アパレル業界で私が知ってること(予算管理篇1):予算は戦略を反映していないとわけがわからなくなる。

 さて、いきなりトップ的な話になっちゃってあれなんですけど、全体の流れの中で予算管理ってのは重要に決まってますから、そろそろ真面目に書いておこうかとか思ってたりします。いや、正直ここは本当に無意味に苦労させられたところでして。いや無意味にっていうと語弊があるな。意味を持たせるように修正するのが大変だったっていうか、実現性の問題っていうか。
 端的に言えば、理屈がわかっていないままに予算を組んだら必ず失敗するというか実現性がない予算とか組みがちです。これ、アパレル業界内でもわりかし失敗していたりしますので、案外難しいのかも知れないなーとか思いまして。前提条件さえ理解してれば余裕なんですけどね。

 まあ、どんな業界でもそうなんでしょうけど、基本的には売上と粗利あたりから予算を組み始めます。特に売上ですね。でも、例えばどうやって売上を上げるかってのが方針というか戦略というか、そういうあたりが決まっていなければ要するに安売りすればいいわけです。はい。当たり前なんですけど粗利に響きます。
 アパレルって販売時期によって売価が変化するので、要するにマークダウン月に売上を高く設定すれば売上は取り易くなる代わりに粗利率が低下します。

 でもこれ、単純に「前年の○%アップ」とかで月別予算を組んだら必然的にやっちゃうんです。マークダウン月は売上は通常月より高いので、上昇幅が大きくなるんですね。粗利率が低い月の売上が相対的に増えやすいので合計の粗利率も減少するんです。

 ですので、こういう予算を組まないようにするには、戦略的に「プロパー重視」とか「売上重視」とか、そういうのを事前に決めておいて、その方向性に全体バランスを調整する必要があるんです。
 まあ大多数のアパレル業者ではプロパー重視が基本でしょうし、売上重視の場合はわりかしどうにでもなりますから無視しちゃいましょう。そもそも粗利率を取りたかったらプロパー重視で考える方が簡単です。商品原価を抑えてもいいんですけど、コストパフォーマンスが低い商品になりがちですから(たまに革新的なのができますから絶対じゃありません)、まあ売れなくなっちゃうことも多いですしね。

 で、まあ実際に予算を組んでいくわけですけど、基本ラインは全社売上がトップラインで存在していて、次に粗利率がついてくるっていう感じでした。まあぶっちゃけてしまえば粗利率が固定されていて、商品的にコスト低下要因が無い場合、これってプロパー消化率とマークダウン消化率のバランスの話になります。ここで「プロパー強化」という方針が出れば、予算はプロパー月にアップさせて、マークダウン月は予算ダウンをする必要があります。プロパー消化率ってのはプロパー販売額÷総生産上代です(店舗ではプロパー販売額÷総投入上代ですね)です。実はこの段階でプロパー消化率を決めればマークダウン販売額が決定します。そりゃそうですね。プロパーで売った残りがマークダウン対象なんですから、プロパー消化率を高めたけりゃマークダウン材料が減少します。普通は粗利確保をしたいのでプロパー消化率は前年より向上させようとします(例外はあります。売りすぎた翌年ですね)。

 ここで、伸ばす比率を前年の月ごとに平均して足したりとかしてくれちゃったら、合計時点で実現不可能予算になるんです。マークダウンの材料が不足しますから、プロパー予算が達成している限り、必ず発生します。

 だって、全体生産ープロパー販売(向上)=マークダウン材料×割引率ですから。プロパー販売が向上すればマークダウン材料は減って当然なんです。

 これを避けるためには、ブランド別店舗別シーズン販売別プロパーマークダウン別販売予算という、とてつもない面倒な予算を組み立てないといけなくなります。しかも、個店レベルでは気候変動とかで前後するのが前提なので、ここまで細かいのは流石に作業負荷が高すぎてやってられません。やってられないっていう事は適当になるっていうことですから、適当にやられるくらいならやらさない方がマシなんです。

 ですので、大枠な指示は出していました。落としどころとしては月別予算をプロパー・マークダウンに分割させて予算組みさせていました。さすがにここは店舗ベースの粗利に影響しますので、普通ならちゃんとやってくれます。普通じゃない人はちゃんとやってくれませんでしたけど。トホホ。

 まあ、そういう数字が出そろった段階で私の登場です。いやこれもなんで私がやってたかはわりかし疑問なんですけど、まあ私くらいしかこういうのをやるのがいなかったっていう悲痛な現実もありまして。要するに全店舗の全ブランドのプロパーマークダウン比率が妥当かどうかのチェックをしていたりしたんですよ。

 凡ミスもあります。下期で撤退した店舗の地年度上期は実績があるものだから予算組んでるやつとか、撤退が決まってるのに撤退後の予算があるとかなんてのはわりとザラでした。まあそういうのをやらかすセールスって特定いますから注意してチェックですね。

 で、ブランドのシーズン別プロパーマークダウン比率とを、こちらは実績やら何やらである程度調整して多少無理やり月別に落とし込んだデータとぶつけて問題点を洗い出すわけです。

 まあ、こっちは厳密性はそれほど求めませんでしたけど。

 でも、月別ブランド別店舗別は徹底的に修正しました。マークダウン月に予算が高ければ減らす、そもそものミスがあればそれは調整する。いや、単純に面倒で面倒で。最終的には会社のトップラインに合わせて、粗利率の再計算を行った時に妥当であればいいってだけなんですけど、これがねー。

 しかも裏側で予算未達のシナリオを脳内で構築しておく必要もありまして。これはその段階では超極秘資料です。ぶっちゃけ社長にもオープンにしてませんでした。というか、頭の中と計算メモくらいですからね。プロパーで思うように売れなかった場合の対抗策とか予算の変更とかそういったバランス変更ですから、現場レベルで対処しちゃいます。

 まあ、単純な話、プロパー重視したかったらマークダウン時期の売上は低下させて予算構築しておく必要があって、その場合売上総合計が下振れしても「まあなんとかなるだろ、最悪の中でも最善の着地点はみえてるから」っていうのが方針でしたね。特に物流に出向していた1年間で黒字体質にできそうになっていたいろいろな事が破綻しやがってましたから、出向するんじゃなかったかなー、って個人的には思ってたりします。まあ業務命令だから仕方がない。でも後任があれほど出来ない子だったとは思いもよりませんでしたねー。涙。

 さて、店舗別ブランド別月別予算、最終的には全部私が目を通して初めて実戦レベルでつかえるようなものになるという、不思議な状態でして、営業の上司には変更する際連絡するわけですが「勝手にやっといて♪」です。まあ私が入社した時の隣の部署の主任でしたから、まあ可愛がってもらえてたっていうか諦められていたっていうか。理屈に合った変更しかしないって意味ではは信用はされてましたね。

 まあ、予算構築的なことは概ねこんな感じでした。

 ある程度纏めると
1:粗利確保のための「プロパー比率」上昇は、マークダウン比率の裏表だから反映しておく必要がある。
2:単純に前年の○%アップっていうのは、前年と同じ比率であっても成立しない。
3:どこかで誰かがこのあたりの調整を行う事で、実現可能な予算に無理やりしあげないとなかなか難しい。

 みたいな感じでしょうか?権限はないけど信用があるという、不思議な状態の中で、予算調整とかやってました。まあ当時の私より全ブランド全店舗の細かいところを知っている人っていませんでしたからね。撤退や新規の情報は全部持っていましたし、縮小拡大情報も持っていましたから。

 まあ、情報は情報ですから使えばいいんです。まあ半年に3日程度潰せば予算段階では整合しますから楽なもんですよね。実際。

 とは言え、予算通りに物事が運んでくれないのがアパレル業ですから、期中の調整だったり、最終利益確保だったり、そういう事を日常的な情報を駆使して調整していって、最終的に問題が発生しないレベルギリギリを狙うような落としどころにまで持ち込むってのも仕事っちゃ仕事でした。まあ、このあたりの最終調整とかになったらは実質的には社長代行みたいなものです。まあ外部折衝とかまではしてませんけどね。ちなみに正式な委任とかはされていません。「任せた!」以上です。っていうか当時の社長は私には端的な表現でしか指示してくれませんでしたからね。「おまえなんとかしろ」とか「大体聞いてたやろ?」とかそんなんばっかりです。信頼と言えば聞こえはいいのですけど、丸投げともいうと思います。まあ、その程度の信頼関係は当時持っていましたから、なんとでもなりましたけどね。「ギリギリ黒字でいいでしょ?」とか聞いたときは苦笑いしてましたけどね。いや社長的には何とも言い難かったんだろうなー。

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