アパレル業界で私が知ってること(SCM篇2):QRはSCMとしてどうなんだという話

 まあ前回でSCMたってなー、みたいな話をしましたけど、でもSCMを前提としたっていうか、まあ要するにQR(クイックレスポンス)してるメーカーとかあるじゃん?みたいな疑問って言うか普通のSCMなお話が出てくるかとは思ってたりします。私だって実際QRとかしてましたし。

 そもそもサプライチェーンマネジメントってのは、大雑把に言えば生産から販売までの期間での利益やら在庫やらなんやらの全体最適化の話ですし、そういうものである限りは最重要なのはどこでどういう状態で在庫を持っておくのが合理的かっていうのを考える必要があります。デカップリングポイントとかそういうやつですね。よく例で出るのはDELLのパソコンがBTO(Bulid to Order 。要するに材料をそろえておいて受注してから受注仕様に基づいて組み立てて出荷する)だよってお話なんですが、ファッションアパレルの場合っていうかSPA型を志向するのであれば、大半の商品はMTS(Make to Stock 見込み生産)が妥当な考え方になるよねっていうお話です。
 まあ例えば在庫処分的な考え方が重要な場合はSTS(Shop to Stock 販売在庫)的な考え方が重要ですし、極端に販売期間が短い、例えばスプリングコートなんかはその手前で店頭在庫にしておかないとお話にならなかったりします。
 そういう意味では「サプライチェーンっていってもなー」ってのは、別にSCM的な考え方が通用しないって言ってるわけじゃなく、SCM的に考えた場合生産→会社入荷まではシンプルだよなーっていうお話しだったりします。

 さてQRのお話ですが、MTS(見込み生産ね)の精度を上げる為に、初動を確認してから生産量を増やそうぜ的な考え方だと言えます。もう少し言えばATO(Assenble to Order 受注組立生産)的な考え方ってのがちょっと組み込まれてたりもしますけど。このあたりは後程。

 ここでちょっと考えればわかるんですが、QRを行うためには、商品特性的な条件と生産背景的な条件をクリアする必要があります。

 商品特性的な条件っていうのは、要するに販売期間がそこそこ長くて、初動からその後の販売曲線(これ普通に使ってるんだけど販売曲線って一般的なのかなー?要するに時系列に販売数をプロットしていったときに出来上がるグラフ曲線の事なんですけどね)が想定可能な場合になります。この場合の販売曲線ってのはPOS的な実績を使う場合もありますけど、一定量のPOS分析とかをこなしていたら初見でも描けたりします。っていうか初見で描けなかったら販売期間設定できないので、本来はこれが描ける事ってのはマーチャンダイザーの必須技能なんですよ。ものすごく残念な事に描けないマーチャンダイザーが多いとの事ですけどね。トホホ。

 生産背景的な条件としては、まず材料がある事と工場が空いている事、生産期間が実用的である事ってあたりですかね?これが必要になります。
 服の場合、生地を仕上げるまでの時間が一番長くなっていますから(ありものの生地を買う場合は別ですけど)、生地になる手前で在庫確保していたら、まあ間違いなくタイムオーバーしますから、普通は生地と副素材で確保します。生地や副素材があれば、まあ案外短期間で作れます。ここで無理が生じるのは凝った防寒物とかですかね?さすがに防寒物は縫製工程が多いので難しい場合が多いんですよ。
 あとあるのは工場の立地と工場の空きです。期中って次のシーズンの縫製がスタートしていたりするので縫製工場が空いていなかったりしますし。さすがに縫製工場が空いていないと縫ってもらえません。当たり前ですね。
 また、空いていても、中国なんかの場合、FOBでコンテナに積んでるとかで納品してたらそれだけで1週間余分にかかったりしますし。中国で縫製するときに設定する期間ってのは通常1か月から1か月半位なので、要するにそれより短期で仕上げる為には余分に金がかかったりとかそういうのがあるって事です。初動から1か月半かかったら販売期間逃しますから大体2週間から3週間で商品を仕上げないと意味が無い場合が多いんです。

 ま、要するに最初からQRで商品を作る事で余剰在庫を出さないようにするというビジネスモデルというか商品戦略にすると決めた場合、商品的な条件と生産背景的な条件をクリアしておく必要があります。まあ商品的な条件ってのは合わなかったらQRできないよなーで終わるんですけどね。

 もうちょい言えば、そもそも1回納品ではリスクが高すぎる位に大量生産大量販売する前提の商品でしか使えなかったりします。全店舗各1枚とかしか予定していない商品なんかQRもなにもありませんから。

 まあそういうのがあるので下準備しておく必要があるんです。具体的には生地をはじめとした材料の確保、工場の空きの確保、物流ルートの確保なんかがあります。まあ物流ルートの確保ってのはそれなりの規模の会社で、定期的に納品されている期間だったらどうとでもなる事が多いんですが、絶対ではありませんから準備しておくに越したことはありません。

 逆に言えば、QRで作るって決めた場合、予定より売れなかったら生地(まあ他の材料もだけど)在庫と工場の空きがロスになります。ま、ここで先述のATO(受注組立生産)的な要素が入ってはきます。例えば半袖Tシャツが予想より売れなくても同素材の長袖Tシャツが想定以上に売れていれば在庫も工場の空きも使えますからロスにはなりません。逆に言えば素材ごと売れなかった場合はアウトですけどね。

 ですから、QRすることで確実に利益を出す為には、生地とか材料のロスや工場の空きの確保によるロスなんかを原価に反映させておく必要があります。まあ割高って言えば割高になりますね。でもそれだけ大量に売れる上に生産量と販売量とのギャップが低くなるわけですから、プロパー消化率は高く設定できますので案外粗利は確保できたりします。
 もう少し生々しい話をすれば、デザイン違い(以前のデザイン&パターンの商品)を余った素材と余った工場稼働で使って、バゼット(最初からマークダウンとか前提で作る商品)や福袋用商品なんかを作る事ができれば、まあロスそのものもリカバリーできたりとかします。このあたりは「上手くいったらそれでよし、ダメだったら次は…」みたいな事を事前に用意しておくことが重要って感じですかね?

 まあ、なんかそういう感じです。ちょっとまとまりがない文章になったので無理やりまとめます。

 アパレルでのQRは効果的だが、対象にできる商品が意外と少ないので結局QRする程の事ってのはあんまりない。

 まあ、手間とか下準備がかかるので営業利益的なお話としてはそれほど強くないよなーってのが個人的な感想です。
 もちろん、一品を大量に生産して長期販売するモデル(ユニクロとか)や、素材を使いまわしできるような企画構成にしている場合(ユニクロだな)なんかには有効な方法論だと思っていますし、可能であればQRとは言わないまでも複数タイミングで生産数量調整したいってのが本音なんですけどね。
 なのでちょっとこのあたりは生産側でのイノベーションを期待したりとかはちょっとしてたりします。
 でもなー、アパレルってデフレ期間中ずっと生産側に負荷をかけまくってきてるからこれ以上の無理ってなかなか利かなさそうなんだよなー。

 でもミシンの調子をAIが出してくれたら嬉しいとかは思ってたり。それはそれで難しいだろうから過度な期待は禁物なんだけどさ。

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