アパレル業界で私が知ってること(小売篇)その2:取引条件とかについて

その1で「積極的に小売に関わっている」的な話をしましたが、その前にアパレル業が小売に卸すときの主な取引条件を先に紹介します。主には1:買取 2:委託 3:消化 の3種類です。ちなみに「委託」っていうのはわりかしアパレル特有の使い方で、いわゆる「委託販売」とは全く違います。とりあえず、順番に説明していきます。

1:買取 身も蓋もない言い方すれば、普通の卸売です。でもアパレルの場合はその中でも「完全買取(事前発注—生産前予約みたいな感じ—した商品すべてを買い取る)」というのと「買取(事前発注しているけど、実際はそのうちの必要な分だけ買い取る)」ってのとで分けて考えてたりします。ちなみにいわゆる「スーパー」とか「量販店」とかは「買取」条件が大半でした。完全買い取りであればアパレル企業側は理論的にはロスがゼロですので問題ないんですが、スーパーとか量販店とかは(特にPOSシステムの普及が進むにつれ)必要なものだけを発注・受領する「買取」条件で、店頭での売上が低迷するとスーパーとか量販店とかは発注伝票を切ってくれなかったりしますので、ロスはアパレル企業側が引き受けないといけません。しかも売り上げの低迷なんてのが本気でわかる頃はマークダウン直前ですので、ぶっちゃけ転売することすらできません(まあ営業担当が早めに「キャンセルさせる」こととかを能動的にやればいいんですが—実際私はしてました—取引先から切られるのが怖かったりもするので泣く泣くギリギリに—アパレル企業側からすれば販売期間を過ぎてから—受け入れたりすることも多かったようです)。

2:委託 ちなみにアパレル界隈で「委託取引」と言う場合は、実は「返品条件付き買取」とかそういう感じの名前になりまして、一旦は小売に買い取ってもらうんですが、返品や値引(値引きの場合は赤黒値引きと言って、一旦返品伝票を切った上で価格変更した単価に直して再納品伝票を切るのが基本ですが、ぶっちゃけ返品伝票だけで処理することもそれなりにありました。小売側の会計上の都合に合わせてたんだとは思います)。ですので、例えば百貨店統一伝票上の区分で言えば「買取伝票」を使います。

ちなみに伝票区分上での「委託」ってのも存在はしていました。ざくっと言ってしまえば、百貨店側で毎月棚卸をして、商品が減少した分=売上だという考え方で入金してくるスタイルです。ぶっちゃけめんどくさかったからか、いつの間にか消え失せましたが。

3:消化 これは店頭在庫はアパレル企業側の在庫として考え、販売した分をその都度仕入れる的な(実際の処理は単位時間—大抵は一日—の売上合計に掛率をかけて仕入れ額にするんですが)方法です。2の委託との違いは大きくは2点で、一つは小売側からすれば在庫が常にゼロであるという点(理論上ですけど。処理の都合上一時的には在庫が出てきたりします)と、店頭での商品ロス(まあ盗難とかです)はアパレル企業側持ちだってことですかね。

ちなみに、消化の場合は在庫責任がアパレル企業側にありますので、普通は販売員を派遣しています(どうしようもない理由で例外はありましたが)。

歴史的には、1:買取が当然一番初めからあった形式で、ぶっちゃけそれでは拡販できないので2:委託が生まれました。でもそれだと小売側の在庫高管理が優先されるので、在庫高にカウントされないですむ消化取引が主流になったようです。

これ、実は売場構造的な視点から見れば、平場→コーナー→ショップっていうのに対応していたりします。平場は言ってみればバイヤーが商品構成するので買取条件、コーナーはアパレル企業側が商品構成に関与できるので委託条件、ショップになるとアパレル企業主導になるので消化取引、ってな感じですかね?実際は平場でも委託(返品条件付き買取)がほとんどでしたけど。コーナーや平場の場合は、アパレル企業同士の場所の取り合いが発生しますので、返品ありでも売場面積を取った方が儲けにつながりますから、まあそうします。つまり、消化仕入っていうのが売上の最大化という目的から考えた場合は、小売もアパレルメーカーもどちらから見ても得な取引形態だったとも言えます。

っていうのが実はバブル期までの考え方で、その背景には「需要過多」ってのがあったりします。どんな条件であろうとアパレルメーカーの取り分+小売店の取り分ってのは(細かいところを除けば)一致しますから、それであれば条件のすり合わせはさておき、基本的にはどれだけ店頭にモノを置けるかって考え方になるのが当然です。要するに、バブルな頃までは小売とアパレル企業との関係はゼロサムゲームじゃなかったんですよ。協力したら売上が上がりましたから。

実際、アパレル企業側からすれば、ショップ形態(売り場の取り合いとかしなくていい)での消化仕入(小売店の在庫がどうであれ好きなように商品展開できる)が案外都合がよかったりします。ただし小売店側に販売能力があるっていう事と、アパレル企業側からすればショップ形態じゃなければ意味がない(場所を減らされたら売上も下がりますから予定が狂いまくります)のが前提ですので、百貨店ではショップ形態が増え、消化取引も増えていったってわけです。今百貨店の「平場」がほとんどないのはこの頃の名残って言ってもいいかも知れません。

ちなみに、量販店(スーパーとか)ではどうだったかと言うと、バブルが崩壊した頃にも大半が買取条件でした。ただ、バブルが崩壊した後数年後にPOSシステムの導入があって、まあ言ってしまえば「1個売れたら1個仕入れる」的な考え方が徹底され始めました。実はアパレル企業側からすればぶっちゃけ迷惑な話でして、売れない商品は引き取ってくれないわ、そもそも商品登録しないといけないので資料いっぱい書かないと(手書きでしたし)いけないわで、面倒で面倒で。ついでに言えば「買取だから」とか言って仕入れ価格も値切ってきます。

ここで馬鹿正直に「買取だからここまでは・・・」的な計算をしてしまうと確実にえらい目にあいます。引き取ってもらえない分のロス率を組み込んでおかないといけません。例えば、原価率(上代に対して)30%、販管費(上代に対して)20%のアパレル企業が、じゃあ合計の50%を超えた掛率だったら利益がでるな、って考えるとダメだってことです。確かに利益率的にはそういう感じで出るんですけど在庫が残ります。利益額も下回ります。アパレル企業のシーズン遅れ在庫は減価償却が手間(できない場合も多い)なので、なかなか可視化するのも困難な為(やろうと思えばやれます)、例えば担当レベルで見れば全取引先が黒字なのに、その担当が残した在庫を処分する(まあ原価を下げて販売したりとかです。原価割れはしないのですが、販管費分は赤字になる事が多いです)と合計で赤字って事になったりします。このあたりのメカニズムに詳しくない人が営業部長とかそういう役職についたりしたら、会社は知らん間に経営破綻とかします。アパレル企業で黒字倒産が比較的多い理由です。見た目は黒字、実質赤字ってやつですね。

さて、バブルは弾けましたが、実のところアパレル業界的には数年遅れで影響が出てたりしました(さすがにバブルが弾けて以降は、昨年実績は行って当たり前な状態ではなくなりましたが、意外と致命的でもありませんでした)。でも、世の中的に不景気ですから、全体的な売上は低迷します。実はこのバブルが弾けて数年後くらいからアパレル業界が迷走に入り込み始めた感があります。割と根本的なところ(需要過多か供給過多か)で道を見失ってますから、なかなか抜けられません。ぶっちゃけ今も抜けてなさそうです。バーゲンばっかりだし。

ちなみにこの頃って、アパレル企業的にはJANコードとかって何それ美味しいの?的な感覚でしたから、アパレル企業側は(企業として生かせるデータという意味でですが。優秀な販売員がいるお店は詳細をつけてました。紙と鉛筆でですけど)売上の詳細は知り得ませんでした。まあ私がいた会社では一部ブランドのみバーコード印字がされてあって、消化店舗のみバーコード(規格はど忘れしましたが。なんだっけ?JANでないことは確かです)でPOSデータ送信させてましたけど。ちなみにカプラーと公衆電話で送信です。そんな会社でもわりかし最先端(データ送信に関してはカプラーと公衆電話が最先端に近い位置にいたのは確かです)でしたから、アパレル業界ってかなりアナログな世界ではあります。1992年~3年くらいですかね。だいたいこんな感じでした。Windows95がまだなかった時代ですし。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?