見出し画像

【夏休みの剣闘】Gladiator session log

 ヴェイケーション、それはスクールなる非人道施設に禁錮されていた学徒剣闘士たちが短い間に制限された自由を得て、アリーナで存分に腕を振るわせる時期。若き学徒剣闘士はとにかく気が荒く、無慈悲で、行動が予測不能のため大人の剣闘士にとっても厄介な相手である。しかしヴェイケーションは剣闘士ならだれでも通った道だとマスターとう腐が言っていた。これが私が剣闘始めて以来、初めての夏休みの記録である。

 夏休みが始まる間もなく、私は洗礼を受けた。いつものようにアリーナに赴いた私の目に入ったのは、台の前ではしゃいでいるちびっこどもと彼女らを見守りながら周囲への警戒を怠らなかった保護者たちである。その雰囲気がなというか、入りつらいのだ、とても。「ああ……これがローマのあるべき姿かもしれない……」と思った私はしめやかにアリーナを後にした。おれは大人だ、一日剣闘しないぐらい我慢できる。

 そして次に剣闘はなんと十日後になった。

 この日は初めて「後ろに並んでいるともだちがいれば譲ってあげてね!」のシチューエーションに遭遇した。私は善良の大人なので当然席を譲った。

 そして時が過ぎていき、八月、フレンズ第二弾が実装した。新たな戦いの幕開けである。戦いに身を投じると同時に、カードのトレーディングも試みた。

 結果はまあ、ガチ勢はかなり早い段階でカードを集めきったので交換しようがなかった。いいさ、そもそも私は最強のチャンピオンになるため剣闘やっているわけではない。気を長くして剣闘士に声かけていくよ。

 悲しい事件の翌日、私は来る度にいいカードが出るラッキー文房具ショップに来た。そして

Shaking Shaking welcome to the party

 やったぜ!プレミアムカードだ!早速コーデを作ってみた。

 ブロンドのおさげ二つという繋がりでかなり似合った。エマの姉貴、Vol.1では不遇の子だったがVol.2では怒涛の勢いで巻き返している。

 そしてこの時点ではホワイトレトロスポスカートはすでに二枚持っているので、私は隣の症状剣闘士に交渉を試みた。

私「Hey、きみ。このカードもう持っているのかな?」
少女「いぇ……」
私「そうか、なら交換してみない?もし余ったカードがあれば……」
少女(頭を左右に振る)
私「そ、そうか。すまなかったね。お詫びにこのカードをあげるよ」
少女(頭を左右に振る)
少女の母親「ふふっ、怖くて受け取れないみたいですね」
私「はは、そうですか。失礼しました」

 急いでカードを片付けて少し傷ついた心を拾って店を出た。


 同週末、新たにできたコーデを試すため女トロール亭にきた。

「クソ!また後出しプレミアムカードかよ!ファックファックファーーック!」

 このファック多用少年剣闘士は以前レッスン大会の時見たことある。軽快な手捌きでボタンを叩き、少々神経質でフリーク感があるが腕は一流だ。隣の台でプレミアムカードが出たことで憤慨しているようだ。

「ねえ、ちょっと写真を撮らせて……クッソもう何回目かよおれがプレイしたあとでファッキンプレミアムカードが出たの!?ファックファック!まったくファッキン羨ましいぜ!」

 君こそファック使いすぎるぜ。学校で不良に絡められてないかおじさん心配だよ。

「おうオッサン、お待たせ!さっさとやりなよ!」「おう、どうも」

 私の番だな。さてコインを三枚入れた。何が出るかな?おっとこれは。

  やったぜ!プレミアムカードだ!

「ファーーック!!?」
「これで君はもっと悔しくなるな」
「ファーーック!!?」

 ファック多用少年はやや語彙力を失ったようだ。

「し、写真!写真を撮らせろ!頼む!」
「ああ、いいぞ。それとピュアパレットのプレミアムカードがあれば交換してやってもいい」
「ファッキンまじか!?ファック待てくれよ!」

 少年はカードコレクターを探り始めた。私は自分の剣闘に集中する。うむ、自分で言うのもあれだがいいコーデだ。全く違和感がないね。しばらくPOP属性はこれで行けるな。曲が終わると、隣で待機していた少年は話しかけて来た。

「これしかねえけど交換できるか!?」

 彼が持っているのはブーケ・ド・フルールハット。アクセサリーのPRカードだ。さてどうするものか。

「いや、駄目だね。ピュアパレットじゃないとな」
「あっそうかよ」

 後悔するぞと言わんばかりの顔で彼はカードを戻した。よく見たらピュアパレットとカラフルショックのPRガードもう揃えてるじゃないか。実にアクティブな剣闘士だ、その口調が何とか出来れば私からソンケイを得られただろう。

 そして時が過ぎ、九月!ヴェイケーションが終わった!

(クッキキキ……快適じゃ……実際快適じゃぞ!)

 空いているデータカードダス筐体の列に、私は心の中で呟いた。さっきから通った人間はそれなりに居るが、こどもは一人もいない!注視されずにやる剣闘はそんなに快適だったとはな!

 ーローマー

「ハッハー!アリーナの神が帰ってきたぜぇ!」

 ドゥームはパリィでバランスが崩れた相手に飛びかかり、処刑めいてグラディウスを逆手に突き刺した。プシュー、血しぶきがドゥームの顔を真っ赤に染め上げる!

「最ッ高ォー!」

 大人の力を知らしめる時が来た。

 ちびっこたちよ、指をくわえてスクールの窓から見ておれ。

 プレミアムカードはおれの物だ。



当アカウントは軽率送金をお勧めします。