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強烈に残るワンシーンがあるということ。

小説や映画が好きなのだけれど、物覚えが悪くて、すぐに話の内容を忘れてしまう。どんなに感動した作品でも「どんな話なの?」と聞かれると、あれ……どんな話だったっけ?  とことばに詰まってしまうことがよくある。

そんな時に思うのは、「強烈なワンシーン」がある作品は強いなあということ。

たとえば私は『クレイマー、クレイマー』という映画がだいすきなのだけど、話の概要は「家事や育児を妻に任せっきりだった主人公(ダスティン・ホフマン)が、妻に家を出ていかれて、初めて息子と2人で生活をしていく家族愛の話」くらいにしか覚えていない。

けれど、この映画の何がいいの? と聞かれて必ず答えられることがある。それは、かの有名な、フレンチトーストのシーンのことだ。

最初は心が通わずすれ違ってばかりだった親子が、少しずつ、少しずつ、心を通わせていく。その様子が、2人でフレンチトーストを作るシーンでありありと描かれている。私の中に強烈に残っているワンシーンだ。

最初は息が合わずお互いがイライラしてうまく作れなかったフレンチトースト。牛乳はこぼすわ、フライパンはひっくり返すわ、ダスティン・ホフマンはキレるわ……見ていられなかった。でも、心を通わせていろんな困難を乗り越えた結果、2人でフレンチトーストをうまく作れるようになる。



ああ、何度見ても泣ける。このシーンが、なんだかこの映画のすべてを物語っているような気がして。このシーンを思い出すだけで、この映画がとてつもなく素晴らしい映画だということがいろんな人に伝わるような、そんな気がするのだ。


ゆずの曲に「ダスティンホフマン」という歌があって、その中に、次のような一節がある。

ダスティンホフマンだったら 協会の窓に張り付いて
君の名を大声で叫ぶだろう
けれど僕にはそんな理由もなくて
コンビニ帰りの夜空 君の名を一人つぶやいた

これも言わずもがな、映画『卒業』の強烈なあのラストシーンが生み出したものだろう。協会の窓に張り付いて花嫁の名前を叫ぶ、あのシーン。

正直『卒業』を初めて見たときは、なんだこのドロ沼劇……と思っていた(高校生とかだったのでw)。でも、最後のラストシーンを見たとき、ああ、すてきだな、と思った。体裁も何もかも捨てて自分のことを想ってくれる人がいるということ。つまらない世界から、どこか新しい世界に連れて行ってくれそうな気がすること。何よりも、心から愛する人と一緒になれるということ。そういう、何もかもを捨てた純粋な主人公の想いと行動に、心を動かされた。


同じように『life is beautiful』の机の下のキスのシーン。これも私にとって強烈なワンシーンだ。この映画は前半は幸せな恋愛映画で、後半はとても社会的な悲しいお話になるけれど、私の中の記憶では、2人が一番幸せだったであろうこのキスシーンの印象が一番大きい。グイドのような人と結婚するんだ、と、当時の私は心に決めていたっけ。



このように、何か強烈なワンシーンがあるだけで、映画が記憶に残る、心に響く可能性はぐんと上がる。そして、そういったシーンがある映画は、やっぱりとても好きになる。川村元気さんが、たしかどこかのインタビューで、「自分が本当に撮りたい、たった1つのシーンを撮るために映画を撮っているようなものです」と言っていたっけ。

小説とか記事とかも、同じようなものなんだろうなあ、と思う。何か強烈に伝えたい一文や一節のために、それまでの物語や文章をていねいに、ていねいに紡いで作っていく。そうやって作られているからこそ、その強烈な「伝えたいこと」っていうのは、多くの人の心を動かして、共感を得るのではないだろうか。

自分の中の「強烈に伝えたいこと」を大事にしながら、コンテンツを作っていきたい。と、あらためて思う月曜の夜でした。


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ありがとうございます。ちょっと疲れた日にちょっといいビールを買おうと思います。