アルファ・オールタイム・ベスト #8 ―わたしのこの1曲―

都鳥流星+

都鳥流星(編集者)

1975年東京生まれ。1996年より出版の世界に入り、サブカルチャー系書籍の編集を多く手がける。2013年に海外へ移住、帰国後は某企業の社員としてWeb編集業務に携わる。今まで企画・編集した書籍は画集、写真集、ムック本など多数。2021年より都鳥流星のペンネームで、SSW・作曲家の滝沢洋一に関する過去音源・未発表音源のアーカイブ、全音楽活動の記録・取材等をおこなっている。

都鳥流星によるアルファ・オールタイム・ベスト
( )内は発売・公開年/月

シンガーソングライター・作曲家としてアルファと契約し、70年代後半から80年代にかけてシティ・ポップの名曲を数多く遺した「滝沢洋一」作曲のアルファ関連作品のみで〈オールタイム・ベスト〉をセレクト。名曲が多く15曲に絞るのに大変苦労しました。

01.メモランダム/ハイ・ファイ・セット
作詞:なかにし礼 作曲:滝沢洋一(1977年7月)

02.レオニズの彼方に/滝沢洋一
作詞:滝沢洋一 作曲:滝沢洋一(1978年10月)

03.白い時の流れに/滝沢洋一
作詞:滝沢洋一 作曲:滝沢洋一(1978年10月)

04.潮風のララバイ/滝沢洋一
作詞:竜真知子 作曲:滝沢洋一(1978年10月)

05.陽よりまぶしく 風よりはげしく/とし太郎&リバーサイド
作詞:阿久悠 作曲:滝沢洋一(1979年)

06.モン・シェリー/サーカス
作詞:竜真知子 作曲:滝沢洋一(1979年10月)

07.マイアミ・ドリーミング/サーカス
作詞:山川啓介 作曲:滝沢洋一(1980年4月)

08.鏡の街/サーカス
作詞:山川啓介 作曲:滝沢洋一(1980年4月)

09.ワンダフル・ミュージック/サーカス
作詞:竜真知子 作曲:滝沢洋一(1980年4月)

10.ヒア! ジャマイカ/クレスト・フォー・シンガーズ
作詞:山上路夫 作曲:滝沢洋一(1980年)

11.水平線まで/滝沢洋一
作詞:鈴木博文 作曲:滝沢洋一(1980年8月)

12.シティーバード/滝沢洋一
作詞:滝沢洋一・山川啓介 作曲:滝沢洋一(1982年6月)

13.メモリアル・レイン/山本達彦
作詞:伊達歩(伊集院静)  作曲:滝沢洋一(1980年1月)

14.SEXY CLAWS/清野由美
作詞:伊達歩(伊集院静) 作曲:滝沢洋一(1981年3月)

15.CALEDONIA LOVE DAY/清野由美
作詞:伊達歩(伊集院静) 作曲:滝沢洋一(1981年12月)


●メモランダム/ハイ・ファイ・セット
生まれて初めて出会った滝沢作品。1982年に母親が買ってきたハイファイのベスト版カセットに収録されたこの曲を毎日のように聴いて育ったことが、のちの私の人生を大きく変えました。「この曲には当初、別の歌詞がついていた」と、アルファの元プロデューサー・有賀恒夫さんからお聞きしたことで、滝沢の未発表曲探しの長い長い旅路が始まったのです。

●レオニズの彼方に/滝沢洋一
現時点でのアルバム唯一作『レオニズの彼方に』(1978)タイトルナンバー。元々は「南の空へ夜の旅」という題名で、彼のバックバンド「マジカル・シティー」(青山純、伊藤広規、新川博、牧野元昭)とともにライブやデモテープ用に演奏されていた曲でした。先日この曲が民放ラジオで朝一番にかかり、その日は一日中ハイテンションに。

●白い時の流れに/滝沢洋一
唯一作『レオニズ〜』に収録された一曲ですが、実はマジカル・シティーの演奏で新川博のピアノによるヴァージョンも存在するため、1975年前後に書かれた曲であることが分かっています。フォーキーでメロウなメロディも魅力的だが、滝沢が自ら書いた詞がまた美しい「隠れた名曲」。

●潮風のララバイ/滝沢洋一
もともと「浜辺にて」というタイトルで、マジカル・シティーとデモテープが録音されていた曲。『レオニズ〜』の録音にあたり、滝沢の書いた詞の一部を生かした竜真知子Ver.に差し替えられました。滝沢洋一は、大体のイメージと詞を伝えて、その後にプロの作詞家が改変・補作するということが多かったと聞いていましたが、この曲はその手法による好例。

●陽よりまぶしく 風よりはげしく/とし太郎&リバーサイド
日本で開催の「1979 FIFAワールドユース選手権」に合わせて東映動画が制作した、テレビアニメ『あしたの勇者(イレブン)たち』(1979年7月1日、日本テレビ「日曜スペシャル」枠で放送)のオープニングテーマにして、とし太郎&リバーサイドのデビューシングル(作詞は阿久悠、アレンジは深町純)。とし太郎の書いてきた楽曲は採用されず、滝沢の楽曲が使われた
「競作」でしたが、としVer.の方はB面収録の「涙からのテーマ」で採用されました(そのため同じ歌詞で歌えます)。雄々しい阿久悠の歌詞が胸の鼓動を熱くするスポ根青春歌謡。

●モン・シェリー/サーカス
当時、サーカスのベスト盤『サーカス・ブティック』(1979年)のみに収録された前田憲男アレンジの知られざる佳曲。これを採用した有賀さんは、自身が担当したアーティストのベスト盤に「ベスト盤のみ収録のオリジナル曲」を入れる傾向があり、この曲も長年オリジナルのCDかレコードを持っていなければ聴くことができない隠れた名曲でしたが、つい最近サブスク解禁となって日の目を見ることになりました。改めて滝沢のソングライターとしての才能に脱帽。

●マイアミ・ドリーミング/サーカス
当時の“有賀基準”は「曲先(曲だけを先に聴いて採用し、後から作詞を依頼する)」が定番だったらしく、これも曲先ですが、作詞家の山川啓介が「男性向け」の詞を書いてきたことで、自ら歌ってみたくなった滝沢が、サーカス版の4ヶ月後に同曲のセルフカバー版をRCAからシングルリリースしています。ママス&パパスやイーグルスの名曲を思わせる米国への憧憬あふれる意欲作。

●鏡の街/サーカス
ドリフ『8時だョ!全員集合』の名物コーナー「少年少女合唱隊」のバックに使われたウィルソン・ピケット「ドント・ノック・マイ・ラブ」のリズムを思わせるファンキーな一曲。間奏でアレンジ担当のマイク・マイニエリが自ら演奏するヴィブラフォンの調べが、曲の持つ“マジカル”な世界観をより際立たせています。

●ワンダフル・ミュージック/サーカス
最初は「なんという大胆な、なんという作曲家泣かせなタイトルなんだ!」と思いましたが、「曲先」で採用されたとのことで、作詞を担当した竜真知子が曲を聴いた「率直な感想」だったのかもしれません。たしかに美しい旋律と爽快なハンドクラップは40年以上を経た今聴いても「ワンダフル」。

●ヒア! ジャマイカ/クレスト・フォー・シンガーズ
滝沢の未発表曲アーカイブ作業中に、この曲のデモ音源が発見されて「曲先」であったことを知りました。曲を聴きながら作詞したであろう山上路夫の頭の中に、遠い「ジャマイカ」の風景が浮かんできたのも納得の異国情緒テイスト。

●水平線まで/滝沢洋一
1980年にRCAより発売されたセカンド・シングル『マイアミ・ドリーミング』(サーカスへの提供曲のセルフカバー)のB面に収録されたバラード。作詞はムーンライダーズのベーシストで音楽家の鈴木博文ですが、これも「曲先」だったことが判明しています。滝沢には「転調からの元キー戻し」という“お家芸”があり、この曲の後半はその最たるもの。

●シティーバード/滝沢洋一
ビートたけしへ提供された「CITY BIRD」の作曲家本人オリジナル版。発売日わずか4日違いで“セルフカバー”となった哀しきブルース・ナンバーの一人称は、たけし版の「オレ」と異なり「僕」となっているがゆえに、滝沢自身のその後の人生を歌っているようで何度聴いても目頭が熱くなります。

●メモリアル・レイン/山本達彦
●SEXY CLAWS/清野由美
●CALEDONIA LOVE DAY/清野由美
以上の3曲ともに作家で元電通マンの伊達歩こと伊集院静の作詞。中でも近年シティ・ポップの文脈で再評価されている清野由美の2曲がオススメです。「SEXY CLAWS」は、同じ81年に寺尾聰『Reflections』と大滝詠一『A LONG VACATION』でシティ・ポップをお茶の間にまで幅広く浸透させた井上鑑によるアレンジ。「CALEDONIA LOVE DAY」は、滝沢が最も影響を受けた同い年のアーティストであるスティーヴィー・ワンダーの名曲「You Are the Sunshine of My Life」(1972年)をリスペクトしたコード進行で、両曲を聴き比べてみるのも一興です。

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今回の選曲のうち、サブスク解禁となっている曲は、以下のSpotifyプレイリストで聴くことができます。

● Japan CityPop 滝沢洋一作品集 Yoichi Takizawa works 1977-
https://open.spotify.com/playlist/0TjePNCYRPL3OkW6iHiYsc

また、サブスク未解禁の楽曲も含めた代表的な滝沢ワークスは以下のYouTubeプレイリストでも聴くことが可能です。

● 滝沢洋一 作品集 Yoichi Takizawa song book
https://youtube.com/playlist?list=PLIx0YC60nbsX4HxeKou4T74QSQkp357zO