活火山マン

俺の名はヴォルケイノ。少し前までヒーロー団体D.A.G.G.E.R(カーンとグレッシブにローバリーをードするクセレントな中の略称)の一員だったが、色々あって退団して、今はひそひそと覆面ヴィジランテをやっている。

今日もいつも通りスーツに着替えて、夜11時にパトロールに出かけたが、信号待ち中にスマホを見ていたらいきなり囲まれて、棍棒でボコスカ殴られて路地に引きずり込まれてしまった。

なんて情けない。いくら退団の件で気分消沈してやけ酒から昼寝したせいで頭痛が堪らないとはいえ、こうも簡単に不覚を取られるとは。個人史上上位に入る失態だ。

相手は三人。全員アフリカ系の若い男。顔や腕、胸に悍ましい瘢痕文身(スカリフィケーション)を施されている。アフリカ系中心で構成されている最近は勢力拡大中のギャング集団『ズウォンデス』の特徴だ。彼らはアフリカ伝来の古の精霊を信仰しており、怪しげな術を使うとの噂だ。

路地に入った後もしばらく殴られ続けた。棍棒と靴底の雨が降り注ぐ。俺は肉体強度は常人と変わらないが、訓練のおかげで痛みへの耐性が付いている。体を丸めて手で頭を守ってひたすら耐える。人を殴るのって意外と体力を使う。何も考えずひたすら殴るとスタミナが切れて息が上がるのだ。ほら、もう手が止んだ。とりあえずこのままじっとして反撃チャンスを伺おう。

「はぁ……はぁ……ふぅ……なんかこいつ、弱くないすか?はぁ……本当にヒーローか?ただのコスプレ野郎なんじゃないすか?」
「黒の全身タイツに、オレンジ色のグローブとブーツ、胸にV字のサインが描かれている。D.A.G.G.E.Rの公式ファンブックに載っているDクラスのヴォルケイノと特徴が一致だが、流石に弱すぎて疑わしいぜ。ディージンはどう思う?」
「この者が本物かどうかはさほど重要ではない。どのみち用があるのは心臓だけだ」

三人の中で特に肌が黒く、闇夜のような男が若輩ながら威厳のある声で言い放った。こいつがリーダーのようだ。俺の心臓がなんだって?

「ズウォンデス様は血が滴る強い心臓がご所望。D.A.G.G.E.Rを襲ったのは常人より強い心臓を欲するだけだ。此奴がヴォルケイノ本人であれば幸運、でなくてもやることが変わらない。心臓を抉り出し、ズウォンデス様に捧ぐのみ」
「それもそうか」

なるほど。つまり奴らは人間の心臓を供物として精霊とやらにより品質のいい心臓を求めてD.A.G.G.E.Rのメンバーリストに載っている俺が狙われたわけか。もうD.A.G.G.E.Rじゃないけどね。古いバージョンのファンブックかな?

「とりあえずこいつを締めようぜ」

ギャングの一人が部族風の装飾を施されたナイフを取り出した。刃に乾いた血らしき汚れが残っている。あんな物に切られたり刺されたりしたら破傷風程度で済まなそう。よし、行動に移るぞ。俺は跳ねるように立ち上がった。

「あわっ」
「また生きてっ」

訝しむギャング達。驚くのはまた早い。俺は顔を覆うマスクを剥がし、素顔を露わにした。

「げげっ」
「きっっもっ」

俺の顔を見たギャング達は率直に感想を述べた。月の地表じみたテコボコの皮膚に、黄色い膿をたっぷり蓄えた新鮮なニキビが大量に盛り上がっているこの顔は誰から見ても醜悪なものだろう。しかしこの顔こそが俺の最大の武器だ。右頬にあるニキビに左右の人差し指で挟み、照準を合わせ、潰す。ブチッ。

「のわっ!?」

ニキビの大きさと比べておよそ1000倍の膿が噴出してナイフギャングに顔射を決めた。

「なんじゃこりゃああああ!?ネバネバしててくせぇっ!うっ、口に入って……うぐぇぇぇぇぇっ」

ナイフギャングが膿の異臭に耐えらず、四つん這いになって嘔吐しだした。

「てめえッ!」

もう一人が野球バットを掲げてかかってくる。俺は唇の上にある成熟したニキビに指を当てた。ブチチッ。

「くばっ」

ピンポンボール大の皮脂の塊が弾丸のような勢いでギャングの眉間を撃ち抜き、昏倒させた。

12歳の時、人生初めて出来たニキビを潰そうとしたら、浴室の鏡を割った。機関でテストを受けた結果、俺の能力は『ニキビの内容物を倍増して高速で射出する』と判定された。まるで皮膚に爆発寸前の火山がたくさんに宿っていることから、俺は自分のヒーローネームをヴォルケイノと名付けた。『名前が熱そうなくせに炎系能力じゃないんかい』とよくつっこまれた。

「やはりD.A.G.G.E.Rは一筋縄ではいかないか」と闇夜のような男が言った。仲間がやられたのに落ち着き払っている。「ではこちら戦士の流儀で対応しよう。フンンッ!」

男はナイフギャングが持っていた物と同じタイプのナイフを自分の胸を刺した。自刃か?いや、ナイフまるで生物のようにぐいぐいと体にねじ込んでいく!全身の筋肉が膨張し、頭の後ろに垂れていたドレッドノートヘアが太くて鋭い棘に変形し、顎が突出して上顎に齧歯類じみた巨大な前歯が生える!

「ぐぎぎぎぎ……!これがズウォンデス様より授かった御力だァ!」

なんというとこか、男は半人半ヤマアラシのような怪物に変貌を遂げた。なるほど、これが連中が行使する邪法か。こんなモンスター相手に勝算はあるか俺?

とりあえず頑張ってみよう。俺は鼻尖に盛り上がっているニキビに指を添えた。

(続く)


当アカウントは軽率送金をお勧めします。