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東北横断の旅 02 蔵王の朝

山形市を朝早く出発しました。めざすのは蔵王の山々です。バスは軽快に走り、少しずつ標高を増していきます。市街地をいつのまにか抜け、道はS字カーブを伴う険しい山道になっていました。車窓から山形市街を見ながら、1時間ほどで蔵王温泉に着きました。

温泉街を傍目に、すぐにロープウェイ乗り場に向かいます。蔵王温泉から蔵王山に登るロープウェイは3つのコースがあります。北から順に、蔵王スカイケーブル、蔵王中央ロープウェイ、蔵王ロープウェイ山麓線・山頂線です。目的地は蔵王のいちばん高いところ、山頂です。山頂にまでたどりつくには蔵王ロープウェイ山麓線・山頂線が一番近道です。乗り場に急ぎます。

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蔵王ロープウェイはまだ無人でした。まだ運行していないようす・・。到着するのが早すぎました。始発はまだ先です。何をするか思案に暮れましたが、すぐに新しい行き先を決めました。

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南東の蔵王連峰主峰とは真逆の方向、蔵王温泉の北西にある瀧山を目指すことにしました。低い山に見えますが、標高1,362メートル、ちょっとした登山です。

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再び蔵王温泉街を抜け、冬季には立派なゲレンデになるであろう草原のすぐ脇を通り過ぎ、リフトに並行し傾斜を登っていくと、すぐに低木が茂る山麓の森林に分け入ります。

朝日を右から浴びながら獣道のような登山道をしばらく登っていくと、信じられない光景を目の当たりにすることになります。

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登山道が渓流に早変わりしました。これは登山道だったところに水が湧き渓流になってしまったのか、それとも渓流を何とかしてよじ登れという意味でしょうか。おそらく後者なのですね。

引き返すかどうか躊躇しましたが、命知らずなことにそのまま登ることにしました。ブーツはそれなりに滑りにくいものを履いていましたが、防水対応のものではありません。すぐにヒザ下がずぶ濡れになります。トレッキングを笑うものはトレッキングに泣くということでしょうか。

やがて渓流を抜け、細い登山道に戻ったのも束の間、急斜面の連続です。勾配が急なところはロープが張ってあるのが救いでした。

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やがて視界が開け、道標を見つけます。尾根筋に着いてほっとしました。ここから右側にいけばドッコ沼方面、奥に行けば瀧山方面になります。尾根筋にはこのような道標がところどころに置いてあり、いくつもの登山道が分岐や合流をしていることがわかります。さらに奥に進んでいきます。

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瀧山の山頂はすぐそこです。尾根筋もかなりアップダウンがつらく、平坦な道ではありません。日が高いところまで昇ってきています。

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山頂に着きました。そこには小さな祠がありました。これは瀧山神社の奥の院に当たるもので、瀧山の山全体がご神体となっています。その起源は平安時代にまで遡るそうで、月山や羽黒山なども近いために山岳信仰が昔から盛んでした。

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山頂からの眺めは圧巻の一言です。東を望めば霊験あらたかな蔵王連峰が、西を望めば山形市の高層ビル群や山形平野、遠くには月山も見えます。瀧山が神聖な山とされたのも頷けます。

昨日は雨模様でしたが、打って変わっての晴天で空気が澄んでいました。厳しい登山道で試練を与え、山頂でご利益をいただく、ということなのでしょうね。

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下山時も急勾配です。少しでも油断をすると真っ逆さまに滑落する恐怖を覚えながら、やっと出発地点の蔵王温泉まで戻ってきました。

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木々のところどころは赤や黄色に色付き、この地にもまもなく冬が訪れることを告げています。夏は緑、秋は赤や黄色、冬は白となる四季の移り変わりを間近に感じられます。

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やっと当初の目的の蔵王山頂を目指すため、蔵王ロープウェイ山麓線に乗ります。スキー場の上空を通過していく路線で、冬季はスキー客も利用しています。リフトも数多く敷設されていますが、秋に運行しているのは一部のみでほとんどは休止しています。

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蔵王ロープウェイ山麓線は樹氷高原駅が終点です。標高が高い地点まで昇ってきましたが、ここはまだ山の中腹です。すぐ横の蔵王ロープウェイ山頂線に乗り換えます。

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こちらは少し小ぶりのロープウェイ、ミニサイズのかわいい子です。定員は山麓線が53名に対し、山頂線が18名なのでかなり少ないのですが、頻繁に行き来しているので輸送量は多そうです。

ロープウェイは複線になっているので、向こうからやってくる車体とすれ違いを見ることができます。手を振っている人もいました。

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眼下にさきほど登山した瀧山を見ます。ロープウェイはさらに上がっていきます。

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山頂に近づくにつれ、周辺の雰囲気が変わってきます。木々の葉がなく一様に丸裸になっています。まだ落葉する時期は早いのですが、幹のみが一面に直立している姿は異様でした。

このあたりの木々は針葉樹のアオモリトドマツです。これは落葉しているのではなく、おそらく立ち枯れしているのでしょう。

近年、蔵王では虫による食害で、アオモリトドマツがすべて枯死してしまうことが問題になっています。このままでははげ山になってしまう恐れがあるため、森林管理署による植樹が進められていますが、苗が育つのは何十年もの時間がかかります。緑を再生するのは気が遠くなるほどの長いスパンで考えることが必要、そう思わされます。

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山頂駅が見えてきました。駅の周辺の木々も枯死が目立ちます。

美しい冬の樹氷の裏では、深刻な環境破壊が進んでいます。蔵王の今後が心配です。

次回に続きます。


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