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ダウ90000「あの子の自転車vol.8」がすごい

木曜の朝は「いやキングオブコントじゃなくてM-1で注目度上げるんかい」だった。
劇団なのかコントグループなのか、活動が線引きを融解させているとしたらこっちのはずが、まさか漫才で準々まで残るとは。


「テアトロコント」出演~いとうせいこうや佐久間宜行らによる拡散が第一波であれば、玉田企画やテニスコート、ロロ森本華らとのユニットコントライブ『夜衝』~第2回本公演『旅館じゃないんだから』の動員(配信チケット)で本格的に注目を集め始めた第二波の只中にいる彼ら。
結成1年と少し、ブレイン蓮見さん率いる男女4:4の若いコント集団の勢いはKOC2019直前のかが屋を思い出す。
 
ラランドがコロナ禍直前に無所属でM-1準決勝に進出して脚光を集めたのが懐かしいように、数年後ダウ90000を振り返るときは、学生お笑いの浸透、メディアの増殖、キャパにとらわれない配信設備の整備などのもろもろを背景に思い出すのだろう。
 
そんな、ダウ90000のコントライブ「あの子の自転車vol.8」
このライブは、長尺コントができる「テアトロコント」出演を一つの目標に継続していた(と確かラジオで聴いた)ライブだったらしい。
 
蓮見さんが同学年と知ってから興味が止まらない。面白い固有名詞、触りたくなる情景、あるあるや悪意の匙加減といった感覚がスッと入ってくる楽しさがたまらない。

それにしても面白かった。後日配信もあるらしです。


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1. 大人の喧嘩(OP)

会社の新人同期8名が、カラオケに案内されるのを待ちながらそれぞれ話している。

 ちょっとした会話に感情がのったピリッとした空気が流れた瞬間、それを察知して「まあまあまあ」「落ち着きなよ」と場を整理しようと介入する人間が雪だるま式に増えてくる現象。
 
大人がたった2分の間にこんなに揉めてしまう。
全員大人の良識を持っているから声が小さいまま喧嘩っぽくなっている。
 
その面白さは、各々が良識、善意、正義感、を持っているがゆえに議論がぐずぐずになっていくからだ。この感じ、就活のグループワーク。


2. バーカウンター

今回最も賞レースで評価されそうなネタ。
まず、普通のバーコントであれば客とマスターが向き合う画になるけど、人数の多さゆえに家族ゲーム構図になっているのが新鮮。

隣に座る男女の男の方が、毎回つまらない話を「ほんと・・大変だったよ」「ほんと・・バカだよね」のどちらかで締めることに気づいた同級生二人、こっそり男の言動を予想するゲームをはじめる。

頬杖をつく動作が進行と説明を兼ねているところが素晴らしかった。


・つまらない男の変なクセ(台詞によって頬杖をつく手の左右が紐づいていると発見)
・どっちで締めるかこっそりゲーム化する隣の客(頬杖でベット。賭け金はナッツ)
・逆隣の客も巻き込む。(4人が同じタイミングで頬杖をつく画の面白さ)
・ゲーム内の人物と化していた聞き手女性の方も、一緒にゲームに参加し始める裏切り(これも目線と頬杖で一発)
・客が面白さに自ら気づいたはずの男の言動はすべてマスターの指示だったと明かされるオチ
・それを観客に説明するため、プレイヤーを退出させるべく別ゲーム(同じように返答が2パターンしかない女性)を登場させる。
 
オチはおそらくなんでもよかった気がする、展開と裏切りが短く積み重なっていく構成が最高。

3. 最後の仕事

面白くなりそうな設定。相方から解散ドッキリをしかけられた直後に、本当の解散相談をされる芸人。「こっちはマジなんかい!」「どんな仕事のスケジュールだよ、マネージャー!」 

4. 赤裸々

バナナマン「secreive person」から社会の感じも変わったのだと感じた。

約束の時間より早く集合した女子4人による会話。
友達3人は各々恋人への不満話で毎回盛り上がるけど、自分だけ一切恋人への不満はなく幸せ、しかしそのせいで皆が盛り上がる話題提供ができない。プレッシャーと使命感を感じた女子は一人、激辛ラーメンを食べたりバンジーをしたり、エピソードトークをつくって女子会に挑んでくる。

 期待通り「そんなラジオパーソナリティーみたいなことをするなよ」というツッコミがでてくるのだけど、その前に「それ本当は彼氏と行ったんでしょう?」と追及されるリアルさが好きだった。(ネタ尺を短くする際にまず切り捨てられるところだろうから、やっぱりコントは長尺が最高)

しかしよく考えると、この面白さはお笑いへの知見や、自分へのメタ視点への関心がある人が勝手に面白さを増幅させるネタで、人によって見え方がだいぶ変わるかもしれない。

そう思ったところで、彼女にツッコミを入れる3人はかなりのお笑い好きである事実に女の子が辟易する方向に展開する。伊集院、月曜JUNK、水曜どうでしょう、あばれる君のロケなど、彼女が知らないワードで盛り上がる3人が批判されるオチまでは2部構成の後半のようで、どこか新しい感じがする。
 
さらに、いつも4人の集合時間が早いから必ず自分が喋る時間がくること。たった3か月の間にアクションを幾つも起こしていることなど、出来事が起きた必然性を用意して笑いを興す細部の設定の巧さがすごい。
お笑い好きの3人による<地球 → マントル一平 → テラスハウス>の3コンボはド世代過ぎた。

5. 漫才

5人によるM-1 3回戦のネタ披露。

6. 漫才

残りの3名が登場して再び「ダウ90000です、よろしくお願いします」が発せられるオモシロさ。

7. 冬のポカリ

タイトルが出た時点でゾワッとした。そしてやっぱり傑作だった。

久しぶりに鉢合わせた二人が「なんで冬なのにポカリ飲んでるの?なんで?」「別に普通に飲みたいから」と会話を始める。

冬ポカリへの偏見から、忘れてしまっているはずの思い出を掘り起こす展開に入り、ポカリスエット自体が持つ淡い青春のイメージに着地するのだ。 
 
「風邪でもなく運動終わりでもなく、ポカリを飲みたくなったってことは、冬のポカリの思い出が必ずあるはずだから。それを思い出そう」そう持ち掛けてから中学生時代の初彼女との思い出にさかのぼる。ダウ90000の中でも会話がうまい二人によるやり取りは気持ちいいし、セリフと展開、小ネタのバランスが最高だった。
やっぱり、廊下がウネウネするあのCMはイジりたいよなあと思いながら。

8. プールサイド

OPコントの8人が、インビで飲む休日の夜。
プールにゲロが浮かんでいた事件から物語が進む。

・そのプールに入るのが普通か変か(どこからがゲロ、どこまでがプールか)
・片付けるためにどうバケツで掬うか(シミュレーション)
・犯人は誰か
 
OPコントで見せたグズグズっぷりが今回もあって、アルコールを飲む量マウントで火が付いた感情がしまいには「私は飲めないんじゃなくて、このメンツで飲んでも楽しくないから飲まないだけ」と関係性を揺らがすセリフを引っ張り出すところも面白い。
 
「やってみよう」展開はこの日初めて。ダウ90000の魅力、蓮見さんが情報整理しながらツッコミ続ける面白さを最後に存分に見て、たくさん笑って、楽しかった。
 

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全体演出でどうしても気になったのが、各ネタ前に流れるドット絵映像。ゲームのメニュー画面のように、次の出演者がプレイヤー名(ダウがゲストか)風に表示される。

そしてダウ90000のときだけ、次のネタに登場する「男」「女」の人数がカウント表示されるのだ。
映像は可愛いし、プレイヤー数を表示するアイデアは彼らにしかできない仕掛けだろう。

しかし一方で、人数を明かしてしまうのはもったいない。必ずしも一本のネタに全員が出演するわけではないダウ90000の強みには、登場人数が予想できないが故の展開が読めなさにもあると思う。それを手放す必要はないように思うし、わざわざ強調する必然性があるネタもなかった。
むしろ、②バーカウンター、⑦冬のポカリ、はあと何人出てくるのか知らないまま見たほうがもっと面白かったと思う。


 
逆にこの演出を見て初めて、コントを見る際に何人出てくるかという情報の大きさに気づいた。
例えば、KOC2018王者ハナコの「つかまえて」のネタ、ハナコが3人組だと知らなければ、菊田の登場にもっと大きな笑いが生まれていたのではないか。
優勝後にテレビでネタを披露していた頃、毎回違うネタをやっていたが、そこそこのネタが「いつ菊田が出てくるのか?」に消費されていたような気もする。
 
 
ゲストも面白かった。ハチカイ「マナーは空には無い」、無尽蔵「チンチンの伏線回収」、ビデボーイズ「こんなことになるくらいなら俺と練習しとけばよかったのに」
 
ダウ90000、ネタはもちろん、今後どう活動してくのか楽しみ。あー面白かった。

(オケタニ) 

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