アパレル業界で私が知ってること(データ分析篇5):売れる理由や売れない理由が大事だった。

 大きな枠組み的なお話は、まあある程度書いた気がします。書き出したらキリがありませんからそろそろ細かいというかミクロ的というか、まあ単品分析的な話に切り替えていこうかとか思ったりします。

 ものすごく当たり前の話なんですけど、POSデータでわかるのは「売れた」「売れなかった」的な話だけです。アイテムバランスとかそういう面では参考にできるんですけど、単品ベースで考えた場合、ぶっちゃけ次の企画にどう生かすとかそういうお話にはならないんです。っていうかしちゃいけないんですよね、本来は。もっと言えば「ない商品は売れない」ので新規アイテムなんかはデータ上では売れるかどうかなんか何一つわかりません。

 ファッションアパレルの場合、次の年には新しい商品を出していきますから、同じ商品を売る前提はあり得ません(年間定番的なものはあるんですけどね。まあそれはそれって感じで。苦笑)。というかいくら売れる商品であっても全く同じものを延々繰り返していたらジリ貧にしかなりません。マイナーチェンジするなり大きく変化させるなりはそれぞれなんですけどね。
 まあ、どちらにせよ、外部要因が急激に変化しない限りは「売れたものに近しい商品を作る」「売れなかったものはとりあえずラインナップから外す」っていうのが次の企画段階の土台になります。

 さて、簡単に書いちゃいましたけど「売れたものに近しい商品を作る」っていうのを真面目に考えた場合、実はかなり難しいんです。でも真面目に考えなければ前年の売れ筋のデッドコピーばかりになってしまいます。

 いやー、このあたりの話を書いちゃうと昨今のアパレル業界全体への批判みたいになっちゃいますねー。まあ批判してるんですけどね。実のところ。当然ちゃんとしているところはちゃんとしてるわけなんですけど、大きな流れとしてここのところの手抜き…じゃ言い方が悪いか…えーと…データ依存の弊害がでまくっていると思ってたりします。

 個人的にはここでわりかし勘違いが発生していると思っています。
「売れたものに近しい」っていう時の「じゃあ何が近ければいいのよ?」っていうところをあまり深く考えていないんじゃないかなーとか言ってみたり。
 一番簡単なのは昨年売れたものを気持ちだけマイナーチェンジして作るってのなんですけど、ぶっちゃけこれだったら前の年の商品をそのまま作る方がマシです。デザインの手間も省けますし、パターンも流用できます。気持ちだけのマイナーチェンジなんか考えるだけ無駄です。近しいっていっても実際のところ、そんなに寄せる必要はありません。そもそも売れてる商品が全てのお客様から見た時に100点満点ってのはまずありえませんから得点アップを目指すべきです。ついでに言えば100点満点で120点の商品でもいいわけです。お客様の想定の上をいく分には大歓迎でしょう。

 ってあたりで、元の疑問の「何が近ければいいのか」ってのに戻りますが、個人的には「売れる(た)理由」だと考えています。逆に言えばこれさえ引き継いでいれば、見た目がどんなに違っていても確実に売れます。売れた理由にフォーカスして作るわけですから、むしろ売上が前年よりもさらに伸びる事もザラです。ここがちゃんとわかった上でなら、新しいアイテムを増やすなんてことも容易です。というかこんなアイテムも要るんじゃね?ってなりますから普通に増えます。

 理由そのものは千差万別です。色味だったり肉厚感だったり機能性だったり、着こなしだったりです。正直言えば、気候の影響ってのもあります。

 千差万別っていう事は、特定が困難だっていう意味でもあります。もっと言えば、間違えちゃう事もあるわけです。このあたりが厄介なところです。

 当たり前なんですが、このあたりに関してはPOSでのデータ分析では答えは出てきません。実は今だったらデータ「解析」とかすることでいろいろ考えられるよな、とは思ってたりもしますけど、ここから先は、まあ、企業秘密的な?企業じゃありませんし実のところ具体的でもありませんけどね。でも多分なんとかできそうな気がしてたり。腹案っていうか思いつきっていうか、そういうのは山ほどあるんだよなー。実際に使えるかどうかは知らんけどさ。

 まあ、少なくとも当時はそういう解析レベルの事は私のスキル的にもできませんでした(試そうとはしたんですけどね)し、ぶっちゃけ必要なデータセットもできませんでしたから、地道に販売員たちとお話し合いです。まあ仮に解析できてたとしてもお話し合いそのものは必要なんですけど。
 この時のコツっていうか、ちょっと意識していたのは「できる限り売れている期間内に聞く」ってところですかね。後から聞いてもいちいち覚えていない事も多いですし、1回に1品なら簡単ですが一挙に複数聞かれたら聞かれる側も大変です。
 そもそも、売れている理由って案外わからないもんなんですよ。売れない理由ってのはお客様とかが「ここがちょっと…」とか言ってくれてたりしますし、販売員もお薦めしている最中の違和感とかで気づきやすいんですけど、売れている理由ってのは最終的には推測するしかありません。

 でも「売れる理由って重要だよね」ってのをみんなが共有できてくれば良い事も多くあります。
 販売員が売れている理由を知ろうという意識があれば、接客時のちょっとしたところでも気をつけて見るようになりますので、仮説は立てやすくなります。ついでに売れている理由がわかった場合、そこがセールスポイントですから、接客するときにもおすすめしやすくなります。それで売れたら仮説が補強されますし売りにくかったら仮説は棄却できます。こういうのを繰り返していけば結果的に販売員のスキルも上達していきますし、次の企画の段階ではセールスポイントを共有できますので、どんどん良い循環になっていくんです。

 それに、理由によってはその年に傍流的な商品だったものでも、次の年には自信をもって主力商品にすることもできますし、同じ「売れる理由」を持つ商品を増やすことも容易です。見た目的には大きく変わっていてもエッセンスはしっかり残ってる的な感じですかね?
 まあ売れた理由を間違えてたらここで調子に乗ったら痛い目にあうのも事実なんですけど。たまに売れない原因を組み込んじゃったりとかしたりして即死ってのもありました。苦笑。

 ですから売れなかった理由も大事です。売れる商品に売れなかった要素を組み込んでしまうと売れなくなります。作りにかかっている商品ですのでダメージ大きいんですよね、これやっちゃうと。このあたりはサンプル段階で徹底的にやるわけなんですけど、見過ごしってあるんですよね。
 それに、売れなかった理由によってはそこを修正するだけで売れ筋になる場合も結構あります。ベンチコートを企画したことがあるんですが「いいんだけど、さすがに足首までは要らん」っていう理由であまり売れなかった事例がありまして、翌年度にひざ下丈に修正したら爆発的に売れました。とは言え120cm以上しか売れませんでしたので、小さいサイズの処分に四苦八苦した記憶があります。このあたりは踏み込みが浅かったってのが反省材料ですね。きちんと踏み込み切れていたら120cm以上しか作らなかったのに。当然ですがその次の年からは120cm以上しか作りませんでしたよ。SKU単位でバッサリやっちゃうってのは私の発注の特徴でもあります。

 端的に言ってしまえば、POSデータだけじゃなくてこういった「理由」みたいなのを考察していけば、ライフスタイルにまで踏み込めるんですよ。
 まあ、ファッションとライフスタイルの関係性っていろいろ言われてますからね。でも案外ライフスタイル提案→ファッション提案っていう文脈になる事が多いとは思いますが、ファッション側からアプローチしてライフスタイルを見る事だって可能なわけです。このあたりはPOS分析だけじゃ無理なところではあります。定性的なものはPOS分析だけじゃわかりません。

 このあたり、POS分析という定量的な側面と、商品感度的な?まあ何と言いますか、そういう定性的な側面とが相互に補完し合う事で、それなりに自信をもって新しい商品を展開していける状態に持っていける事は事実です。
 まあ、ぶっちゃけ成功もしましたし大失敗もやらかしましたけどね。でも考えてそうするのと意図もなしにそうするのとでは知見の蓄積というか、次に生かせる度合が違うというか。

 つまりですね、言いたいのは「売れる理由売れない理由をしっかりつかんでさえいれば安全な範囲を広げる事ができる」って事です。

 安全な範囲が広がれば冒険できる余地も広がります。まあこのあたりは次のお話にしようかと思ってます。データ分析の話なのかこれ?まあいいか。

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