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【#2 数字】夜を数える

「十人十色」
と書くつもりが「十入十色」
上から書き直したら10×10で100色になった。親戚から買ってもらった百色の色鉛筆は、結局10色あれば十分だった。
リンゴを描くには、赤があれば問題なかった。
十人十色、好きなら問題ない。
百人百万、ツイッターのアカがあれば問題ない。喫煙所でも山手線でも路地裏の窓でも桜木町でも持ち切りだった社長。あれも書き間違えて2020タウン。ナンバーズの方が当選確立高かったらしいですよ。

競馬、ボート、宝くじ。試験、単位、出席数。納期、売上、残業代。
冬は数字に追いかけられてばかりで、肝心の昼と夜の境が分からない。
数字って面倒くさい。シュワシュワした奴からカラフルなやつまで、今のご時世は一杯目から十人十色でいいじゃない。飲み代は、百万あれば足りるでしょう。

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1、2、3、4
点滴が落ちるのを、ゆっくり数える。
透明な管を通って、水滴が流れ込んでくる。ゆっくり過ぎる身体と夜。
消灯時間とうに過ぎて、ぼんやり光る管を見上げる真夜中の恋人たち。
いくら想っても、身体に入ってくるのは雫だけ。

心拍数や薬の量は完全に数字に管理されているのに、今、この病室に数字で測れるものはない。時間を示す記号や、一喜一憂したあの記号の感覚はいつの間にか零れ落ちて。その隙間を満たすように落ちてくる点滴が、身体の浸透圧を夜に近づける。ベッドに縛り付けられながら、夜に溶ける感覚。憂鬱で、少しロマンチックな、正義がいなくなった孤独な時間。

左腕に刺さったこの針をこの部屋に落としたら、どんな声が、言葉が、音楽が、鳴るのだろう。
病院ラジオ、空想ラジオ、いやここはどうか御贔屓の9,5,4もしくは9,0,5で。
いったい今が、夜なのか朝なのか。週の始まりなのか、終わりなのか。明け方か夕方かも分からない。鼻をかじりに来るはずの天使はいなくなった。
点滴を数える。
1,2,3,4 止めないで。
時間はね、止まらないの。
最後の一滴が落ちるのを見逃さないように、数え続ける。
カーテンを開けて、窓を開けて、飛び出せるだろうか。

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ごめん10時過ぎちゃって、
タクシーが捕まらなくて。今の時間、銀座はお見送りのホステスだらけでさ、全部そっちに取られちゃって参ったよ。少し歩いたんだ。そういや、あの東京オリンピックの新しいタクシー、黒い奴。あれが「迎車」になってるの見たことねえよな。やっぱさあ、だれも迎えに行こうとしてないし、誰も来てほしくねえんだよ、あれ。ま、いいや。飲もう。」

「まだ11時じゃねえかよ、いいか?
米に9,10で「粋」だわな。
酒に9,10で「酔」っ払い。
米の酒で「お酒」だから、じゃあ、粋な酔っ払いから酒抜いたらどうなるか。九十九神にでもなっちまうよ。大切に長く使い続けたら道具が動き出すってお前、気持ち悪いんだぞ。だから、酒やめるなんて野暮なこと言うなよな」

「もう0時か、潰れたな。
酩酊酩酊、誰かタクシー呼んでくれ。
オヤジ、恵方巻、ないならもう海苔巻き、かんぴょう巻きでいいや。口に突っ込んで、行かせちまおう鬼退治。
運転手さん、こいつ送ってってよ。うん。そうだなあ、とりあえず東北東にまっすぐ。今日はあっちが縁起いいんだよ。ここに百万あるから、行けるところまで。え?いいんだいいんだ、ちょっと飲み代で使っちゃったけど、恵方巻代って前澤からもらったんだ。あんたも車にZOZO東京オリンピックって載せてるんなら、うまい話だと思って行ってくれよ。」

一期一会
は飲み屋の聞き耳も同じ。
「粋」ですか、それとも「酔」ですか。
身体と夜の割合は何対何?
何日の何時に何人との予定がありますか?
なんでも結構です。せめて今日は、天使が恵方巻かじりに来る前に、十まで数えて寝ましょう皆さん。
礼儀ばかりで、いちいち蓋してらんない散々な日に、呼んだご機嫌なロクデナシと、七面倒な話ではちきれんばかりに、食って飲んで充電切れて、終電逃してタクシー帰りのあなたへ。
あらら、もう寝てる。おやすみなさい。

オケタニ

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