目を覚ませ僕らのCORONAはMEXICOじゃなくなっているぞ! 2

(スーパーヒューマンサムライサイバースクワッド、間もなく始まる!)

「こ、これはっ!!?」
メキシコビールの代表格であるCORONAなのに産地はメキシコではない。まるで18歳の誕生日に両親から「私たちはお前の本当の親ではないのだ」と告げられ、自分が今まで信じてきたものが全て虚偽だったと気付かされ足元に大穴が空いた感覚。サムは狼狽えた。
(しかもよりによってチャイナ!?わからない......よくわからんけど、すごくよくない予感がするっ!)
何とも言えない衝動に駆けられ、サムすでに商品が入っているバスケットをその場に置いてスーパーを抜け出し、車に駆け込んで家へ急いだ。

⚡ S u p e r h u m a n   S a m u r a i ⚡

帰宅や否や、サムは元スーパーヒューマンサムライスクワッドのメンバーたちにGコールーーもといリモート会議に呼びかけた。深夜3時なので最初はだれも応じなかったが、サムはしつこくなんでも通話ボタンを押して彼らを起こした。

「よし、みんな来たか」
『ふぁ~』
『うーん』

興奮気味のサムに対し、画面に映っているシドとタンカーは眠たそうだった。もはや若くない彼らにとって不満足な睡眠は数日間に渡り身体に響くが、旧誼に免じて我慢している。

「では聞いてくれ、信じられないことが起きてしまった。ずっとメキシコ産と思っていたCORONAがいつの間にかバドワイザーが作っていることになって、しかも工場は中国の工場で作られていることになっている!この写真を見よう!」

「我らが愛するCORONAがチャイナマネーに染まってしまう!由々しき事態だ!これは何者かがメタウイルスモンスターで悪さをしていると考えた方がよいのでは」
『あのな、サム。CORONAは随分前からそうなってるんだぜ』
「え」
サムはタンカーの発言に面食らった。
『CORONAは世界で一番売れているビールって知ってるよな?だったらメキシコ国内の工場だけでは供給に間に合わないよね?だったら世界各地で工場を建てたり、同業者に依頼して作ってもらう方が合理的だよな?ほら、セルヴェッセリア・モデーロ社授権のもとに製造って書いてる。あの業界ではよくあることだ、やましいことは何もねぇって』
『ちなみにセルヴェッセリア・モデーロは今ではベルギーの酒メーカーであるアンハイザー・ブッシュ・インベブ社の子会社なのよ』
とシドは付け加えた。初耳の情報が次々となだれ込んで、サムは処理速度が足りずフリーズしかけた。
「なん……だと……CORONAはとっくの昔メキシコではなくなっていた……?」
『これで分かったか、サム。メタウイルスモンスターなんていない。30年前、オレたちがその親玉のキロ・カーンを倒したじゃないか。だからお前も、何があったらすぐメタウイルスモンスターのせいにしないで堅実に生活をさ……』
「いやまただ!キロ・カーンが死んでも、現代のテクノロジーを使えばメタウイルスモンスターに類似するプログラムは作れるはず!そうなんだろ?シド!」
『うん、まぁ、可能性なら0%ではないけれど……』
「だろォ!そいえばバドワイザーもイメージカラーは赤だしビールガールにいかがわしい服を着せる政治的に不正確な会社だ。きっと何かよくないこと企んでいるに違いない。工場が中国にあるなら尚更あやしいぜ!」
『Ooh、シド……なんてことを』タンカーは頭を抱えた。『サムがより固執したんじゃないか!』
『ごめんね、タンカー。でもプログラマーとして客観的なこと言ったまでよ』
『シドは昔からそんなことあるよね、だからオレが惚れてた。最近時間ある?近いうちに二人だけでディナーどう?』
『ごめんね。プロジェクトで忙しくて半年先に私生活はないの』
『そっか……』
「おいお前ら、リモート会議は不倫現場じゃないよ」
『おっとごめん。ていうか酒の話ならラッキーに聞いた方がよくない?あいつバーやってんだろ?なんであいつだけチャットに参加していないんだ?』
「ああ、僕があいつをグループから外した」
『えっ、なんで?』
「あいつは変わった。ミュージシャンとしての誇りを地に捨て、腰抜けになったんだ。そしてタンカー、お前もだ」
『えっ、なんで?』
「僕は真剣に相談がしたいんだ。なのにお前、茶化しやがって!」
『な、なんだその言い方は!そっちこそ話聞いてた!?つうか人を夜中に起こして何その態d』
「サヨナラだ、タンカー」
サムは無慈悲にマウスを操作し、タンカーをグループから追放した。
『ふぅー』画面の向こうで、シドはため息した。『で、サム、貴方はどうしたい?』
「決まってるだろ。昔みたいにデジ・ワールドに入って、悪さをする奴を叩く」
『けどどうやるの?貴方はもうグリッドマンに変身は……』
「またジャンクとサムライアタックビークルがある。何とかなるさ」
『止めても聞いてくれなさそうね』
「ああ」
『そんなに必死になるのは、やはりアンプくんのため?』
「それもある」
すでに地球に居ない旧友を思い浮かべ、サムはデスクの引き出しから一通の手紙を取り出し、広げた。黄ばんだ紙にはこう書いてあった。

よく来たな、おれはただのアンプだ。おれはずっと自分のことが異星人だと言い続けてきたが、おまえらはだれも本気にしなかった。
急だが、おれは星に帰ることになった。おまえらと一緒にいるこの一年間は楽しかった。バンド組んだり、怪獣と戦ったり、車に轢かれたり、とても充実だった。おれは満足している。
心残りがあるとしたらやはり逆噴射小説大賞だな。昨年はファイナルリストになれた。今年こそチャンピオン確定だと思っていたが、残念だ。CORONA 1ケース、欲しかったなぁ……
あとMEXICOも行きたかった。MEXICOで飲むCORONAはやはり地元だけあって格別に美味かったりしない?
それを想像しながら、おれはこれから故郷で頑張る。もしおれが恋しくなかったら夜空を見上げろ。ペルセウス座の光の中に、おれがいる。

(スーパーヒューマンサムライサイバースクワッド、CMのあとすぐ!)

※この作品はあらゆる主張と主義に関係しない

当アカウントは軽率送金をお勧めします。