アパレル業界で私が知ってること(データ分析篇1):なんでデータ分析しようと思ったのか

 さて、データ分析とかの話に入る前段階なんですけど、ちょっと話は遡ります。
 なんで遡るかっていうと、個人的には、ファッションブランドって表現でしょ?新しいもの出すのにデータ分析ってそもそも必要なの?っていう、なかなか微妙なところでのジレンマがありまして。ここのところをまず書いておかないとデータ分析でできる事できない事、もっと言えばやっちゃいけない事なんかが明確化できないってのがあるんですよ。

 このあたり、本当に誤解して欲しくないところなんですけど、ファッションアパレルにデータ分析の概念を持ち込むときに、やってはいけない事ってのが存在するんですよ。ここを押さえないでデータ分析からMD計画しちゃうと、まあ失敗します。っていうか世の中的に失敗しちゃってると個人的には思ってたりします。ですので、まず「なんで私がデータ分析をしないといけないと思ったのか」っていうお話を書きたいなって思ったりします。多分次の回で「なぜデータ分析から単純にMDプランをしたらいけないのか」ってのを、まあ失敗事例なんかも踏まえながら話せればなーって思ってたりなんかします。

 さて、右も左も知らないまま新卒で1992年からアパレル業界に入った私ですが、当時は基本的に卸売り発想でして、言ってみれば展示会で発注してその通り(まあ生産の関係上その通りにいかないのは置いておいて。このあたりは別のところで書いてますのでそっちを参考にしてください。今回の話には関係ありませんし)に納品していけば良いっていうのが基本のスタンスです。
 でもこのあたりが百貨店とかの場合は微妙で、百貨店バイヤーが発注するんじゃなくて、特に販売員を出している場合なんかはメーカー側というか販売員が発注する仕組みでした。ちなみに販売計画はメーカーと百貨店とですり合わせを行いますので、金額的な面でのすり合わせは行っていますから、そういう意味では縛りがある中での発注ではあります。
 新人ですから、展示会での主な仕事は発注のお手伝いです。販売員が商品を探すのを手伝ったり、まあそんな感じですね。
 今から思えば非常にありがたい事なんですけど、最初の段階で売上が大きな百貨店と売上が小さな百貨店との実際の発注を見る事が出来たってのが私の中では一つの伏線みたいな感じになってきます。

 具体的にどういう事が起きていたかっていうと、例えば大きな百貨店だと、1SKUを複数枚発注するんですよね。その時に経験則てきにサイズバランスをつけていくわけですよ。ちなみにベビー子供服ですからサイズはいっぱいあります。ですからサイズバランスっていうのが非常に重要でした。
 でも、小さい百貨店だと1SKU1枚とかしか発注できません。SKUを全部揃えるだけで予算的な物を使い切っちゃうんですよね、実際。

 当たり前なんですが、サイズが異なれば売れ方も変わります。特に当時は「出産祝い」っていうのが一つの売れ方のキーでしたから、当然そのサイズに集中して売れたりします。
 ここ、ちょっと注釈しますと「出産祝い」で服を選ぶんですけど、すぐ着れる服ってのは、まあ普通は出産前段階でそれなりには揃えます。しかも私が社会に出たタイミングですから25年以上前なので、今より風習的なものもしっかりしていましたからなおの事です。なら次に着てもらう服っていうのを送るのが現実的なんですが、例えば春の出産の場合、店頭は基本的には春~夏物なんです。当たり前ですけど。そうなると、例えば半年先の服って言えば70cmになるんですけど、半年先は冬です。着ませんね。
 ですから来年同時期に来てもらう服を選ぶので1歳用になります。本来なら80cmが1歳用なんですけど、店頭は1か月から2か月先行しているので、店頭にある服を着てもらう事を考えれば月齢で14ヵ月~15ヵ月みたいな感じになります。折角送った服が小さくて着られないってなるとやっぱり嬉しくはありませんでしょうから、1つ大き目の90cmを選択するのが適切なんですよ。ぶっちゃけ80cmと90cmの差なんて小さなものです。婦人服でMサイズとLサイズを実際に比較してみればやっぱり小さなものだってのと同じですね。婦人服の場合、タイトなのかルーズなのかっていうのは見た目的に影響しますからそのあたりでもこだわるわけですが(試着するのはこのあたりがあるからです)、小さい子供の場合成長速度の方が影響が大きいので、ちょっとくらいダブダブでも問題ありません。っていうかタイトだったら1月後には着られなくなりそうですし。
 まあこういう理屈めいた事ってのは新人の時に知っていた事ではなくて、その後専門店担当になった時に販売力が高いお店の店員とかと話し合う中で見つけてきたメカニズムです。まあ知らなくても困りませんが、知っていると応用が利きます。例えば春に生まれたお子様への出産祝いなら秋に着れる80cmをお薦めできるんですね。商品を消化するための販売のテクニックでもありますが、お客様へ嘘はついていませんし、その方が喜ばれる事も多かったのも事実です。もらう側からしても90cmばっかりもらっても困るでしょうしね。

 いやいつものことながら注釈文が長くなってしまいましたが、要するに「90cmは他のサイズよりも格段に売れる」って事なんです。当時はもちろん感覚的な話でしかないのですが、ベテラン販売員は大抵の場合、80cmの1.5倍、95cmの3倍売れる、的な発注をしていました。このあたりの経験則ってのは本当に馬鹿になりません。

 ってなると、小さな百貨店では当然サイズバランスが悪くなっているはずなんです。一番売れるサイズも一番売れないサイズも1枚ですから。このあたり超ベテランになると、売れないサイズは色を絞ったりとかして微調整したりしてるんですけど、やっぱり限界があります。

 さて、当時は地域とかで課が分かれていまして、展示会発注とは別に課として追加が来るであろう見込み分を発注する事をしていました。2年目になればシーズンで1周していますので、発注を見ていた商品が実際にはどういう風に売れるのかってのもわかります。ですので2年目にもなれば課の発注にも関与していくことになります。課として追加発注をしている内容も頭には入っていますから(発注段階で詳細を知らなくても追加出荷処理をするときに在庫状況を見ますからそこでわかります)、じゃあ実際はどういったサイズバランスがいいのかな?的な事も考えるようになってきます。当時は土日になれば百貨店の販売応援に行くのが普通でしたから店頭で接客とかもやってましたし(売上を販売員と競ったりとかもしてました)、直接最終消費者に近い位置で販売動向を見る事が出来たってのは良かったところです(ただ、この接客業務が楽しすぎて、自分が客なのに接客しそうになるという不思議な病気が発生したり。苦笑。友人の店で話をしていた時にお客さんが入ってきたらその瞬間に前手で「いらっしゃいませ」って言っちゃって、まあ笑われてます)。

 まあ、こんな余計な事ばっかり考えていましたから、当時はものすごく落ちこぼれてました。営業担当としては特殊すぎたみたいです。苦笑。ちなみにこの頃、新規オープンする百貨店の担当をさせてもらったり、まあこれは結果論なんですけどバーゲンの前に販売員がインフルエンザでぶっ倒れてバーゲン前後の1週間を販売員として過ごしたりとかって経験もできたりしました。まあ販売員や百貨店の店舗販売員とは仲良くして頂いていましたけど、社内や百貨店のバイヤークラスからは受けが良くなかったみたいです。

 さて、そんなこんなで専門店担当へと異動致しまして。専門店の場合買取ですから専門店さんが発注します。規模的には当然小さいので、SKU各1がデフォルトです。百貨店の時とは違います。状況が異なるってのはわかってましたけど、ぶっちゃけ違和感しかありませんでした。違和感があればついつい口に出してしまうのが私の悪いところでして、要するに専門店さんの発注に文句をつけはじめたんですよね。ぶっちゃけ何考えてるのって話です。
 でも、ありがたいことに話をきちんと聞いてくださる専門店さんが多くて、結果的に発注の事で話し合う機会が増えました。この期間を通じて発注の時にどうするのかとかっていう考え方とか、サイズカラーへの考え方とかっていうのがどんどん私の中でシェイプされてきました。「笑わないセールス」とか「得意先を叱り飛ばすセールス」とか「売ってくれないセールス」とか言われてました。苦笑。
 実は当時、バブル期に何も考えずに卸していた商品が店頭で不良在庫化したりバーゲンで販売して粗利が落ちたりしたことで、支払いの焦げつきとかも多かった為、売上も大事だけど集金の方が大事だよね的な風潮が専門店事業部内で強かったことも幸いしました。集金を楽にしようと思えば、店頭でプロパーで販売できるであろう商品しか売らない方がいいわけです。
 ついでにこの時に本当に多種多様な店舗と取引という形で接触してたりしました。本来は子会社がメインで取引しているので、基本的には取引することがないはずのスーパーマーケットとの取引も経験しましたし、チェーン店なんかも経験してます。挙句の果てには専門店担当なのに百貨店を担当してたりまでありました。ちなみにスポットで行われた雑誌での販売なんかも担当させられましたね。この時って販売終了後数か月後に正式に担当にされて、販売開始まで遡って処理をしたのでよく覚えています。実担当期間3日くらいです。
 まあそんなこんなで数々の店を見てきた事で「店舗の特徴によって売れるものとかも変わるよね」とか「でも変わらないものとかあるよね」とか、まあそういった知見が山ほど蓄えられていた気がします。実践もしました。スーパーマーケット(プチSCみたいな感じなんですけど)で接客なし前提の商品展開の店で、発注バランスを(感覚でですが)適正化することでプロパー消化率90%とか叩きだしちゃったり、丁度阪神淡路大震災のせいで展示会に来れなかった専門店さんの発注を代行させて頂いたりしました。この時は普段店舗に立ってもいないオーナーが商品を眺めて「増やしといて」とか適当な事を言って帰ったので昨年対比で1.3倍位の発注をしたら「少ないな」とか言われたので2倍以上で仕上げました。本来買取なので返品は受け付けてなかったのですけど、正直大量の返品を覚悟しましたっけ。結果的にはほぼ完売の上に追加注文まできて一安心したり、店に普段から立っていたオーナーの奥様に感謝されたり、でもオーナーがドヤ顔するのがちょっと気に入らない的な話をされたりで、まあ楽しい日々を過ごしてたりしました。

 まあそういう事とかもありながら、9年位営業をした後に、本部業務的な、まあ事務的な仕事に異動することになりまして、直接的には店舗と接触することがなくなりはしたんですけど、逆に商品全数を眺める事になりましたから、営業の時に感じていた色々を全社的に適応したらどうなるんだろ的な事をずっといろいろ考えていたりしたものです。端的に言えば全社合計での発注バランスおかしくない?とかそういった感じの事をよく考えていました。

 こういった事を見てきた中でいろんな事を考えたり思ったりしたわけですが、無理やりまとめちゃうと、
1:店やブランドによって特徴ってあるよねって感じの事
2:それはそれとしてアイテムバランスとかサイズバランスとかってあるよねって感じの事
ってのを強く思うようになってきまして、じゃあこういうのを組み込むにはどういった情報があればいいんだろうなーって話になった結果、POSがあるじゃん、ってところにたどり着いたわけです。

 まあ長々と書きましたが、何が言いたいかっていうと、私にとっては、店頭ありき、ブランド特性やアイテム特性ありきで、そこを知りたいが為のPOS情報だったんです。ですからPOSデータそのものは重視していましたけど、POSデータの結果から逸脱することへの抵抗はないっていうか、むしろPOSデータってのは「なんでこうなるんだろ?」っていう事を考える材料であって、それ以上でもそれ以下でもないって言うところが私のデータ分析のスタート地点だったっていうところです。

 要するに分析ありきからスタートしていないって言ってしまえばそれまでなんですけど。少なくとも私にとってはPOSデータは信じるものじゃなくて理由を抽出する時の指針でしかありませんでした。実際問題として昨年データを参考にしてたら失敗するよねってのがファッションアパレルです。だってシーズンのコンセプトが変わるんだから、売れ方も当然変わるに決まってるじゃないですか。
 まあ、そういう感じです。どういう時にPOSデータを参考にするべきかなんてのは関係者みんな考えている事でしょうから、折角なので切り口を変えて、どういう時はPOSデータを参考にしてはいけないのか、とかそういうところを次回に書きたいかな、って感じです。

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