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この宇宙はトニーが誘拐された頃から誕生した

 きみは知ってるかい?この宇宙はね、最初の頃はアナクラの大きさしかなくて、中東アジアのどこかにありました。そこにトニー・スタークとイェンサンというエンジニアと、テンリングスと呼ばれる悪い人たちがいました。トニーはスゴイ知識の持ち主であり、機械いじりの達人なのでだから悪い人に誘拐され、武器を作らせるようと脅されました。
 しかしトニーは悪に屈しなかった。彼はイェンサンと協力し合い、最初のアイアンマンスーツを作り上げ、アナクラから脱出しようとしました。でも悪人がそれを許すはずがありません。トニー・スタークとイェンサン阻止するため、攻撃を仕掛けました。戦闘が始まり、イェンサンはひどいケガをしました。
 「トニー、ぼくもうだめです。きみだけでも生きて、ぼくらが作ったスーツを、正義のために……」
  「何を言っている!まだ間に合える!ここを出て家戻ると約束したじゃないか!」
 「いいんだ。もう外にはぼく家も、家族もいない。これから会いにいくんだ……」イェンサンがそう言い、死んでしまいました。
 トニーは怒った、だがそれ以上に、彼の心の中に正義が芽生えました。自分のため、そしてイェンサンのため、世界中の子供が安心して暮らせる明日のため、戦わなくちゃいけないと自覚しました。トニーはアイアンマンスーツ駆けまわり、テンリングスの蹴散らした。そしてアイアンマンMK-1のフレイムスロアーでテンリングスの武器を焼き払い、ロケットを点火し、砂漠の上空を飛んでいった。この瞬間は、この宇宙の始まりとされています。
 こうしてアイアンマンの最初の戦いが終わりました。彼が後にアヴェンジャーズのリーダーとなり、仲間を率いて全宇宙の巻き込む戦いに身を投じることを思ってもいなかったでしょう。もしかしてき今もどこかの時空で、アイアンマンが戦っているかもしれません。
 アイアンマンは正義の味方であり、我々の守護者です。もしトニーはあの頃、アイアンマンを作らなかったら、宇宙のぜんまいは回されないままで、私たちはここに存在しなかったかもしれません。
 アイアンマンはきみの応援が必要です。彼を応援するに今日は一日アイアンマンについて勉強して、彼のことを知り尽くしましょう。もしかしてきみもいつかアヴェンジャーズに招待されて、彼と一緒に世界の平和を守ることができるかもしれません。
 ーートニー・スタークメモリアルパークで配布された小冊子『アイアンマン:もっとも賢いアヴェンジャー(日本語版)』の冒頭よりーー

  と、上の内容はねつ造だ、インフィニティ・ウォーが待ち切れなくて酒の勢いで書いた。

 にして映画アイアンマンの一作目が発表されてからもう10年ですよ、10年。赤ん坊が少年になり、新入社員が課長になるぐらいの時間です。なつかしいねえ、10年の前僕は映画館でアイアンマンが飛びまわして戦車を爆破するシーンでワクワクしていた。そう、この宇宙はまさにあのアナクラから始まったのだ。

「なーに言ってんだい、アクズメさんよぉ?宇宙の初まりは138億年前にビッグバンのあと誕生したという説が一番有力だろう?それぐらい小学生でも知ってるんだぜ」

 わるい、言い方が悪かった。宇宙というのは、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のことだ。アイアンマンの大成功で、インヴィンシブル・ハルク、マイティソーなどほかのヒーローが主役する映画が次々作られ、そしてフアベンジャーズ......ファンたちが待ち望んだ映画が完成した。

 宇宙から襲来した軍隊に地球のヒーローと、そうでないヒーローが集まり、地球を守り抜いた。幕の内弁当ところか、まるでスープからフカヒレが出され、メインディッシュにステーキとロブスターが続いて、デザートに特大なティラミスを食べたみたいに大満足した。 

 それから再起を図るハイドラ、スコヴィア事件、シヴィルウォー、宇宙の彼方で起こった壮絶な親子ケンカ......様々なでき事を経て、今、MCUは一つの終着点にたどり着いた。

 サノスは動き出した。


▲WARNING▲この先はアベンジャーズ:インフィニティウォーに関する重大なネタバレがあります。それでも構わない方だけが進んでください。私は一切の責任を負いません!


本当にいいのかい?

 諸君はご存知だろうか、一世紀前に、この宇宙に寄生虫が溢れかえっていたことを。寄生虫はただ自分の惑星に生きる他の生物よりほんの少しだけ進化したことで、ほかの種族から資源を奪い、環境を汚染し、母なる大地を欲望の限り無残に破壊した。寄生虫は自分が犯した過ちを認めず、ただ無駄に頭数を増やし、やがてその欲望の触手を他の世界に伸ばした。
 戦争、奪略、姦淫......寄生虫どもはあらゆる悪行を尽くした。宇宙はケオスに陥った。それを看過できない我らが偉大なる英雄と預言者ーーサノスはこの状況を打開すべく、修行と瞑想を重ねの末に、ひとつの結論にたどり着いた。宇宙に存在する知的生命を、半分に減らすことである。
 当然、この提案に寄生虫どもが受け入れるはずがなかった。サノスは長く苦しい戦いの末、六つの宝石を手に入れ、寄生虫を半分消すことに成功し、宇宙を救えた。
 サノスは宇宙を巣食う寄生虫どもーーつまり我々の先祖を全て消滅することができたはずだが、彼はそうしなかった。烈火の如く敵を滅ぼす偉大なる戦士であると同時に、慈悲深き賢者でもあるからだ。彼は命は同じ過ちを犯さまいと願い、平和と秩序取り戻した宇宙を我々に託した。
 諸君は自覚しなければならない、自分の命はサノスに授かれた物、そしてサノスによって自分が生かされていること。
ーーセントラルパークの芝生広場にあるサノス立像の説明文よりーー

 上の内容もねつ造だ、映画ではそういう描写が一切なかった。

 サノスが勝った。ガーディアンズとアベンジャーズは負けた。「ヒーローたちは負けない、負けたとしても、必ず立ち上がり、最後に勝利を掴み取り、皆が笑顔で平和を取り戻した世界で生き続ける」というヒーロームービーのテンプレに慣れていたおれにとってあまりにも衝撃だった。スターウォーズ:帝国の逆襲を観たあとの歯がゆさを思い出す。これじゃあ泣きながら映画館を出た子どもは続出のではないか?とエンドロールを観ながら思った。

 今までのマーベル映画でちらっとしか出なかったサノス、実に素晴らしいキャラだった。登場人物は主役級のキャラが大半占めているアベンジャーズという映画では、彼こそが実質の主役とも言えよう。今までのヴィランの一線を画した圧倒的パワーだけでなく、底しらぬ意志の堅さと芯を通ったエゴの強さ、垣間見る苦悩と人間らしさ、初主演にもかかわらずおれの心を鷲掴みした。サノスの“宇宙半分の人口を減らす”という狂人的所業は決して赦せる筈がないが、目的のためならいかなる犠牲でも構わない覚悟と必死な姿は讃賞に値するものだった。

 そして本作では″選択”がかなり重要なテーマにであるとおれ俺は思う。愛する者と世界の平和、どっちを選ぶか?という問題は陳腐の程創作で使われてきた。「俺はどっちも選ぶぜ!世界は守るし、仲間だって一人たりとも見捨てはしねえ!」と勇者の少年が大声で叫ぶと、白髪の爺さんが現れて「どちらも欲しいとは貪欲だこと......それでこそ勇者たる者よ。ワシはここであぬしに新しい力を授けよう、仲間を、そして世界を救える力を......」と勇者が新しい力を目覚めてボスを倒し、仲間がと笑い合って帰路に就いた......というような安易な王道的展開は本作には存在しない。クィル、ワンダー、そしてサノスに至って苦渋な選択に迫られた、三つ目の選択肢がない、彼らの決断を見届けよう。


10年の備えて

 トニーから始まった10年はこうして一段落つけた。正直あんな結末を見たあと、これからのMCUはどうなるまったく想像がつかない、ヒーロー映画のテンプレ自体が崩壊したもの。アントマンはは何をしていたか、クリント無事なのか。コミックだったらこの宇宙ではアベンジャーズの敗北したという事実の残されて、また新しいパラレルワールドで同じ特徴と名前を持つキャラが新しい物語を描いていく常套の手段があるが。果たしてそれは10年もの間観衆とともにしてきたキャラたちにも通用するでしょうか。

 加えてクリス・エヴァンスとクリス・ヘムズワースがMCUから卒業と公言し、今作は最後の出演になった。ロバート・ダウニー・Jrもアイアンマンの一作目からアクションシーンきついわ、筋トレだるいわ、マジ無理だわとほぼ毎回インタビューで言っているし、契約切れの噂も飛び交っている。

 まあ、どっちにしろ、おれはこれからもすべてのヒーロー映画を愛す続けると決めている。

 Thanos will be return。

 男は草原に立った。その顔には大仕事を成し遂げた安堵と、一抹の切なさがあった。男が自分に定めた天命を果たした、その対称として、男は自分が築き上げたすべてのモノを失った。

 彼は一人だ。

 そしてトニー・スターク。敗北の屈辱が身を染みながら、おまえは生き残った。10年前、おまえが宇宙のトリガーを引いた、だからおまえが決着を付けなければならない。仲間の無念を背負い、おまえは先に進むんだ!Avenge、正当な仕返し、復讐、報い、その意味をよく考えろ!

 アイアンマンはスーツのことではない。

 トニー・スタークがアイアンマンその物だ。 

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