第百八十九回 Gt 虎|MOVIE TORAVIA「アリス九號. MUSIC VIDEO」考察&分析 (裏話付き)

ちょっと前までツアー中だったんで、映画観る時間が無かったんですよ。なので今回は、映画に興味が無い人でも楽しめるかなと思って、自分達の歴代のミュージックビデオを分析していこうと思います。
俺がミュージックビデオ制作に対して色々意見を言い出したのは、「春夏秋冬」から。

自分は昔から「ミュージックビデオは重要だな」と思ってたんですよ。
なぜかというと、自分の思い出に残ってる音楽って、どちらかというとミュージックビデオがまず思い浮かんでくるんですね。
そもそも俺が音楽にハマり始めたきっかけが、MTVとかの音楽番組だったんですよ。
うちはその当時ケーブルテレビに入ってて。
自分は子供だから基本はアニメチャンネルとかを観てるんだけど、MTVは結構好きだったんですよね。
小学校高学年ぐらいからMTVをすごくよく観てて。
基本、海外のミュージックビデオをずっと流してるような番組なんだけど、その中で自分の好きなバンドを見つけて「これ、カッケーな」って。
映像から入ってそのバンドに興味を持つ、というのが多かったんですね。
そういう意味で、「ミュージックビデオは大事だな」という意識がすごいあったんですよ。
その流れで、自分達のバンドでミュージックビデオを作るようになった時に、意見を言い出したんですよね。
「春夏秋冬」を作る時は、まずストーリー的な感じのシチュエーションを考えて、長々とした文章で物語を書いたんですよ。
それと一緒に、「こういうミュージックビデオにしたい」というのを提出して。
それを監督が噛み砕いて撮ってくれたのが「春夏秋冬」のあのビデオなんです。
あのビデオがドラマ風になってるのは俺のアイデアなんですよ。
まず、メンバーを「同じ学校にいる5人」という設定にして。
「その5人が文化祭で盛り上がる」という流れを決めて、「その中にこういうシーンがあったらいいよね」というところで色々書いていった感じです。
「春夏秋冬」を出す頃って、学園ドラマがすごい流行ってたんですよ。
「花盛りの君たちへ 〜イケメン♂パラダイス〜」だの「ごくせん」だのがテレビで盛り上がっていた時期だったと思うんです。

「花盛りの君たちへ 〜イケメン♂パラダイス〜」(2008)
「ごくせん」(2002)

それもあって、「制服モノやりたいな」と思って考えたんです。
「今こういうミュージックビデオ出したら正直売れるんじゃない?」と思ってたから。
だから、あざといといえばあざとい考えなんですけど。
そうやって作ったのがあのビデオだったんですよ。
メンバーはそこまで本気でやる気は無かったと思うんですよ。
制服着るのは別にいいけど、多分演技とかはしたくなかったと思うんですね。
だけど実際にセリフを言う訳ではないので、いい感じにストーリーを映像としてまとめられたらいけるんじゃないかなと俺は思ったんです。
それまでのヴィジュアル系でこういうことをやってる人達もあまりいなかったので。
でもでき上がってみたら、良くも悪くも、って仕上がりになっちゃいましたね(微笑)。
最終的には、このビデオのパンチがありすぎて、20年このバンドをやってても「あ、あれでしょ?「春夏秋冬」知ってるよ!」で止まってる人達がたくさんいて。
結局は、あれを超越するようなビデオを作ってないってことなんですよね。
曲とか映像のクオリティーという部分では遥かに超えてる作品はもちろんあるんですよ、当たり前ですけど。
だけど、「世の中に向けて誰もやってないことをやる」という意味では、あれを超えた作品は無いってことなのかなと思っちゃいましたね。
だから、当たったっちゃあ当たったんですよ。あのミュージックビデオ自体は。
なので、自分の「ミュージックビデオは重要」という考えはあながち間違いではなかったということですよね。
考えてみてください。「春夏秋冬」なんて、音楽だけで聴いたら普通の曲なんですから。
メロコアみたいな曲で、演奏もめちゃくちゃ簡単なんです。
だけど、あの曲に「青春っぽさ」を感じてしまうというのは、みんながこれを聴いてた頃の若い時の自分と、この曲のミュージックビデオのメンバーの制服姿がリンクしてるからだと思うんですよね。
そういうものがどんどん刷り込まれていって、この曲がみんなの中で大事な曲になったんだと僕は分析してるんですけど。
だから「春夏秋冬」のミュージックビデオは、あれはあれでよかったんだと思います。
あれが無かったら、バンドの出だしはもっとパンチが無いものになってしまってたのかなという気がするので。

次に自分が意見を出したのが「NUMBER SIX.」。
自分は「春夏秋冬」の延長線上のような感じで、セリフが無いものにしたかったんですよ。
でも「春夏秋冬」で調子に乗っちゃったのか、レコード会社が「セリフ入りにしよう」と激押ししてきて。
監督も「それでいこう」と言ってきたんですよ。
「いやいや、できないですよ。うちは誰も演技はやってないから」って言ったんですけど、結局そのまま作られちゃって、結果スベる、みたいな(苦笑)。
俺は「春夏秋冬」みたいな学園ドラマのミュージックビデオで、セリフを入れるにしても頭とケツにちょこっとあるぐらいのイメージだったんですよ。
それが、あんなに演技やセリフを入れられちゃって、そこがよくなかったですね。素人がやっちゃいけないなって思いました。できる訳がないんですよ。
ダンスをやった時みたいに1か月丸々練習したとかでもないですし。
ミュージックビデオ撮影の数日前に「セリフ憶えてきてね」ってシナリオを渡されて。
そんなの素人ができる訳がないんですよ。
何もできないヤツにギターをポンと渡して、その翌日に「はい、じゃあ本番のレコーディングですよ」と言って、いいものができる訳がない。それと同じです。
演劇をやってないヤツらにセリフ付きで演技をやらせてるっていう時点で、映画好きの俺としては完全に演技をナメてる作品になっちゃったなと思っちゃいました。
まあでも、ファンの中には「あのミュージックビデオがよかった」という人もいるんで、あんまり強くは言えないですけど。
でも俺はこの作品で「映像に口出しするの、もういいや」って、やる気がちょっと無くなっちゃったんですよね。
事務所とかレコード会社がいると、色々言って来る人が多くて。
「勝手に俺の意見を改変すんじゃねぇよ」と思っちゃったんですよ。
「自分の意見がそのまま通らないんだったらもう俺はなんも言わんわ」みたいな感じになっちゃったんですよ。
「勝手にやってくれよ」って思っちゃって、それ以降しばらくはミュージックビデオに対して口を出さなくなっていったんです。
あと、ミュージックビデオの制作会社のことも色々分かってきちゃったというのもあります。
撮影前に「こういうのを撮ります」っていう絵コンテを送ってきてくれるんですけど、結局その通りにはならなくて。
こっちとしては「なんのこっちゃ」って感じで。
ミュージックビデオって「なんだこれ」って仕上がりになることが多いのも分かっちゃったんですよね。
どうしても仕上がりに納得がいかなくて、監督のところにまでああだこうだ言いに行ったこともありましたから。
メンバー全員で行って、その場で直してもらったこともありました。
そこまで俺らがこだわったのは、うちはアー写を始め、すべての写真を加工してるバンドなので、ミュージックビデオの映像と写真を見比べた時に、イメージがだいぶ違う、というのが一番ひっかかったところだったんですよ。
ミュージックビデオの監督って基本的に画角しか見てないから、映像をチェックしてると「これ、メンバーの映りがよくないなぁ」と思うのもたくさんあったんですね。
だから俺が今映像監督をやるようになって。
俺はヴィジュアル系でもアイドルグループでも、まずその子のSNSとかを見るんですよ。
そこには、その子が見せたい自分が絶対に載ってるんですね。
そういうのを見て、その子がどういう風に撮られたいのか、どういう風に見せたいのかをまずチェックして。
撮影する時は、なるべくそこに近づけてあげるんですよ。
ミュージックビデオのような映像作品はそっちに寄せてあげないとダメなんじゃないかと俺は思いますね。
自分達もそうですけど、ヴィジュアル系でもアイドルでもYouTuberでも、自分になんらかのコンプレックスを抱いてやってる子が多いので。
なるべくそのコンプレックスを消してあげる。
そうしてこそ、その子のプロモーション映像になると思うんで。
だけど、映像だけを勉強した人って、そんなこと気づかないんですよ。
ただ「こういう画角」「こういうライティングがカッコいいから」とか、「こういう映像が流行ってるから」とかで撮っていく。
でも、人やグループをプロモーションする映像はそれだけではダメで。
そこが分かってない監督が多いかなっていう気がすごいしました。
まあ、顔とか関係無いバンドとかであれば全然いいと思うんですけど。
もちろんね、監督の中には映像だけですごいものを撮ってくれた人もいて。
「GEMINI -0-eternal 」とか、自分が撮る立場になっても、すごいミュージックビデオだなと思いますよね。

「GEMINI -0-eternal」(2011)

この監督さんは照明の入れ方とかレンズの使い方が本当に巧いんですよ。
「どうやって撮ってるんだろう」って思うぐらい巧いと思います。
才能がある方だったんですよね。
時代的にDVD画質の時代だったので、この作品を低画質の映像でしか持ってないのが本当に残念です。
この監督さんは、撮影して編集まで終わって作品の完成形が見えるタイプではなくて、撮り画一発なんですよ。
撮ったものに変にエフェクトをかけるのではなく、撮った時点でいいものができてる。
あれが映像作品として一番素晴らしいものなんだと思いましたね。
ああいうスタイルはいいなと憧れます。
エフェクトをかけるというのは、撮り画だけでは何かが足りない、何かを追加したらもっとよくなる、と思っちゃうからで。
みんなエフェクト処理をしがちなんですけど。この監督はそれが無いんですよね。
そこがマジですげーなと思います。
だから「GEMINI -0-eternal」もあんまり小賢しいことはやってないんですよね。
自分が撮るカメラに相当の自信が無いとこんなことはできない。
「ブループラネット」も同じ監督さんで、エフェクトとかそんなに使ってないんですよ。
これも小賢しいことはやってなくて、巧いなぁと思いますね。
「閃光」とかは、監督の制作スタイルがこれとは真逆で。

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限りなく2次元に近い2.5Dロックバンド、アリス九號.のオフィシャルnoteです。 毎週メンバーがリレー形式でオフィシャルnoteだけの…

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