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なにもかも構わず暴力振るいたいと思ったことないか?

「……で警察が来てなあ、そんでさあ、あいつ警察を殴りやがった!」余計に大きい声のうえに引っかかる内容が耳に入り、俺の集中を乱した。手書き書類作業を中断し声がした方向に目を向けた。4時方向のテーブルに4人組がパスタやステーキを載せた皿をフォークでつつきながら談笑している。男3人、女1人。4人も若く、中3〜高2ぐらいか、しかもブレイクダンス部員みたいに柄が悪い。午後二時なのに学校に行かずレストランででたむろってんだ、思ってみれば当然かもな。

 女子の方が何か喋ったが、常識的な音量なので店内の音楽に遮れれてこっちのは届かなかった。

「警察ぐらいびびるかッつーの。こっちは未成年だぜ?俺らの指一本でも触ったらyoutubeに動画アップして社会的殺せばいいんだよ。警察もそれがわかって何もしてこねえよ。その時ヤツの顔がさ……動画撮ったけど見る?」

 ジャージにサンダルの少年がスマホを3人に見せ、4人は爆笑した。書類を書いている振りしながら胸くそ悪くなった。悲しいことに、この国の警察は数年前の国会占領事件以来、その威信が地に落ちた。重犯罪に対する取り締まりは相変わらずだが、相手が学生あるいは青少年が行う小悪の場合はその態度は消極かつ保身的になり、「自己表現は犯罪に当たらない」「子どにも参政する自由がある」「子ども相手にムキになるな」など標語を掲げて若い世代の票を籠絡しようとしている政党がマスコミと手を組んで騒ぎ出すからだ。国会占領事件の時主事者の学生はほとんど無罪釈放だったに対し、治安維持に赴いた警官たちが青少年の唾やビンタに見舞われた上、「無力な国民に対し国家権力を悪用し暴力を行使した」という罪を着せられ処分された。ひどい話だ。何か無力、何か国民だ、おまえらは納税という義務も果たしていないだろ。

「どうよ、すげえだルルォ?」

「でもかわいそうだよな。もし俺がこんなふうにされたらもう死ぬしかないわ」

「警察という連中はビッチより羞恥心がないからな」

「「「ハハハハ!」」」

「で、結局どうよ?」と女子。「あんたらこのあとどうなってんだ?」

「ああ、騒ぎになったしさすがにタイホされたらまずいからその場で解散したぜ。命拾いしたなアイツら」どうやらサンダル少年はほかのグループと喧嘩していたようだ。

「あのデブの野郎殴り飛ばした感触、今でも残っているぜ……」少年は気味よく左手で右拳を撫でた。

 デブ野郎を殴り飛ばした?その細腕と貧相な胸で?本当に?と毎回ヤンキーどもが武勇伝を披露する場面に遭う時はいつもそう思う。ケンカは筋肉量が多いほうが勝てるとは限らないことぐらいが知っている。もしかして少年はカラテや柔道を学び、人を傷つけるための技術身につけているかもしれない。だが俺は自分が負けるとは一切思えない。どこからの自信か、今すぐ四人のテーブル向かい皆殺しにすることができると思った。切り裂かれた四人の死体の中心に、ナイフとフォークを両手に握った俺が荒い息をしながら自分がやったことを見下ろす様を……

 あほくさ。俺は想像を脳から払った。典型的「昔のいじめにあった子供が成人となりブーリに復讐を図る」思考になってる。FALLOUTやマッドマックスじゃあるまい、暴力を振ったところで国家権力に潰されたがオチだ。この国の法的機関は未成年や特定の政党を支持する層以外には依然強気のままだ。俺はちょっと売り上げが悪くてストレスが溜まっただけだ。今夜はジムでも行こう、体を動かすことでストレスが軽減すると医学的にも立証されている。

 イヤホンを耳に嵌め、メタリカのSt.angerを大音量を流した。外界との接続を切断したとは言い切れないが、少なくとも青少年たちの耳障りな談話が聞こえなくなるだけで遥かによくなった。St.anger、俺がヘビーメタルに興味を持ったきっかけになったアルバムだ。歌は愛とか家族とかばかり語るものではないと教えてくれて、くそださい中二ナードの俺のこころを打った。「メタリカの堕落はここから始まった」「昔のキレがまったく感じない」「ブルシット、トートリブルシット」というコメントがyoutubeでたくさんみたが、知ったことではない。

「Frantic,tic,tic,tic,tic,tic,tac......frantic,tic,tic,tic,tic,tic,tac.......FRANTIC! TIC! TIC! TIC! TIC! TAC!」パワーに満ちたジェームスのシャウトと共に俺は再び妄想のなかに陥った。そうだな、もし社会が崩壊し、世界が再び闇と暴力の時代になったら、俺はどう動くか。やはり放火だな、俺を舐めやがった得意先の店に火炎瓶を投げ込み、オフィスにガソリンかけたあとZIPPOを投げて点火するんだ。この二つができたらもう死んでもいいや。ほかに以前俺をいじめた奴探し出し、ハンマーで頭かち割ってやるとかもしたいけど、さすがにそこまで生き残れるかどうか......

 あほくさ。

 これを書いたのは「俺は怒るとマジやばいやつだぜ!あまり怒らせるなよ!」とアピールしたいわけではない。誰だって特に理由もなく隣席の人を殴り倒したい、町中でAK47をぶっ放したい時があるでしょう。誰だって心の中に暴力性がひそんでいる。想像するだけなら罰に当たらない、嫌いな上司、同僚、政治屋など、脳の中でなんど殺しても犯罪にならない、今の時点では。だから暴力に憧れる男女たちはどんどん想像するがいい。だが誤ってそれを口に出さない方がいい、バカだと思わせたくないなら。

 最後に暗い感情と秘めた怒りを抱えている人々の夢がいつか叶えるよう、お祈りして差しあげます。

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