見出し画像

<兄の話:10杯目>嬉しい1日

先週土曜日、兄が誤嚥性肺炎にかかり、悪化すれば危ないと説明を受けていたのだが、病院から電話がかかってくることはなかった。
容体が安定しているんだなと思いながらも、不安な気持ちで毎日を過ごしていた。

昨日は仕事が早く終われたので、17時頃に会社を出て病院に向かった。
恐る恐る病室を覗くと、看護師さんが痰の吸収をしているところだった。
こんにちはと挨拶していると、後ろから担当医師に声を掛けられた。
『熱はだいぶ下がってきていて、酸素の量は4Lで安定しています』
説明を聞きながら、肺炎が悪化する心配はなくなったかなと安堵した。
『呼吸の方も落ち着いて、酸素が外せられれば転院できるでしょう』と聞き、ますます安堵した。
お礼を言いながら、看護師さんと医師を病室の外へ見送って、兄の元へ移動する。
頬を見ると赤みは取れていて、熱が下がってきたと言う医師の言葉に納得した。
「少し良くなってきたんだってね」、「この調子で早く治そうね」と声を掛けると、兄が頷きながら何かを呟いた。
やはり聞き取れない。
何度かごめん聞き取れないよと言う度に、言い直そうとするが分からなかった。
口元を見ると舌が震えていた。
震えに加えて、思う様に動かせないのではないかと思う。
「話せる様になったらちゃんと聞くからね」と言いうと、兄は頷いて何かを呟くのを止めた。
わたしは買い物して戻ってくると兄に言い、病院1階のコンビニ向かった。
先程の看護師さんに、今度でいいのでリップクリームを買って来て欲しいと言われていた。

余談だが、今日日大きな病院はコンビニからレストラン、理髪店まで完備されていていることに驚いた。
普段大きな病院に自分がかかる機会がなかったので、病院会計に自動精算機が普及していることも最近知った。

コンビニで買い物を済ませ病室に戻り、早速包装を開けて兄の唇にリップクリームを塗る。
痛くないかと尋ねると、うんと頷く。
あれ?あれれ?
今日はわたしの言葉を理解しているよね?
いつもは身体や手も震えていたけど、今日はほとんど動いてないよね。
離脱症状も良くなってきてるのかと思い、喜びの声を出したくなった。

わたしも現金なもので、この日はニコニコ顔でまた来ると言って帰ろうとしたのだが、去り際に兄が軽く手を振ったのが見えた。
本当に少しだけ、手先を挙げて軽ーく振っただけだったけれど、嬉しくてたまらなかった。
今日はたまたま調子が良かっただけなのか、せん妄状態から回復してきているのか、どちらかは分からない。
それでも、搬送されてからやっと意思の疎通が取れたことが、ただただ嬉しかった。
二つ前のnoteで悲観的なことばかり書いた自分が恥ずかし。
この日は初めて明るい心持ちで家路に着いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?