アパレル業界で私が知ってること(取引先編)1:GMSの買取は買取だと考えたら痛い目にしか合わない

 アパレル業界って、なんだかんだといろいろな取引形態がありまして、場合によっては組み合わせたりイレギュラー的な対応をしたりとかって事も多いんですが、概ね得意先の業種によってある程度基本のルールは決まってくる事が多いです。

 大雑把に言えば百貨店との取引は基本的に在庫ロスをメーカー側というかアパレル事業者が持つ場合が大半で、手法として「返品特約付き買取」(まあアパレル企業では「委託」と呼ぶ事がおおいんですけど)や「消化取引」なんてのがあったりするわけです。この事によってメーカー側は自社の思うようなMDを店頭で表現できるというメリットを持ちながら、売れなかった時のリスクを甘受することになり、百貨店側は売れなかった時のリスクを最低限にしつつ、バイニング能力を伸ばす機会を失ったってのが、まあ結果論的なお話です。

 さて、GMSなんですが、基本的には「買取条件」です。GMS側が発注した分は買取ですから売れようが売れなかろうがリスクはGMS側が持ちます。これだけ見ればいいお話ですよね。でも問題を抱えているんですよ、これ。

 GMS側って、初回納品はとりあえず確実に発注してくれるんですけど、GMSの売上ってPOSで管理されていて、まあ単純に言えば「売れたら追加発注する」なんです。まあ実際のところここまでも特別問題はありません。

 「売れたら追加発注する」っていう事は「売れなかったら追加発注しない」っていう意味でもあります。しかも初回投入段階で「〇〇枚までは追加発注しても対応しますよ」的な事を約束させるような帳票になってたりするんですよ。

 メーカー側というかアパレル事業者側としては売れようが売れなかろうが予定数量は準備しておく必要があるっていう事になるわけです。少々怪しくなってきましたね。でもここまでならリスクをどういう風に考えるかってだけの話ですので、不満はありますが不公平かって言われたら、まあ、これはこれで呑めない話かと言えばそうでもありません。

 問題なのは、生産した数量の全てを引き取るわけでもないにも関わらず、さも生産した数量の全てを引き取るかのような取引条件になっていたりするところだと個人的には思っています。概ね仕入掛率は50%を切るか切らないかっていうあたりの攻防なんですが、同じように在庫ロスを前提にして掛率を出している百貨店が委託(返品特約付き買取)で65%前後、消化で70%前後という掛率なのと比較した時に圧倒的に不利なんですよ。

 もっと問題なのは「売れなかったら在庫ロスだよね」っていう構造は全く同じなのにも関わらず「GMSは買取だから」っていう理由で、さも在庫ロスが発生していないかのように考えちゃってるアパレル事業者側の思考停止っていうか考え方のあたりにあると思ってたりします。

 個人的にはGMSをメインに取引をしていたのが当初は別会社であって、本体の業務改革がひと段落して黒字体質になり始めた矢先に別会社であったGMS取引メインの会社が合併したので改革の手が伸び切らなかったってのが辛いところでしたから、ここに関しては成功事例じゃなくて中途半端で終わっちゃったんですよねー、実際。まあここの改革まで成功していたら会社なくなってませんけど。苦笑。

 性質が悪い事に、アパレル企業側から見ても、売上原価や粗利だけを見ていれば実際に買取条件と同じように利益がでているかのように見えるんですよ。っていうか会計上は実際に利益がでているんですけどね。

 じゃあどこにしわ寄せが来るかって言うと、在庫、しかも不良在庫が増加して、キャッシュフローが悪くなるっていう形で出てきます。GMS用で生産した商品のうち、シーズンが終わった時に社内に残っている商品ってのは、要するに店頭で売れていなかった商品ばかりなんですよ、理屈上。細かい事を言えば「売れるけど作りすぎた」とかそういうのもあるのですけど。
 何が言いたいかっていうと、シーズン終了時の社内在庫って、実質的な価値は大きく棄損されているっていうか、考えようによってはゼロなんです。だって売り先がない商品は原価価値があろうがなかろうが売上原価になることなんてありませんから。実質的な原価価値はゼロです。倉庫面積を圧迫するだけです。

 アパレル業界って基本的に洋服を扱っていますので、経年劣化的な在庫の減損はできないんですよ。実質的に価値ゼロであっても、まあ言い方変えればいわゆる「焼く」まで価値はそのままなんです。焼くって事は商品在庫金額を破棄するって事ですから、その余裕がなければ破棄できません。B/Sにダメージがいきますから。

 で、先月でしたかね?とある中小企業診断士の集まりで発表するために古い資料をさぐってたんですけど、GMSの部門は売上規模が百貨店の1/10しかないにも関わらず、GMS用の商品在庫が原価レベルでほぼ同じ金額だったりしたわけです。
 しかも百貨店側は倉庫在庫のほぼ全てが店頭販売可能であるのと裏腹に(まあバーゲン商材として売れるからっていうものも多いんですが)、GMSの部門は在庫の1/4程度しか売れるものがないっていうような感じのデータが出てきたりなんかしたわけです。辛すぎます。

 改革案として「実質的な減損をGMS部門のマイナス要因として計算して採算性を見れるようにする」っていうのを構築しようとしていました。
 なんでそんな面倒な事をしないといけないかっていいますと、GMS部門は「自分たちが利益を上げているんだ」と信じ込んでいたからです。別会社の時に継続的に赤字だった部門が利益を上げているわけないんですけど、数字のマジックに自ら引っ掛かっていました。
 ちなみにこれは非常に残念な事なんですが、この数字のマジックみたいなのに気づいていた方が部門長としていらっしゃったのですが、会社からの突き上げと部下たちの理解や現実との乖離などで悩んだ結果会社を去ってしまいまして。その後の部門長がこの数字のマジックにハマっている事を全くと言っていいほど理解できていなかったってのがあります。

 なので、キャッシュフロー的に考えたり、販売場所を逃した商品の原価価値の損耗分をなんらかの形で部門に取り入れておかないと本当の利益がどうなっているのかが見えないままだと、まあ、あれです。平気で売れない商品を作るんです。他の部門が全社を挙げて残在庫をどうやって減らすかって考えているのにも関わらずです。「買取だから」ってのを言い訳にして作ろうとしていたのを何度水際でストップさせたことやら。不足しているサイズだけ作るならまだしも在庫があるサイズまでなぜ作ろうとするのかは不思議以外の何物でもありませんでした。

 そういえば、もう一つ厄介な事がありましたっけ。買取だからっていう理由で高い原価率設定で商品を作るんですよ。原価率設定を低くする理由の一つに在庫ロスのカバーってのがあるんですが、買取条件の場合、特に値引きが発生しないのでこのあたりが無頓着でして。
 まあ原価率設定を高くするっていうより、プロパー売価を安く設定するっていう方が多いですかね?でもそもそもの原価率設定が高めなので、いわゆる商品クオリティに対して原価率を抑えようっていう発想は他部門より弱かった気がします。原価率はもっと努力で下げられているはずだよなって商品も多くありましたし。

 これが最終処分する時の足枷になりまして。すごく雑な言い方をすれば、原価+物流費用+販売にかかる費用ってのが値下げできるギリギリのラインなんです。社内で「等価交換」って言ってた金額にしても、まあ売価(納品価格)=原価までです。要するに原価が高ければ高いほど割引販売しにくいんですよ。まあB/Sにダメージが行ってもいいならそれもありなんですけど、そんな余裕はありませんでしたから。

 ちょっと具体例を出します。10000円の商品を50%オフで売ろうと思えば、売価が5000円になります。
 バーゲン商品の掛け率を70%とした場合、納品価格は3500円となりますね。
 ここで元々の原価率が2500円(25%)だったら、粗利が出ることになりますが、元々の原価率が3500円(35%)だったら、粗利ゼロです。つまり原価率が35%を越える商品は店頭で50%オフにしたら粗利ベースで赤字なんですよ。

 この赤字の責任は本来ならバーゲンで販売する側じゃなく、在庫として残した側が負担すべきなんですよね。じゃないと粗利ベースで赤字になる商品なんか誰も売ろうとしませんし、そもそも売れという指示が出せません。

 ですので、とりあえずは「作るな、残すな」と言うしかなくて、展示会段階からシーズン末期までの納品率とかを計算して提示してみたりとかいろいろやりながら「いやGMS部門実質赤字だから」ってのを説明していたりしていましたが、他部門はともかく肝心のGMS部門が理解を拒む的な、いわゆる「認知的不協和」な感じでした。

 いろいろな取引形態はありますが、一番リスクが高くリターンが低いのがGMSとの「買取」取引だと個人的には思っています。消化仕入だったら在庫状態が見えますし、販売するための努力とかもできますけど、GMSの「買取」ってのは完全に相手任せな上に在庫リスクだけ持たされるっていう、なかなか不条理な取引形態だと思ってたりします。

 GMSと「買取」条件で取引している場合は「納品率」というか「残品率」を計算して、その上で残品の実質的な評価損を考慮して取引条件やらなんやらを考える事をお勧めします。「GMSとの取引が増えているのになぜか儲からない」とかってのは、まあこのあたりのからくりを丁寧に紐解けば理屈はわかるはずです。理屈がわかれば対策も取れます。端的に言えば納品率が一定未満の得意先の言いなりにはならないってだけでも全然違いますから。当たり前ですが100%引き取ってくれるなら言いなりでも構わないんでしょうけど。でも個人的には言いなりになった事ないなー。そういう良い得意先には儲けてもらいたいから提案しまくってましたっけ。苦笑。

 私が営業の時に似たような取引形態に当たったら、毎月のように電話なりなんなりして「いつ納品してくれるの?無理やったら他に回すから早く決断して」ってのを相手が嫌がるまでやってましたっけ。若かったなー。まあ本来百貨店ブランドなのをGMSで取引したいって話でしたから上から出れたってのもありましたし、まあシェア的にも無視できるってのが大きかったのもありますから当たり前の事でしかありませんが。

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