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おれには神聖すぎる

WARNING▲宗教に関する話です。不快感を催す可能性がありますWARNING

 最近は毎週土曜の夜、精舎に行くことになっている。

 その理由は父が先月に他界し、仏教の慣習に従って亡くなってから49日の間に、毎週は少なく一回寺に行ってボンズの指導のもとに経を唱え、その声が亡者をあの世へと導く道しるべになるとか。これが超薦だという。

 超薦の流れはこうだ。まずは親族がブッタと亡者の前にお香を挿し、それからボンズのリーダーで経を唱える。経は週ごとに替わる。そして最後に般若心経でしめる。この過程は大体一時半から二時間ぐらいかかる。途中で十方過去現在のブッタに敬意をを示すため何度も跪き、ひれ伏す必要がある。ひれ伏す度におれの膝と踵が不可逆の損傷を負っていくことを感じた。

 両親は信心深いブティストではあるが、おれはそうでもない。確かにブッタはすごいやつと思うし、彼の教えはある程度正しいと認めているが、休日の夜に二時間も立たせたうえで、何度もひれ伏し機嫌を悪くした挙句、供養といって自分の金を好きでもない寺院に差し出すのは以ての外だ。周りから「お父さんのためだ」とうるさく言われているし、おれもいい年して親心しらずのクソガキと思われたくないので、エゴを殺して我慢することにした。普通に詠めば10分ほどで終わる経を妙なトーンとリズムでアレンジされた呪文めいた声を聞き流しながら、過去のことを思い出した。

アンタイブディズムおにいさん

 あれは去年の冬だった。帰りの電車は日本のほどではないが、やはり混雑している、スマホを見ることも困難なほど人々が密着している。おれは観念し、次の駅で少しは楽になることに期待した。すると車輌の向こうに大きな話し声が聞こえた。

「みなさんがご存知だろうか!?仏教は邪教であることを!」

 いきなり何を言い出すんだ?声が発する方向を見ると、ドアの側に立っている背の高い男がいた、その格好はなんていうか、ダサい。白いジャケットに白いTシャツに灰色のズボンにサンダル。明らかに服とスタイルを気にしないタイプの人間だ。今でも大声で何を言っている。となりの女の人は居心地悪そうに頭を低くしている。気の毒だ。

「……その理由は、歴史上何度でも証明されていた!中国、日本、アメリカ。いずれの国も徹底的に仏教を排除し、今の繁盛を手に入れた!明治維新、文化大革命!どれもが新体制と仏教の戦いだ!」

 なに言ってんだこいつ?ラリってんのか?明治維新は知らないけど文化大革命は仏、道、儒及びキリスト教も迫害を受けていたはず。アメリカは多分関係ない。

「そして今でも仏教を信仰していたインド、タイ、チベットなどはいつまで経っても後進国のままで、人々は泥と糞にまみれた道路に寝そべ、ろくな食物を貰えず飢えとやまいに苦しんでいる!つまり仏教は滅国教!我が国を救うには、仏教を徹底的に滅ばさないとならない!目を覚ませ!真の救世主であるジーサス・クライストのもとに集い、異教徒を誅滅するのだ!」

 その日、おれは小説でよく見かける「宗教的熱狂を宿った彼の目はギラギラ光っていた」という表現は現実ではどのような物か思い知った。駅に着いた電車のドアが開き、男が降りて行った。車内にいつもの沈黙が訪れ、モーター音が鳴り響いた。

信仰は義務ではない

 いまでもたまに彼のことを思い出す。仏教に対する激しい憎悪、間違った認識、さながら狂信者めいていた。彼は一体どんな過去に何があったか、何が彼をそこまでつき動かしたのか、想像する他ない。

 宗教迫害、強制改宗、これといったことは歴史上何度も繰り返してきた。どの宗教にも良い面と悪い面がある。おれはそれについて語るつもりはないし、それほどの知識を持っていない。だが毎週土曜日の集会は確かにおれの精神を削っていく。おれには神聖属性は似合わないようだ。だから集会のあとは唐揚げとミートソースフレンチフライズを食べることでカルマを下げて中和するのさ。

 おれはあと一ヶ月我慢すればいいだが、あなたがもし子供を宗教的集会に連れて行く気があれば、もう少し考えてほしい。子供を興味のない場所に何時間も縛り付けて興味のない演説を何時間も聞かされるのは本当にいい影響があるのか?あなたの行いは、実はアンタイブディズム/クリスト戦士を育てているかもしれない。

 あっやべ、なんか説教臭くなってきた。じゃあこれを聞いて機嫌を直してくれ。

 そんなに嫌なら行かなければいいじゃん?とあなたは思う。

 正直な……おれは映画でよく見るいい年して実家の地下室に住んでいる、だめな奴なんだ……だからさ、この家が母さんの所有物である限り、おれが平穏な生活を送るには、ある程度彼女の機嫌を伺ったり、合わせたりしないといけないんだよな……ハハッ。

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