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<兄の話:6杯目>頑張ってます

ソーシャルワーカーさんと面談した翌週の月曜日、仕事を終えたわたしはD病院に向かった。
病院から呼び出されたわけではなく、兄の病状に進展があったらいいなぁという気持ちから見舞いに行った。
見舞いといっても、搬送から固形食を摂取していなく、また摂取できるようになったとも聞いていないので、食べ物や飲み物は持参していない。
わたしは「今日は話せるかな」と、まだ会話にこだわっている。

兄の病室に入ろうとして、病室内の雰囲気に違和感を覚えた。
一歩病室に踏み入れた足を戻し表札を見ると、他人の氏名が書かれていた。
他の入院患者さんを驚かせてしまうところだった。
兄の名前を探してうろうろしていると、看護師さんが声を掛けてくださったので兄の名前を告げ、移動した病室を教えてもらった。
先週は1人部屋だったのだが、2人部屋に移動していた。
1人部屋から移動できたということは、先週より良くなっているのかも??と少し期待してしまう。

ベッドを覗き「来たよ」と声をかけると、横になっていた兄が身体を起こそうする。でも、腰の辺りをベルトで固定されているので上手く身体は起こせない。
身をよじらせる兄を「大丈夫だから横になっていて」と制し、調子はどうかなど当たり障りのないことを話しかけてみた。
すると、兄は明後日の方を向いて『頑張ってます!』と、はっきりとした口調で叫んだ。
先週も聞き取れる一言を喋ることはあったが、頑張ってますという言葉を聞いて泣きそうになった。

(早く良くなる様に自分も頑張っている)
怯える様な仕草をしながら叫んだ様に見えて、そういう意味に取れなかった。
見間違いかもしれない。
でも、わたしにはそう見えたし、わたしに弁解する様な(頑張ってます)に聞こえた。
責めてないから、怒ってないから、そんな風に言わないで欲しい。
悲しくなる。

兄は妹に責められていると感じてしまっているかもしれない。
わたしは言葉を間違えることがある。
それでも、病院に搬送されてからの兄の病状を責める気持ちはない。
ここまでの状況になったのは兄の責任もある。
でも、心が弱り切っているであろう兄にそんなことを言う気はない。
もし、わたしが兄を責めていると感じるなら、わたしの方こそ弁解したい。
別のnoteで詳しく書く予定だが、兄が運ばれるに至る契機を、わたしも知らずに作ってしまったと感じているから尚更辛い。

こういう時は、頑張らないとなんて思わせない方がいいんだよなあ。
そんなことを考えながら、「分かってるよ、大丈夫だよ」、そう言って布団を掛け直した。

パイプイスに腰を掛け、しばらく黙ったまま兄の様子を眺めていた。
薬の時間だったらしく、看護師さんがワゴンを持って登場した。
準備する横で兄の様子を尋ねてみた。
病院食を出してみたが、食事の仕方を忘れてしまった様だ、バイトの面接に行かないとと話していたと聞いた。
先週から進展していないということだ。
「そうですか、今日は帰ります」と言って病室を後にし、もうずっとこのままなのかと考えながら家路に着いた。

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