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辛い麺メント② #ppslgr

「ほえー、ここが百忍街か」道のど真ん中に立ち、M・Jはスマホを取り出し、写真を撮り始めた。「いいね。なんかTHE・ASIAって感じ」

「日本だって十分アジアだろ?道の真ん中に立ってると危ないぞ」

 今日はちょっとnoteから離れ、パルプスリンガーの中でも辛い麺好きで有名なM・Jを、俺が書いた2019のニンジスレイヤー222でファスト・アス・ライトニング受賞記事で一気にニンジャヘッズの間に聖地とみられた百忍街に連れて、辛い麺を食べることにした。

「狭い道なのに、結構店があるね。あの店のチャーハンもおいしそう」

「おいM・J、目的を忘れていないか?日本とは違う形に進化した辛い麺を食べたいと言ったから連れて来たんだぜ?」

「覚えているよ。辛い麺を食べてからもし腹に余裕があったらハシゴしないかと考えているだけさ。で、今日の辛味の聖殿はどこかね?」
「あそこだ」
「近い!」

 俺が指さしたのは、「一号乾麺」と書いてあるヌードルショップだ。仕事でここら辺を通う度は何度も食べたことある。

「ドーモ。メニューはこちらにあります」
「「ドーモ」」

 また十一時ちょうどなので僕ら以外の客がいない。とにかくきょろきょろと好奇的視線を配っているM・Jを席に座らせ、メニュー用紙を見せた。

「ナニニスマスカ?」
「あっ今のタカハシの真似?うーん……メニュー見ても分かんないや。ここ一番のおすすめは白玉辣麺っていうだっけ」
「そうだな。とりあえずそれいっとく?」
「OK」

 俺はメニュー用紙の白玉辣麺の欄に「T」と書いた、この項目を二つ注文する意味だ。因みに一つの時は「一」で、五つの時は「正」と書く。

「せっかくだし。なんか別のもん注文しない?」
「いや、俺はいいよ。どうせ辛さで他に何も入らなくなある」
「へー、でもおれはこう見えて辛さに強いんだよ?一丁だけは物足りないかも」
「強気だね。じゃあこれはどうだ?」

 おれたちはカウンターのとなりある金属で縁を取ったガラス棚を見せた。中には肝連(豚の肝臓周りの筋肉)、豚の頭皮、小腸、豆干、つまようじを刺した昆布などの食材が並んでいる。

「なにこれ?」
「これが黒白切(オーバーチェ)という、まあ茹でた食材を切っただけ料理だ」
「いや切ってないよ」
「食材は全部ある程度煮込んであるここで選んだ後でだしで加熱してカットするんだ」
「へー、でも二回煮ると肉が固くならない?」
「そうならないのが職人技だ。そろそろ決めるようか?店員がすごい睨んできている」
「ああ、そうだね。じゃあこれとこれと……」

 M・Jはトングで肝連、小腸、昆布、厚揚げ、少し考えてから小腸をもう一本ステンレス鋼ボウルに入れた。次にトングで掴み取ったのは、黄色いせんべい状の物体。

「これは……つけ揚げ?みなみの国にもあるんだ」
「おっと気づいたか、そいつは……席で話そう、店員がめっちゃ睨んでいる。以上でお願いします」
「はい。後で席にお持ちしますんで」

 ボウルを店員に渡し、おれたちは席に戻った。

「話を続けるぜ。あれはこの国で甜不辣(テンブーラ)という、魚のすり身をこねて揚げた食べ物ださつま揚げとほぼ同じ」
「テンブーラ?、発音からしてつけ揚げの別称である「てんぷら」に因んだか?」
「その通りだ。日本人が植民時代に持ってきたのかわからないが、名称はてんぶらから来ている」
「そうなんだー。また一つかしこく……」
「はい白玉辣麺二つお待ちー」

 ト、トン。二つの丼がテープルに叩かれた。

「あっ、どうも」
「ども」

 感謝を告げおれたちに構わず、女将はさっき注文した黒白切を置いてまた厨房に戻った。

「ぶっきらぼうねえ」
「この国ではあれじゃあ普通かな。日本の飲食業は俺からすれば丁寧すぎたっていうか……」
「いやいいと思うよ。サービス業だからで必要以上客に媚びる必要はない……それより麺だ。うむ、辛いそうに見えないすけど」

 白玉辣麺、それは白麺に黒酢とごま油をベースにした福州乾麺に、店特製の辛子漬け大根をかけた。

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「ああ、俺も最初は舐めていた、そして痛い目に遭った」
「そらA・Kが辛さに弱いだけじゃあないか?」
「調子こくいてんなおい」
「まあ食べてみりゃわかるさ。そんじゃ」

 M・Jは箸を取り、丁寧に麺をかき混ぜはじめた。乾麺は具と麺が平均に混ぜてからこそ完成した料理になるんだ。

「よぉし、これでいいかな。いただきやす!」
「あす」

 やっとM・J選手は麺を摘みあげ、口に入れた!

「ズルズル……プッ!」

 しかし日本人ぽく麺を啜ってしまった!これは悪手!

「ガーコッポ!エーッコホ!ブァッカヤッルホー!ゲッッツァゴォ!ゲーベラッコー!アマノミナトォ!」

「おいM・J大丈夫か~?」

 その苦しみ様に、おれは愉悦に近い感情で見守った。

「コッホ、コッホ、ウェーケッホ!これはコフッ、想像以上に……!ウップ!」

 M・Jは顔が赤くなり、額から珠のような汗が湧き出た。無理もない。辣油が気管に入ってしまっただろ。

「ふぅー、うめえな……」
「無理すんなよ。はら、水ならそこにあるぜ」俺は飲み物を冷やしてある冷蔵庫の方へ指さした。中にはKIRKLANDののペットボトルウォーターが整然と並んでいる。「でも有料だぞ。ここの女将さんサディストらしくてね。喉が焼かれる苦痛をただでは解放してくれなさそうだ。水が欲しければ金を払って……」
「何勘違いしているんだしているんだいA・K。ずびび……」
「あぁ?」

 M・Jは汗、涙、鼻水まみれた、しかし闘志に燃えている表情で見つめ返した。

「こんなこと……ずび……コホッ。店に入って水ピンが置いてないことから気付いてるよ。この店がただで水をくれないというスタンスできたら、こっちは日本人の流儀で応えるべきと思ってね……ずび、ツーーン!」鼻水をかみ。「これからが本番だ。知ってるか?プロの辛い麺イーターがな、食道と気管の筋肉まで意のままに制御するんだ」
「おい、おいまさかM・Jおまえっ」
「おれはプロだ!これから一切咳なく完食してやるぜ!あむあむあむあむあむぅ!」

 チャイニーズスタイルに切り替わったM・Jは猛スピードで麺を口に運ぶ!

「うめぇー!この漬け大根がさくさくでたまんねえー!」

 そして箸を黒白切が載った皿に伸ばし、一気に三切りの小腸を摘まんで口に放り込み、咀嚼!

「思った通り、油が乗った腸は辛さを和らけてくれるぜぇ!どうしたA・K?まさかおれの食べっぷりをみてビビったか?まあいい、ローカルのA・KがフォリナーであるM・Jに気圧され、麺を食べずに敗退と、バーメキシコの皆に言いふらすからな!」

 いつ勝負の話になったんだ?しかしその挑発に、俺は乗るしかなかった。戦わずに死ぬ、それはパルプスリンガーにとって最大の恥である!

「クソっ(食事中クソの話するな)……食ってやる!俺だって四川人の血統を受け継いでるんだ!負けるものかァ!ヌォー!」

 箸で麺を摘まみあげ、いざ口内へ!あむ、黒酢の酸味がよく麺にしみ込ませてい食欲をそそる。若白菜がぐぽっ。

「ギャッホ!プレーッボォ!カクゥゴォ!ベッホ、ベッホ、ベンデホー!ファアーッギ、ンホットォー!」

 緑色の刺客、若白菜が食道を通るさいに、その身に纏った辣油を僅かコンマ1㎖だけを気管に流したが、それで十分だ。辛味が気管を刺激し、俺は盛大に咳き込んだ。気管に空気が通る度に辛さが頭に登ってきた気分だ。あっという間に俺は顔中に汗まみれで、涙目した。

「コッホ、ケッホ……ゲェ……くそが(食事中クソの話するな)……クッフ」「大丈夫かいA・K?水ならあっちにあるぜ、有料だけど」

 汗をかきながらも、M・Jは得意げに言った。

「あら、ちょっと辛すぎたかしらね」

 女将もまた愉悦な表情で二人の食事を見守っていた。

(辛い麺メント② おわり)

今回のコラボ先のこの方です



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