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スイス・ブルー

早朝のLINEは、スイスに住む友人からだった。

「ひさしぶりだね。今年の夏は、休みがとれそうかい?」

朝食がわりの人参ジュースを飲みながら、

彼の言葉の意味を考える。


去年は、お互いに忙しくて、会えずじまいだったんだわ・・・


毎年、彼は長期の休みを取って日本にやって来る。

去年は、桜の季節にやってきた。

「ひと月いるよ。会いたいなぁ」


しかし。

私は、ちょうど仕事に没頭していた時期で、

気が付いた時には、彼は帰国してしまっていた。


連絡無精な私なのだが、

こうしてまたメッセージをくれるとは。


私は、彼の顔を思い出そうとした。


最後に会ったのは、2年前。

彼の友人の家に招かれた。

彼は、好きな本の話をしてくれた。

ジブランの『預言者』。

彼は、流暢な英語で、好きな章について熱く語った。


ときどき、私の知らない単語が出てきた。

哲学的、あるいは宗教的な言葉なのか・・・

彼の話を中断するのは気が引けて

黙って聞いていると

彼は、私の表情に気付いて、話を止めた。


まっすぐに私を見た、彼の目を思い出す。


金色の睫毛にふちどられた、水色の瞳。


「今の、意味わからなかった?

 わからなかったら、ちゃんと言って?

 一方的に話したいわけじゃないんだ。

 僕のことを理解してほしいし、

 君のことも理解したいんだよ」


そして、やさしい言葉で説明してくれたのだった。


彼は、いつも相手を尊重し、紳士的にふるまう人だった。

爽やかな、アクアブルーの風。


ああ、去年の夏、私は何をそんなに忙しくしていたのだろう。

自分のことしか、見えていなかった。


彼は、いつも、私に理解を示してくれていたのに。


空になったグラスを置いて、メッセージを打つ。

「今年は、休みをとるよ」


スイス・ブルーの風が恋しくなったから。

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