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【剣闘小説】万聖祭り、IRONの死闘5

 CRAAASH!!!4台目のUFOキャッチャーも突き破られ、モンスターボールレプリカが散らばる。弩木はこのまま白熱した薙刀に串刺しされてしまうのか!?

 その時である。電撃的速度で馳せるライコは進路上に転がっているモンスターボールを踏んでしまった。「ホアァッップ!?」足元が滑って、ライコは上下180度回転して盛大に顛倒!縦回転しながら突っ込んでくるライコに、弩木は盾半壊した盾を持ち上げ、振り下ろした!「ウォォォリャアアアアアーーッ!!!」パァーン!渾身のシールドスラム!「キョッホァッ」ライコは蠅叩きにとらわれた羽虫の如く地面に叩きつけれた。空中に舞う幽鬼の薙刀を、弩木がキャッチして振り下ろした。

 カッツァ。刃が幽鬼の首を切断した。切断面から血液の代わりにネオンブルーのエッセンスが迸る。

「ハァー……!ハァー……!」

 弩木が冷や汗を垂らし、薙刀を杖のように突き立てて息を切らしている。こんな形の逆転に一番驚いているのは本人だった。たまたま四台目のキャッチャーに球状の物が入って、相手がそれを踏んで転んだ瞬間、身体が反応し、タイミングよくカウンターが決まった。あの状況から狙ってやったわけではない、なぜやれたか自分も不思議なぐらいだ。ラクシュミー、クロノス、フォルトゥーナ、ビリケン。知っている限りすべての幸運の神に感謝を述べた。

 未だに冥界の冷気を発している薙刀の柄が手汗も凍らせ、掌に引っついてる。無理矢理剥がしたら大変なことになってしまうだろう。弩木は掌の皮が剝けた画面を想像した。

(クソ痛そう……けどッ!)

 データカードダスコーナーに目を向ける。新手のマッチョな幽鬼二体が少女を囲んでいる。

「アァー、クソッ!」 

 また霧散していないライコを残して駆けだした弩木と入れ替わって、少年は透明化を解除し、ライコの首を拾い上げた。

「お……おぉ……坊やよ」地面に叩きつけられた際の衝突で仮面が砕け、皺だらけで目玉が入ってない眼窩がぽっかリ開いて、木乃伊じみた老女の素顔が露になっている。「すまぬ……ダメな母で……」

「もうしゃべるなよ、母さん」皮膚を突き破って、少年は手首から霊体動脈を伸ばしてライコと直結させ、自分のエッセンスを送り込んだ。「これで大丈夫。また死ねないよ」

「おお、坊や……本当に」空っぽの眼窩から涙が溢れた。「すまぬ……すまぬ……」
「いいって、それに目当てのもんはもう手に入れたし、結果オーライ」

 その通り。どさくさに紛れて、少年は目的であるアーケード限定竃戸禰豆子フィギュアをバックパックに収めた。

「狡猾な……さすが、わちきの、自慢な……」

 もし手があれば、息子を撫でるなりハグなり、いっぱい可愛がってあげただろう。息子がそれを嫌がるだろうけれど。

「もういいよ、喋らないで。ここから離れるよ」

 ライコの頭をフットボールみたいに抱えて、少年は再び透明化して場を離れた。

 時を1分ほど遡る。

「フッ、フッ、フッ、フッ、フッ、フッ」

 少女は喧嘩用に持っていたスイッチナイフを逆手で握って、ヘラクレスの胸板に連続に突き刺すが、傷一つつけていない。

「ふはぁ~アーヘッタクソ。こんなじゃぜんぜん逝けないわ」
「それはおまえがもう逝ってるであろうかーい!」
「あっ、そういえばそうか!」
「ガァーハハハハッ!」

 フロントラットスプレットのポースを維持しながら、ソーとゴーストジョークを交わす、余裕綽々!バンプアップしたヘラクレスの広背筋、まるで背後に肉の翼が生えたように見えた。

「クソッ、なんで、だよッ!刺さ、れねぇァアアー!!?」

 手汗で滑ってしまい、少女の手の平が刃に触れて切られてしまった。

「はい自滅ゥー。これで虚しい抵抗に満足したか?我々とお前の格の差がわかってきたところだろう。だから諦めて身をゆだねろ」ヘラクレスはポーシングを解いた。「安心せい。やり終ったあとはちゃんと殺す。侮辱の思い出を抱えて生きていくなんて惨い事はさせない」

「勝手なこと、言いやがって……」傷を抑え、少女は震え出した。怒り、そして恐怖。後ずさって、何かにぶつかった。

「おっと」それはソーの大胸筋であった。退路はすでに断たされている。「そう明白に言うなよヘー君、が悪くなる」
「どうせ無理矢理やるから関係ないだろ?」
「解っておらんなぁ」

 会話しながら前後から迫ってくる二体の幽鬼。少女の表情は絶望に染まりつつあった。

(おわた。こいつらに犯られて、死んでしまう。学校サボらなかったらよかった……)

 その時、何かが飛来してソーの頭側部に当たった。「イテッ、なんぞ?……あぁん?」ソーの足もとに、スポンジ製の青いダートが転がっていた。「なんじゃこれは?」

「おいお前らッ!その子から離れろッ!」廊下の方に何者が叫んだ。三人の視線が集まる。紺色の布地にToy's Lordとプリントされたエブロンを着たメガネの青年がいた。

(あの人、確かトイズロのお兄さん……!)少女だけが彼のことを知っている。データカードダスのカードを買うため頻繫にトイショップに足を運んでいた。そのたび親切に説明してくれる人。

 そして手中にあるのは、シューティングホビーの金字塔、Nerf社が作った、神をも屠れる最終兵器、タイタンCS-50!

「大の男ふたりで……!恥ずかしく思わないか!もっとサイズに合った奴と戦え!」

 お兄さんがトリガーを押しこんだ。内蔵されたモーターがギャィーーンと唸り、タイタンCS-50の偽バレルが回転して、ダートをぶちまけた。

(続く)



 

 

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