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【剣闘日記】家族、それは絆、強さ

-ローマ-

「プゴッ」

 懐に潜り込こんでからの渾身のアッパーカットを受け、"ビッグシスター"エマージェントはよろめき、一秒後、その大木めいた巨体が仰向けに倒れた。

「……そのまま寝てろ」

 一方、鼻と口から血が流れ、全身に打撲痕が見られるドゥームが脇腹を抑え、立っているもやっとの有様だ。

 ドゥームは足を引きずりながらエマーに歩み寄り、彼女が被っている猫の耳を模した兜をもぎ取った。

「こいつはいただいてくぜ」

-現実-

(さては)

 剣闘を終え、クリア証明書と賞品カードを貰ったおれは再び列の後ろに並んだ。いつもなら賞品を貰ってさっさと退散するだったが、今日は別の目的をもって女トロール亭に留まっている。そう、剣闘カードトレーディング、略して剣トレが目的だ。このために午前はジムでバンプアップし、新品のZARAシャツを着て来た、めっちゃスタイルがいい、クリス・プラッドなみのかっこよさだ。さて、どいつに交渉を持ち掛けようか……

「すみません、並んでいますか?」
「あっはいそうです」

 いきなり話しかけられた。中年の女性だ。前に並んでいる少女の母親らしい。

「へー、そんな格好してアイカツやるんのですか?ていうかゲームに興味あるように見えない。ふしぎー」
「そうですか?」

 意味ありげな発言だ。賛賞として受け止めよう。そして話している途中に、少女の目はずっとおれのモスバーガーバッグの中身を見つめている。これはもしかして。

「うちの子はカードに興味があるそうです。見せてもらえますか?」

 キター!

「いいですとも!まあ、とはいえ大したことないんだか」

 おれはカードバインダーは持っておらず、剣闘に出かかる際は四属性それぞれのコーデを4ポケットシートに入れて持ち運んでいる。

「うん。大体わかったわ。ありがとうおじさん」
「お、うん、どうも。それで、欲しいカードがなかった?」
「ないよね」
「まじで?フレンズVol.2のカードはどれぐらい集めたの?」
「PRカードなら一通りよ、ほら」

 今回は少女が自分のカードバインダーを誇らしげに見せた。誇張ではなかった。第二弾のカードは全部揃っている。尊敬の念が浮かび上がると同時に、心配にもなった。この歳で第二弾が実装して一月半にこれほどのカードを集めたとは、それほどフォルトゥーナ神に愛されているか?それとも死に狂い筐体にコインを入れたか?金を物言わせて店から買うとか?ハッ、まっさかクラスメートを脅してカードを奪い取ったりとか!?

「そいえばベーケ・ド・フルール一式がダブってたよね。よかったら買います?」

 油断のない商人の目を光らせて、母親の方から商売を持ち掛けてきた。ここでおれが先日GETしたシェイキングパーティースニーカーではかのPRカードと交換する目的は完全に狂ったが、まあいい、乗ってやろう。

~交渉タイム~

俺「おいくらですか?」
母「そうだねー、コイン80枚でどう?」
俺「80枚、はっはっは!いくらでも高すぎますよ」
母「じゃあいくらだったら買う?」
俺「コイン40枚」
母「えぇーいきなり腰斬(刃物で腰を一刀両断すること。ビジネスにおいて定価の半分に値切るを意味します)?。うちの子また小さいんだし大人げないんじゃない?」
俺「(子供が小さいことは価額に影響あんの?)じゃあいいんです。ゲームそれほどの金かかって手に入れたいほどのものではないので」
母「わかった。なら50枚でどう?」
俺「450枚なら買える」
母「いや、50枚。これ以上はさげられないわ。うちの子また小さいんだから大人を見せてよ!」

 いやだからなんで子供の年齢は関係してんねん!50枚、剣闘16回に相当する金額か。これでPRカード四枚なら悪くない。よし決めた。

俺「OK、ならコイン50枚で買いますよ。DEALだ。」

~交渉終了~

「まいどう。カードチェックしておく?」
「いや、いいんです。信用してますんで」

 おれはコイン50枚と同額の紙幣を取りだし、少女剣闘士がそれを受け取った瞬間、花が咲いたような笑顔になった

SPECIAL APPEAL
🌻ANGELIC GARDEN🌺
+10945

「ありがとうあじさん!はい、カードね」
「どういだしましてリトルシスター。これでまたたくさん剣……アイカツ出来るね」
「パパこれを換金して!」

 少女剣闘士はすでにこちらに対する興味を失い、となりの台に並んでいる父親らしく男に紙幣を見せていた。なんと、パパもまた剣闘士なのだ。

「どうしたのよいきなり金を持ち出して、学校でカツアゲでもした?」
「違うし!カード売って稼いたお金だよ!」
「へーすごいねー。あっそれよりもうすぐパパの出番だからピュアパレットのカード貸して頂戴」
「換金は先!」

 なるほど、一家が剣闘士ならカードの獲得数も人数に応じて数倍、PRカードの入手率の跳ね上がる。そしてカードを共通資産にすればいつでもステージに合わせて最大APもコーデで挑める。孤剣でやっているおれにない強みだ。羨ましいものよ。

 と感嘆しているうちにおれの番が回ってきた。買ったばかりのカードを試してみよう。なんとプロテクターまで付けてくれた、ありがたい。

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 因みに今回の賞品はこちらです。

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今度の格言:剣闘は家族事業



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