アパレル業界で私が知ってること(小売篇)その4:アパレル会社でのPOSの活用とSPA的な仕組みの構築のお話。

と、まあ年末(多分2002年)に社長から特命(なのか?雑談の延長って気もしてますけど)を受けて、数か月で簡単なレポートを作成しました。多少の問題点はあったようですが、基本的にはそれがその後の基本方針になって、実際にSPA型の商売へと大きく舵取りを行う事になりまして、ぶっちゃけ1年はBPR的に考えた時の組織とか部門の業務内容変更やら、そんなんをサブに、今までやってた業務は一応他に人がいないのでそのまま継続してたりとかしてました。この頃システム部門で仲が良い外注のシステム屋がいて、協業で発注数と重み(どれだけ会社に貢献してくれている得意先か)を組み込むことで、商品の配分・調節は機械化することに成功しましたから、その面では大きく進歩できました。今でも「あれ単体で販売できたんじゃね?」って思うレベルの出来です。大した情報量は不要なわりに、人間が主観でやるよりは正確かつ超高速で動くプログラムで重宝しました。おかげで時間がゆっくり取れるようになったのは事実です。システム移管の際に破棄せざるを得なかったんですが、本気で優秀だったので捨てるのが悔しかった記憶があります。

さて、会社的にはシステム周り、特にPOSデータの収集はほとんどの消化店舗で取得できるようになっていました(100%ではありませんし、買取・委託店舗では特別な店舗でしか取得できませんでしたが)。これを上手く使えば、いらん商品の生産量を落として、必要な商品に積み込みをかけられるじゃないか、と意気込んでシステム開発部にいったら「メインでその仕事やってた人がリストラでやめたからよくわからん」とか言われちゃいまして、仕方ないからデータベースへのアクセス方法だけ教えてもらいました。

POSデータといっても、POSレジでの処理ではありません。暇を見て店員がバーコード読む形式です。当然ですが、毎日リアルタイム送信は物理的に不可能ですので、数日後に正常値になるってレベルです。それでも十分以上のデータがありまして、データ分析っていう新しい仕事が勝手に増えちゃいました。でも、SPA的な(消化取引の場合、掛率がかかるので普通のSPAよりちょっとだけややこしいんです)全社統一的な発注—投入ー追加っていうものの土壌はきちんと組み上げできました。販売予算から生産計画を逆算して求める方式がきちんと使えるような背景ができたって言う状態ですね。これによって根本的な投入過多は社内である程度は調整できるようになりました。まあ、営業は「店頭の商品足らんやないか!」っていう小売の声と戦ってくれてました。違う目線で言えば、戦ってくれる程には理解と共感をしてくれたって事です。今までとは逆ベクトル的な仕事なのに短期間で方針変更してくれたってのは正直ありがたい話です。

まず、店舗ランクを各々の予算に応じてA~Dにまで分類して、初回投入分はそれを基準に設定しました。ちなみにこれはどのお店も基本的には共通です。例外としては、露骨に違う答えがでてくる丸井今井札幌なんかはそれにあわせてマイナーチェンジさせてましたけど、そこくらいでしたかね?都心部にもう一軒あった気がしますけど名前をど忘れしました。たかが2件ですし、傾向はわかってますから微調整だけなので余裕です。この際に注意したのは、当時ベビー売場にあるベビー比率とトドラー売場にあるベビー比率が(当たり前ですけど)全然違うって事に気が付きまして、ベビーとトドラーとで店舗ランクは別設定しました。ベビーはAランクだけどトドラーはCランクっていう店を意図的に構成したわけですね。弊害としてはベビーサイズは入っているけどトドラーサイズは入ってこないって商品がでてくるので、地道に各店舗に説得したものです。「トドラーが少ないんじゃなくて、ベビーを増やしたんだよ、その結果そうなったけどお店はベビーがメインだから平均的にやるより絶対売上取りやすいって!」ってな感じです。まあある種の心理的なテクニックですね。「○○を減らした」っていうより「△△の比率を増やした」って言う方が好意的に受け止めてもらえますから。

で、予算に応じて目標プロパー消化率で割れば投入計画です。基本的な考え方として、全店舗消化率目標は同一のものを使用しました。坪効率が低い店舗では棚が余りますので、棚を外してディスプレイゾーンにしたり、極端な例でしたら花とかかざらせました。いや本当に花飾ったかどうかは知りませんが。これで理論上はプロパー消化率が全店似たようになるはずですから、粗利率も安定します。

シーズンインしてからは小手先の調整が仕事です。計画が小さい店だと油断したらボトムスが1種類とかになってて「さすがに無理」とかって意見も店頭から出てきたりもしました。金額的な影響も低いし、なんぼなんでもボトムスが1種類はさすがに無理だと私も思ってましたから、素直に追加投入しましたけど。売場として一応各アイテムがそろっている状態にするのが必要なんですけど、油断したら失敗しました。予算通りの売上になりませんから調整は必要ですしね。そのうち書くと思いますが、システム的には旧来の卸売システムですので、当時はちょい面倒でした。システム更新の時にこのあたり大幅に組み替えてもらいましたけどね。この話もしだしたら長くなるのでそのうち書きます。

結果的には売り上げもプロパー消化率も上がりました。適時適量適材適価を(無意識っていうか、前提条件からの帰結なんですけど)徹底した結果です。問題は売上予算が低くて坪数が大きい店でしたが、方針として「消化率が安定する金額以上は投入しない」ってのは(四苦八苦して)説明していましたから、さすがにそこは販売員とセールスがなんとかしてくれてました。

ブランドの特性とかもあるんですけど、結局のところ、プロパー消化率が一定レベル以上であればそれなりに利益はでるようになってます(というか利益がでるようにプロパー消化率を設定するわけですから)。この当時は2000年代でしたから、店頭販売データがデータとして手に入るようになってましたから、サイズ別アイテム別色別とかの販売実績データは日別レベルで手に入ります(データベースの使い方はリストラ後に残っていたシステム担当者が使い方を知らなかったので、ログイン方法聞いて使い方は自習でしたけどね。アウトプットはDr.sumです。Oracleとかでの集計とかはさすがにシステム担当者がやってくれてました)。

POSデータがあるといろいろわかります。どのアイテムがいつがピークだとかすぐわかりますし、販売実績としてのアイテムバランスはわかります。男児の実需品に関しては、そこからの調整は企画内容との相談ではあるものの、基本的には似たような構造で事足ります。女児の場合はコーディネイトスタイルが変更されたらそれに合わせて変更させるようにしてましたけど。例えば、ワンピースを減らしてボトムスを増やす企画になったらボトムスに合わせるトップスも増やすって感じです。

面倒なのは過去実績で売れていた商品は、継続品を除いて類似品を作る事があってもそのものずばりは作らないってところでしたね。このあたりはいわゆる「経験から来る勘」です。単品で売れるか売れないかです。とは言え暗黙知のうちの一部を明白知にできていた部分も多少はあります。でも多少ですから大雑把には勘みたいなものです。ただ、勘に頼る限りは独善的にならないように、展示会でいろいろな人、特に販売員の意見を聞きまくりました。

まあ失敗もいっぱいしました。失敗したら失敗したっていうデータが取れたと割り切ってましたけど。ただ失敗した理由の検討はやってましたけど。ここで重要なのは失敗した理由だけじゃなくて売れた理由側も徹底分析しておくってことで、そうじゃないと企画する時に困ります。ちなみに失敗理由って案外簡単なんですけど、逆に売れた理由って本当にわからなくて。このあたりは売場の販売員に連絡です。意外なほどにしょうもないところが売れた理由だったり売れなかった理由だったりして、悔しくもあり楽しくもありでしたね。

まあ、こういう事を準備することで(2004年から2005年位の時期ですかね?)POSの実績をベースとしたアイテムグループ別であったりアイテム別であったりの生産量バランスやらメインの売価設定をどのあたりにするべきか、なんていう定量的なお話がようやくできるようになってきました。販売時期なんかも明確化できてきましたから、生産部門とかに「何がなんでもこのタイミングで商品をあげてくれ!」とか「その代わりにこっち遅れてもいいし」的な話題ができるようにもなりました。そうなれば企画意図→店頭販売手法(展開方法とか)→そもそもの販売時期なんていう流れができますので、ある程度ビジネスプロセスとして流れができてくるようになってきます。イレギュラー対応もある程度の基準ができますから、納期遅延でも納品してもらうべきかキャンセルさせてもらうかとかの判断も容易です。

実のところ、それまでって「出来上がった商品から順番に出荷する」的なのりは結構あったんです。秋ごろに薄手より厚手が先に入荷したら厚手を先に出荷します。物流的には先入先出で結構かも知れませんが、売場からすれば「いや、こんな分厚いのまだいらんねんけど?」です。しょうもない話ですけど、事実です。ひどい話ですが、冬になってから薄手の秋物が入荷とか普通にありましたからね。

これは仕入れの方でちょっとだけ裏がありまして。当時は既に日本の縫製工場がかなり弱ってまして。それでなくても中小が多い縫製工場に対して「在庫ちょっと持っておいてね♪」ってやると、ぶっちゃけ工場が潰れかねないってのもあったんです。工場が潰れられると困るから製品を引き取る的な感じです。じゃあ海外はって言うと、その頃は割と勝手に送り付けてくるけど、遅れるよりマシだよね的な乗りなので、まあいいか、って感じです。特に当時の中国製は品質もよろしくなくて、一か月前に入荷してチェックしておかないと怖くて仕方がないってのもありました。アウトだったらやり直しさせないといけませんから早め早めです。ですので、必然的に入荷順序と想定している店頭展開とはリンクしません。そもそもリンクさせようとしてません。

まあ、そんな事を徹底して商品の販売効率を高める事で粗利率を高めて、黒字化を目指す為の方針を明確化できたらなんとかなるって感じですかね。

こういうのって端的に言えばSPA的なものです。まあSPA的なものを志向してビジネスプロセスの変革をしたんだから当然なんですけどね。SPAって言葉を知ったのは数年後でしたけど。呑気なもんです。実を言えばSCMって言葉を知ったのも似たようなタイミングでした。SCM的なことはやってたんですけどね。

ここで細かくは書きませんけど、実際のところは改革した部分ではいちいち文句が出まくりました。当然ですね。今までと全く違う考え方で仕事しなさいって言ってるわけですから。過去の基準だと取引継続してもよいようなところでも、違う基準で見直した結果どう考えても在庫ロスが大きくなるような店舗からは撤退してもらうようにリストとか作って営業に投げたりもしました。ちなみにその時のリスト上の大半の店舗は店舗側が店舗ごと撤退したんですけど。商談する前に店が無くなっていきました。要はどうあがいても赤字にしかならない構造の店はやっぱり赤字なんですかね?言ってみれば坪効率が悪いお店です。

でも、この頃の数年間は直接担当していた事業部では黒字継続でしたし、何度かは全社ベースでも黒字転換しています。やる事やっとけば黒字にはなるもんだとしみじみ思ったものです。持ち越し在庫も少なかったですしね。

関係ありませんが、当時私がいた事業部では部内会議がゼロだったってのも特徴です。組織改革した1年目は流石に最初は会議してましたけど、2年目ともなればリアルゼロです。たまたま年齢が同じようなのばっかりが集まったので、普段から雑談ばっかりしてましたからね。雑談で仕事進めてました。会議なんかしなくても状況どころか方針まで関係者全員が当然のように共有してましたから。他の事業部からは不思議がられてましたが、ペチャクチャ喋りながら仕事してても仕事に関係する話だったら時間のロスどころか大幅な節約になるよってだけです。共有できるなら手段はなんでもいいわけですから。

いろいろ書きましたが、それなりに力があるブランドであれば、きちんと計算して共有しておくだけで黒字化はそんなに難しくないよってお話です。要は作りすぎないって事とタイミングは大事って事くらいです。生産計画ったって販売計画から逆算するだけですし、あとは期中での調整の方向性だけです。理解さえしてれば後は作業ベースでしかありませんから簡単なんですよ。無理な予算さえ組まなければですが。

個人的には他のブランドの監修?的な事もしてましたから、他のブランドではPOSをベースにしていかに組み立てるべきかとか考えたり、数字とかを落とし込む仕事の方がしんどかった時期です。ブランドの性質が変わると売れ方っていうか、購買行動のパターンっていうか、そういうのが変わるんですよね。例えば男児服だったらサイズがなかったらお客様は色違いを選択する事が多いのですが、女児服の場合は違うサイズ(大抵は一つ大きめ)の同色を選択します。男児はサイズがメインのキーで女児はデザインがメインのキーってわけですね。一番強いキーがブランド特性によって変わるので、まあいろいろ試行錯誤でした。

まあPOS分析のお話はキリがありません。本当に山ほど事例があって、検証できたものも多いんですが、いまだに謎だったりってのも結構あります。っていうか仮説は立てられたって段階で次行きますから、検証しきれる方が稀でした。試行錯誤上等なので仮説が立てられれば次に生かすってのが基本姿勢でしたね。でもたまに失敗した。涙。

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