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ふたりはPre-cure ③


「ふぅー、楽しかった〜」

 カラオケに出た鈴さんは頬が赤く染まって、額に汗が浮かんでいる。さっきまでシャウトしまくったからだ。

「ハァー、外は涼しいね」「そうだね」

 外はすっかり暗くなった。8時24分、魔法の時間が過ぎ去る予感がした。

「そろそろいい時間だし、何が食べますか?」

「うーん、どうだろ」鈴さんが自分の腹をさすった。「お腹空いてないよね」

「俺もだ」

 カラオケで注文したフレンチフライズ未だに腹に残ってる感じだ。

「せっかくだし、どこかでちょっと飲んでたら帰りましょうか?当然、鈴さんが良ければ」

「いいね!ここら辺ならいい店知ってるよ。付いてきて」

 同時に15m離れた場所で。

「ターゲットは動き出したぞ」

 クレイトンはコンビニで購入したコーヒーを排水溝に捨て、紙カップを潰して懐に納めた。

「ヴィジョンで見た事件が起こる時間は夜だった。気を引き締めていこう!」

 サミーは空になったモンスターエナジーをゴミ箱に捨てた。二人の顔から浮かれる観光客の表情が消え、使命感に燃えるPre-cureと化した。気圧された観光客とサラリマンが自動的に彼らが進むから退いていく!

Pre-cure! Pre-cure! Two guys are Pre-cure!
Pre-cure! Pre-cure! Two guys are Pre-cure!

「あー、あった。こっちよ」

「……こんな狭い場所に店があるのか?」

「大丈夫だよ。さあ、先に進んでちょうだい」

 おれは鈴さんはが指した路地を覗き込んだ。レンジフードのチューブが轟々と声を立てながら隣の飲食店の廃棄を吐き出し、地面にプラスチックの籠や折り畳んだダンボールが積まれて、壁についた電球が申し訳なさそうに明滅している。

「鈴さん、なんか場所間違ってない?……えっ?」

 振り向くと、鈴さんがいなかった。訝しむ隙すらなく、何者かが後ろからおれの腰を掴んだ。

「ちょっ!?おい!な、何なんだ!?」

 突然のでき事に腰が抜けそうになった。後ろのやつに捕まれ、おれは道路から離れてゆく。そして今度は黒いパーカーを着た男が道路から路地に入ってきた。なんかバットを持っている。今朝駅で出会った妙な外国人二人組が脳内によぎった。

僕はまたヴィジョンを見たんだ。中華街の路地裏に倒れ、バットを持った男に踏みつけられるきみを

 連中が言ったことが本当だった?いやそれより鈴さんはどうなってる?まさかあの黒パーカーになんかされたんじゃないか?

「やめろっ!」おれはもがいて、無闇に後ろへ肘打ちを打った。

「ん、がっ、ぐぅ!こいつッ!」

 後のやつのが声を上げて、力が弱まった。そいつの手を引き剥がし、拘束から脱した

「おいガイ!なんとかしろ!」

 後のやつが叫ぶ。黒パーカーが近づいて、バットをカタナみたいに中段で構えている。おれは両手を前に伸ばし、叫んだ。

「待て!何がしたいんだ!?金か?財布ならやる!」「……」

 しかしガイと呼ばれた男はおれの呼びかけに構うことなく距離を詰めてくる。聞く耳なしかよ!おれはこの状況いかに脱するか思索した。アドレナリンが分泌し、周りが一層明るく見える。

 おれは両手を上斜めに突き出し、Vの字に形作った。素手で棒状の武器を持っている者を相手にしている際は、ガートしても骨折するだけ。こうやって手を伸ばし、攻撃の軌道をそらすのが正解だーーと以前テレビで観た。バットが振り下ろされる。

「ンンンーッ!」

 バットの先がおれの左腕を掠め、肩に当たった。素人による見様見真似の護身術は果たして役に立ったのかだろうか。左肩に一電流が走ったように痺れて、次の瞬間、耐えがたい痛みが圧力が満ちた間欠泉のように一気に爆発した。

「ぐおぉぉっぉ……」

 おれは肩を抑え、声にならない悲鳴を上げた。

「ハッハーッ!」

 背中に衝撃、後ろの奴に蹴られたのか。バランス崩れたおれがそのままうつ伏せに倒れた。ガイがおれの背中を踏みつけて、体重をかけた。

「こいつの持ち物を探せ、急いでだ」「へいへい、失礼するよー」

 後ろの奴……未だにその姿を見れなかった男が素早くおれのポケットを探り、財布とスマホを奪い取った。

「あんたたち……何者なんだ?鈴さんっ、おれと一緒にいた女の人に何をした?」「るせぇ」「ぐぅ!」ガイがなんの激情もなく吐き捨て、おれを踏んでいる足の重みが増した。

「苦しいかい、兄ちゃん。ちょっとお金貸してほしいだけだから……あ、現金ではなく、口座のね」後にいたやつがおれの右横に来て、しゃがんだ。こいつも全身黒い服に包まれている。その手のおれのスマホがある。「そんでパスワードとか、色々教えてほしいけどよ……」

「誰か!たすげうぶ」

 助け呼ぼうとしたが、男は手袋をはめた手で顔を鷲掴みして止めた。

「ご協力お願いしますよぉ!本当に死にたいのですかねぇお兄さん?ええ!?」

「おい、時間が掛かりすぎた。寝かせてアジトに運ぶぞ」

 アジトだと?どこへ連れて行く気だ?おれに何をする気だ?内臓を抜かれるか、外国のどこかで死ぬまで働かせるか、金持ちの性奴隷になるか……これから辿るかもしれない幾つの結末が頭に浮かび、おれは焦った。

「待て!パスワードが欲しいなら、教える!だから……」

「くどい、もう決まったことだ。おい早く……クソ!」

 飲食店の裏口が開かれ、汚れたエプロンを着た男が路地に入った。

「えっ、ちょっ、どういう状況ですかこれ?」

 コックらしき男が進行中の犯罪現場を見て訝しげに言った。

「なに見てんだ。引っ込んでろ!」

 ガイがバットの先端で料理人に指し、凄んだ。

「あっ、いや、困ります……」コックは体が震えながら、逸然とした声で言った。「彼をこれ以上怪我させたら、Pre-cureの名折れです」

「「はあ?」」

 意味不明の発言に、黒い服の二人思わず呆気にとられた。その時である。

 バッシュ!コックが腰ために構えたテイザー銃からワイヤーが射出され、その先の小さな金属棒がしゃがんでいる男に突き刺す!「グルロローッ!」男が激しく痙攣し、倒れた。

「てめえッッ!」その様子を見たガイがバットを高く持ち上げ、進み出た。コックは後ずさる。テイザー銃は連射が効かないのだ。「かち割ってやる!」バットを斜め下にスウィング……したいところだが、スウィングできない。バットが何かにひかかって、動きを邪魔している。

 振り返ると、プロレスラーみたいな白人男性がいた。片手でバットを強く握り締めて、抑えている。

「オーケーボーイ。そんなに血の気が多かったら、おじさんが発散するの手伝うぜ」

ヒア・ウィー・カァム!(Pre-cure!)
アウト・オフ・ザ・ウェイ!(Pre-cure!)

(続く)


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