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婦人科医のシズ先生:バジリスクの章

 「ゴッゴッゴッゴガ……」

 いつもの診療室にいつもではない患者がやってきた。

 シズの前に、一羽のニワトリが居た。雄で、羽毛は金属の光沢を帯びた黒。トサカは熟したトマトのように赤い。

「二日前、陽がまた昇っていない時、ニワトリが鳴った。騒がしいなと思って鶏舎に向かってドアと開けた途端、一匹の黒い蛇が隙間から這入って出た。わたしは驚いて、エサの袋を取り落とした」

 とニワトリの飼い主、浅黒く焼けた肌のダビーが心配そうにニワトリを見つめながら述べた。ニワトリはただキョロキョロと頭を動かしている。

「蛇はすばしこく、暗闇の中に消えていった。鶏舎に蛇が侵入したと悟ったわしは慌てて中に入った。しかし予想に反して、ニワトリは一匹も減らず、だたびっくりして興奮していただけだった。卵だけ食って満足しただろうと思って、私はエサを多めに撒いて鳥たちを労わった」

「ココッコグァー!」

 ニワトリは発作的に鳴いた。

「でもピーコックが……この子の名前でね。一切エサを食わないんだ。いつも食欲旺盛なのに。変だと思って捕まえて見てみると。驚きのことに、ピーコックから雌のフェロモンの匂いがしたんです」

「……つまり貴方はフェロモンの匂いを嗅ぎ取れると」

 ここでシズはダビ―がピーコックケージから出してから初めて発言した。

「勿論です!うちは代々養鶏家なので。ピーコックから雌の匂いすることで、私は祖父が教えたバジリスクの伝説を思い出した。これで辻褄があった。あの黒蛇がピーコックをレイプしたんだ!バジリスクを産ませるために!先生、ピーコックの中絶をお願いできませんか?」

 真面目に尋ねるダビ―に対し、シズはオフィスチェアに背を持たれ、腕を組んだ。

「では、医者としての判断を下します」「……はい」

 緊張した空気の中、ピーコックがダビ―が着ているセーターをつついていた。

「殺処分で」

 死神の判決めいて、シズの言葉が部屋の隅まで届いた。

(続く)

 シズ先生の軌跡を追いましょう。



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