アパレル業界で私が知ってること(小売篇)その1:店頭売価的なお話。

アパレル業界っていうか、違う業界から見てアパレルの最大の特徴は(例外もありますが)マークダウン販売ってのがわりと頻繁に行われるって事でしょう。なんで?的な意味で不思議に思ってる人も多いかと思います。

実は戦後とかから見れば現在はかなり早期化しちゃってる傾向があります。笑い話に近いのですが、私の亡くなった祖母なんかは「マークダウンはお盆頃」だと長い事思ってたりしてました。

実際のところ、例えば夏物なんかは本格的に暑くなる前、ぶっちゃけ7月頭からスタートしてたりします。7月頭って、梅雨ですから本格的に暑くなる前です。冬物なんかだったら1月頭にはマークダウンしてたりなんかしちゃいます。本格的に寒くなる前ですね。要するにちょっと我慢したら実需期にはマークダウン価格で買えちゃうんですよ。今って。

当たり前なんですけど、マークダウンして販売しちゃうと利益率が下がります。ってか売り上げが下がります。ぶっちゃけマークダウンなんかしない方がいいに決まってます。でもマークダウンってしてるんですよね。

じゃあなんでマークダウンするの?ってお話なんですけど、大きくは2つ理由がありまして。

一つは、季節が変わっていくからです。要するに涼しくなったら夏物は売れないんです。当たり前ですけど。もう一つは、キャッシュフロー的に考えて、当年度商品を翌年に持ち越してプロパー販売するのが辛い、ってのがあります。サイズ抜けとかもでますしね。

実のところ、これだけが原因だったらマークダウンの時期ってそんなに早期化しないんですけど、実はここで25年位前かな?ある大きな事件というか変化があったんですよ。ショッピングセンターの大規模化とPOSの導入です。

裏話的になるんですけど、ショッピングセンターの平場って、実は3カ月ルールってのがありまして、要するに仕入れてから3カ月たてばマークダウン対象になるんですよ。例えば夏物だったら春物が売れなくなってくる3月中旬には夏物が投入されはじめるんですけど、これって要するに6月にはマークダウンを開始するってことなんです。ちなみに、いわゆる「値札」で商品の入荷時期は管理されているんですけど、ここがPOS導入によって、今までより管理体制が厳しくなったんです。また面倒な事に、値札でわかるのは「月」までなんです。なので3月納品の場合は6月マークダウン開始になっちゃったわけです。

そうなったら当然他のお店もある程度追随せざるを得ません。特にショッピングセンターのインショップは平場がマークダウンしちゃうとさすがに販売が鈍るので、どうしてもマークダウンして対抗します。どう考えても無意味なチキンレースなんですけど、そういうものだったんです。それが基本形となった場合、いわゆるプロパー消化率っていう、定価で販売できる比率が下がるんです。当たり前ですね。安価で販売するんですから当然利益が出にくくなります。

じゃあどうするかって言えば、マークダウン価格である程度販売することを前提にした定価設定しちゃうんです。そうしないと生きのこれませんから。じゃあ本来はいくらくらいが妥当だったの?ってのを理由も含めて説明してみようかと思ってたりします。

まあ、どの業種でもそうなんですが、販売額−仕入額=粗利額です。ここの構造はアパレル小売も同じなんですけど、面倒なのは販売額が変動するってのが前提になっているところです。まあ変動「する」っていうより変動「させる」(させざるを得ない、でもありますけど)なので、最初から変動することを組み込んでおいて計画すればいいって考え方にたどり着くのは当然です。

さて、用意した商材のうちで定価で販売する(したい)比率って言うのを設定します。これが「プロパー消化率」ってやつです。本来は計画作成にこそパワーを発揮する数値なんですよね、実は。

誤解している人って案外多いんですけど、プロパー消化率ってインジケーターなんですよ。インジケーターだからKPIにもよく使われて、またその事でごかいされるんですけどね。消化率が計画より高い場合は商品ショート=機会ロス、計画より低い場合は商品余り=販売ロスであって、実はどちらの場合も不都合が生じます。実際単一カテゴリーレベルでは数回プロパー消化率80%超えて地獄を見た事あります。一番覚えているのは防寒コートだったんですけどね。ちょっと店頭展開の手法で小細工したのが効を奏して、前年生産数の2倍以上作ったにも関わらずプロパーで80%消化しちゃいまして。トドラー~スクールですからサイズ展開が豊富で本気で地獄でした。12月半ばに店頭にコートがほとんどない状態ですよ。そりゃ文句も言われます。マークダウン含めた消化率なんか当年度の生産分(=販売予定分)を分母にしたら110%とかですよ。まさかの100%超えですよ。持ち越し品まで売り切りましたからね。ちなみにその年度の利益はものすごかったんですけどね。他にもボトムスでやらかしそうになりましたが、QRで対応できました。あれもヤバかった。っていうかギリギリアウトだったんですけどね。

じゃあ、今時ってプロパー消化率ってどれくらいで設定しているものなの?って言っちゃえば、メーカーとかブランドとかの特性にもよるので一概には言えません。ただ、カジュアルの場合、プロパー消化率は50%前後で設定することになるでしょう。

「半分かよ?!」って思ったりする方も多いとは思いますが、実はこれには割と明確というか、切実な理由があるんですよ。坪あたり在庫量と坪当たり売上との関係でこうなっちゃうんです。ちなみにこれ、アパレル業界の人でも理由を知らない人多かったりします。逆にアパレル業界の人程「そういうものだ」で思考停止しているところがありますからね。折角なので理由のところを説明していきたいと思います。

さて、アパレルの、特にインショップの場合は、普通は坪売上は20万/月を基準として計算します。なぜ?って問われるとあれなんですけど、正直言って慣習的な面もあります。ただ、明確に理由はあります。ただ、理由を知らないアパレル業界の人は案外多いので、ちょっと残念です。

もう一つの要因として、坪あたりの在庫は概ね60万/坪というのが見た目上の最低必要在庫だと考えられているってのがあります。これ以下になるとみすぼらしくなったり、棚が空いたりしちゃうわけですね。棚がスカスカのお店って、入らないですよね?単純にそういう事です。ちなみに単価の高低は案外影響しません。高額商品って場所をゆったりと取って陳列しますから。低額商品の場合は逆ですね。ですから不思議と一定なんですよ。

ということで、上の2つの数字から、必要最低在庫月数は簡単に出せますね。シンプルに3か月になります。実は「3か月分在庫が必要」というのが難物なんです。まあ長い時点で難物なんですが、それ以外にも問題がありまして。

夏物のプロパー販売期間は、大雑把に3か月と考えるのが普通です。4月~6月ですね。細かい話をしちゃうと3月20日以降は夏物衣料的なものも売れますし、4月に入っても春物衣料的なものは売れたりしますから、あくまでも原則論かつ大雑把だと考えてください。

勘の良い方は気づいてるかも知れませんが、販売期間3か月で、販売終了時の在庫が3か月分必要っていう状態になってますね?実はこれがプロパー消化率が50%な理由なんです。坪売上と坪当たり在庫から決まってるんです。実はプロパー消化率って坪売上でほとんど決まっちゃうんです。

ここで小細工して坪当たり在庫を減らすと売上が下がってマイナスのスパイラルに突入しますし、坪売上が簡単に上がるんだったらそもそもこんな苦労してません。ですからこの数字って案外堅牢なんですよ。なかなか動いてくれません(上手な小細工の方法はあります。まあ売場の運用の話をすることがあればそこで詳しく書きます)。

ちなみに、糸偏業界が調子が良かった時代ってのは、この月坪売上が平均で50万とかだったりしたそうです。物価とか考えたら棚在庫は50万とかで良さそうですから、在庫月数1か月ですね。3か月販売期間でプロパー消化率は75%になります。そりゃ儲かっただろうなー。

まとめれば、「月坪20万という売上を前提とした場合のプロパー消化率目標値は50%以上の設定は無理がある」といえます。この事は「月坪20万未満の売上の店ではプロパー消化率が50%未満にしかならない」とも言い換えられます。

さて、プロパー消化率がせいぜい50%になっちゃいましたが、残りの商品のうち半分を30%オフで、半分は50%オフで最終的に完売した、と仮定してみます。この場合の売り上げは元上代を1とした場合、

(1×0.5)+(0.7×0.25)+(0.5×0.25)=0.8となります。

つまり、仮に同じ量がマークダウンなしで売り切れるのであれば、元から2割引きして販売できてたって事になっちゃいます。典型的な供給過剰ですね。なのでマークダウンでもしないと売り切れません。悪循環なんですけどね。

せっかくだから小売店舗側の採算性を考えてみたいと思います。歴史的にって言うと変なのですが、根本的な考え方として「売上を『工場』と『アパレル会社』と『小売』とで均等に割る」というのがありますので、小売りへ卸すときの掛け率は66%がスタート地点です。ちなみにアパレル会社が製品を仕入れるときの仕入れ値も上代の33%からスタートしていたりします。どちらも今では変わりまくってますけど。じゃあどう変わってきてるのかってのはそのうち書きます。ってか卸の掛率の変化は今回必要ですから下で書きます。

原価率を元上代の66%とした場合、粗利は売上−仕入れですから(0.8-0.66)=0.14です。粗利率は粗利÷売上ですから(0.14÷0.8)=0.175になります。ここから経費が引かれていくわけですね。

ぶっちゃけ小売りの経費の大半は人件費と家賃です。ちなみにショッピングセンターのインショップの場合、ざっくりと言えば2種類あって、固定額で支払う場合と売り上げに応じて支払う場合の2通りになります。厳密には固定額+売上の○%だったりしますからあくまでもざっくりです。固定額の場合はそれぞれなので、売上に応じて支払う場合を考えます。と言っても、最低保証とかがある場合が大半なので厳密な計算ではありませんが。

じゃあ売上の何パーセントが家賃(厳密には違う項目なんですけど)なの?って言いますと、おおよそ15%~20%くらいだったと記憶しています。売上の17.5%しか粗利率が無いのに売り上げの15%~20%が家賃です。これじゃどうあがいても利益なんて出ません。昔は持ち家っていうか自分のお店でやってましたから、家賃ゼロでしたから成り立ってたんですけど、そもそもショッピングセンターができて既存のお店で売上が立たなくなったからインショップでの出店を考えるってのが始まりな事が大半でしたし。

なので、仕入れを下げるわけです。アパレル商社からしても売上も欲しいですし、焦げ付かれたら困りますから掛率は下げざるを得ません。薄利多売な考え方ですね。じゃあどれくらい掛率を下げるかって言うと、おおよそ55%位までは何も言わずに下げる事が多いですかね。売上が期待できる場合は50%位までなら下げてました。このあたりの駆け引きはアパレルメーカー側での原価率のお話をする機会があればそこで詳しく話をしたいところです。

さて、さっきの条件で、掛率を50%にまで下げた場合の小売り側の粗利は0.3、粗利率は0.375です。ここから家賃を売り上げの18%位引きますと、19.5%が残ります。坪あたり売上は20万ってのが一旦の前提ですから20万の19.5%で坪当たり3万9千円が残りますね。ここから人件費を引いていきます。

さて人件費なんですけど、ショッピングセンターのもう一つの厄介な点が、営業時間が長い上に年中無休ってところです。短めに考えて朝10:00~夕方21:00までとしましょうか。営業時間は11時間です。労働三法の制約がありますから、一日あたり2人は必須です。ついでに休みも取らせないといけませんから最低でももう一人は必要です。最低人数が3人になるわけですね。

働かせ方にもよりますが、どう考えても月20万は人件費として計上しないといけないでしょう。3人だったら月60万です。この人件費を稼ぐためには坪数で15.4坪が必要になります。20坪を3人で回すことができれば78万を3人で山分けですかね?20坪3人って、結構大変です。さすがに1%~2%の雑費もありますから人件費にできるのはもう少し下がります。

話を簡単にしたかったので最低保証的な計算はしていませんでしたが、実はここにも罠があります。月で15万~18万/坪の売上に相当する金額を最低でも徴収するっていう契約なんですけど、この計算単位は年じゃなくて月なんです。服飾アパレルの場合、例えば一番売上が高い12月と一番売上が低い2月とでは倍以上売上が変わりますから、年平均で月坪18万をクリアしていても単月ではクリアできない月とかが出るんです。具体的には2月、6月、9月あたりは売上比率より多く支払う羽目になります。

こういう状態でしたから、小規模な小売専門店がショッピングセンターに進出するっていうパターンは、わりと成り立たなかった為、一気に衰退しました。とは言え坪効率が月30万あれば全くちがう状況になるのは事実なので、むしろショッピングセンターが乱立したことによって商品ドメイン単位で見た場合に、地域全体としての売り場面積が急増した結果、坪効率が低下したってのが主因だとは思います。

いずれにせよ、小売業だけではなかなか苦しいってのが事実です。ですので、アパレル各社は積極的に小売側に関わり始めます。これがアパレル業界でSPAが登場してきた背景の1つです。

今回は純粋な卸業としての小売店との関わりを書きましたが、実はアパレル業界ってもっと昔から積極的に小売側に関わろうとしていたんですね。ターゲットは主に百貨店です。これはこれで面倒だったり面白かったりするんですが、次回はそのあたりを書こうかな、とか思ってたりします。

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