でクレイトンをちらりと見、尋ねた。「まるでプリキュアみたいだ」

 左様、今日は奇にもクレイトンは黒い無地のTシャツで、サミーは白いポロシャツだ。

「ハッハ!。兄さん方はきっと、ワシらを止めるために遣わされたヒーロー。白黒だし、実際プリキュアだわい!」

「ふ、持ち上げてくれる」

 クールぶっていたクレイトンは少し口角が上がった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「ククク……プリキュアファンが四人同じ場所に集まっている、なんたる幸運」

 となりの倉庫の屋根の上、迷彩服姿の男が双眼鏡に目を当てて、屋根の換気窓から四人を観察していた。彼は少し前、居酒屋の争いを傍観し、ある目的を持って初代原理主義者らを追跡してきた。

「これは啓示だ」ぼそぼそと呟き、双眼鏡を下ろすと、隣足元に置いてある細長いバッグから狩猟用のロングボウを取り出した。60ポンド、アルミ合金、カーボン複合材質。「投票(WAR)はこれからだ。絶対にまどか先輩を一位に就かせる、今年が無理でも、プリキュアファンを一匹ずつ仕留めて行けば……いずれ」

 そして弓に矢をつがえた屋の先端についているオフホワイトの細長いブロック状物体、なんとC-4爆薬ではないか!?どうした法治国家日本!

「このエクスプロージョン・セレーネ・アローで!」

 男は弓を大きく引いた。このままPre-cureの二人とプリキュア精神を思い出せた二人のファンがまとめて爆死か!?

「よい闇だ。どこまでも利己で、傲慢で、どす黒い。頂いていく」

「っ!?」

 突如に背後から声を聞いた弓男はすぐさま体を180度回転して振り向いた。満月を背景に、長身の男は右手に剣らしきもの手に持って13メートルぐらい離れた距離で佇んでいる。黒いスーツを着ているが中にシャツがなく、程良く鍛えた胸と腹筋が露わになっている、シベリアンハスキーを想起させる灰色の髪左目を覆い隠し、韓流スターばりの端正な顔に精悍さをもたらした。

「な、何もんだ!?」

 新手の男を弓で狙い定め、弓男は問った。スーツ男はニヤリと笑い、持っている剣を胸の前に構えた。まるで騎士の敬礼のように。

「知りたければ教えて差し上げよう、我が名は持たざるの騎士、モラエナイトである!」

持 た ざ る の 騎 士
✝モラエナイト✝
(キュアスカーレットに票を入れました)

モラエイナイトとは何者なのか?彼はPre-cureと戦う予定だったヴィラン。今まで頭の中で登場のチャンスを伺っていた。今回はPre-cure本編の初登場となります!やったね!ちなみに初当所はこちら。彼についてはまた謎が多い。

「さては痛いやつだな!死ね!」

 ビュン!放たれたC-4矢!モラエナイトは腕をしならせ、レイピアめいた黒い剣で矢を弾いた!C-4矢は空へ飛んでいき。そして二秒後、起爆装置が作動した。

KA-BOOOOM!!!


ー隣の倉庫内部ー
「ウオッ、なにこの音!?爆発!?」
「花火とかじゃないかな。夏ですし」
「外で見ようや!」 

「お前のせいで重要なエクスプロージョン・セレーネ・アローが一本無駄になったじゃないかー!」男は弓を放り、ポケットから防犯スプレーを取り出した。「あったまに来たぞ!こいつで苦しめてから……!」

「そしてこれは時間を行き来する貴婦人より授かった我が愛剣」モラエナイトは剣を高く掲げた。「殺手刃(キラーヤイバ)なり!」

「はなし!聞けやー!!」スプレーを前に構えながら男は距離を詰めていく。モラエナイトは心底可笑しそうに高笑いし、殺手刃を振るった。黒い剣身に「killer-刃-」の文字が浮び、瞬間で長さ1.7メートルのツバインヘンダーに変形した!

「なに!?」男は訝しんだ、明らかにオーバーテクノロジー!

「ヌゥン!!」

 モラエナイトは足を踏みしめ、踵、膝、腰、肩の関節を駆使して端正な水平斬撃を繰り出した。1.7m2㎏の大剣、その剣先がトンボの産卵の如く防犯スプレーの瓶口を切断した。プシュー、高圧刺激性液体が噴き出し、弓男の顔を覆った。

「アアアアアアーーー!!!」

 苦しみだした男に、モラエナイトは無情にツバインヘンダーを突き出した。「うぐぇ……!」胸を貫かれた男、しかし不思議に出血はなかった。剣身が彼の胸にめり込み、脈打って何かを吸い出している。

「いいぞ……殺手刃、とくと吸え……成長せよ」

 サディストの表情で愛剣の食事を見守るモラエナイトだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「ワオ……」

 倉庫から外に出た四人を迎えたのは、沿岸の彼方に見える市街地から放たれた花火であった。

「なんか数週間まえのユニの夏祭り回を思い出したわい」

「あれはよかったすね~帰ったらまた録画した奴を観ようかな」

「それいいね!」

 初代原理主義者と偽魔法使いはすっかり仲直りしたようだ。Pre-cureは使命を果たした。サミーは咳払いし、二人に向かった。

「それじゃ二人とも、我々はこれで失礼させてもらいます。我々のことはくれぐれも口外しないように……」

「わあってるって!テディベアっぽい兄ちゃん!ヒーローの秘密を守るのはファンの務め。心得てますァ!」

「二人に迷惑ならないよう、倉庫はきちんと元に戻します。本当にありがとうございました!」

「無口のごっつい兄ちゃんもお疲れした!」

 二人はもう一度深くお辞儀し、二人がJaguar XJRに乗り込み、走って行くところまでに見送れた。そして隣の倉庫の屋根の上、マイナスエネルギーが吸いつくされた弓男は倒れて、苦しげの寝息を立っている。モラエナイトは殺手刃をスイッチナイフに変形させ、ポケットに納めた。

「あれが我がレディが云っていたPre-cure……ふふふ、来るべき対面、楽しみにしているぞ」

 月夜を背景に、彼は身を翻し、ニンジャみたいに屋根から屋根へ跳んでいった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 Jaguar XJR、もといPre-cureビークルの中で、運転手のサミーは気が抜けて大いに欠伸した。

「フハァー、今回のPre-cureもこれで円満かー」

「もし倉庫の番号まで予知出来たらもっと楽だったがな。場所を探して結構時間が掛かったぞ。もう少しであのふざけたレインボーキャリッジがおっさんを串刺しにしたところだった」

「でも結果オーライ。きみのおかげだよクレイトン」

「ふん、あまり持ち上げてくれるんじゃあない」

 と言いつつも、彼は内心うれしかった。

「しかし悲しいかな。同じシリーズ作品のファンで、なぜそこまで怒りを燃やして対立するのか」とサミー。

「これが選挙、競争というものだろ。意識がなくても自然に勢力が生じて、対立構造が成り立つ。ステイツはもっとひどいんだぜ。対立の団体同士は互いに耳を貸さず、一方てきに憎悪を煮えくり返る地獄の様相だ」

「それ、ギャング抗争の話ですよね?」

「政党もファンクラブも、極めればギャングみたいなもんだろ」

「そ、そうかな~説得力はあるけど納得できないような」

「個人の意見だ。納得する必要はない。それより腹が減った。なんか食ってから帰ろ」

「そうしよう。チャーハンが旨い店なら近くにあるよ」

 サミーはアクセルを踏み、XJRが唸り声をあげて走ってゆっく。

(ふたりはPre-cure:VOTE、それは戦争 完)


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ふたりはPre-cureとは何か?それは100%プリキュアファンによるプリキュアファン小説さ!

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