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生まれてすぐの保湿剤はアトピー発症の予防になるのか?

いつき博士です。
アレルギー患者教育向けサイトを運営しております。

最近、参加した学会で
面白そうなトピックがあったので
勉強しました。

アレルギーの分野で
著名な堀向先生の文献ですね。
これは大変興味深い。

文献の内容を簡単に解説していきますね。

1.試験デザイン

本試験では生まれてすぐに
保湿剤を使用した場合
保湿剤を使用しなかった場合
アトピー/湿疹の発症に差が出るのか?
を調査しています。

試験期間は32週間で
1か月、3か月、6か月、8か月時点で
症状を見ていきます。
(※前向き無作為化比較試験)

盲検化無作為化対照並行群間試験

主要評価項目は
アトピー/湿疹の累積発症率です。

副次評価項目として
IgEの血清レベル水分保持能力
黄色ブドウ球菌による皮膚コロニー形成
を見ています。

ご家族にアトピー素因がある
生まれたばかりの子供118例を対象に
保湿した群が59例、保湿しない群が59例で比較しています。

湿疹が出た場合
ワセリンは使って良いですよ
というルールです。

本試験の難しいところは
生まれてすぐの子供に対して
主観的な評価が難しい中、アトピーをどう診断するのか?

です。

本試験では
典型的な場所にかゆみを伴う湿疹が4週間以上続くこと
同じ湿疹が2週間以上続くこと
の2つを診断の指標にしました。

万が一、皮膚トラブルがあった場合には
当院の外来を受診する指導をします。

2.そもそもどんな保湿剤があるのか?

本文献を読み解く前に
保湿剤の定義について説明します。

保湿剤には
肌に水分を与える保湿剤と
肌の水分が蒸発しないようにする保護剤
の2パターンがあります。(instagram参照)

具体的には、前者は
ヒルドイド(ヘパリン類似含有製剤)
尿素製剤(ケラチナミン/パスタロン/ウレパール)
は保湿を目的とした薬になります。

一方で、水分の蒸発を防いだり
保護を目的とした薬としては
白色ワセリン、亜鉛華軟膏、プロペトなどがあります。

本文献では前者の
肌に水分を与える保湿剤
で検証しております。

3.試験結果

主要評価項目については
Kaplan Meiter法を用いて評価しました。

保湿剤を塗った群の方が
アトピー/湿疹発症率が低かった
と報告されています。

内訳としては
保湿剤を塗った群では
アトピーや湿疹が59人中19人が発症したのに対し
保湿剤を塗らなかった群では
アトピーや湿疹が59人中28人に発症しました。

副次評価項目として
血清IgEに関しては有意な差はでませんでした。

水分保持能力に関しては
12週目と24週目の下腿の角質層の水分量が
保湿剤を使用していない群に比べて
有意に高かったと報告されております。

黄色ブドウ球菌に関する項目でも
有意差は出ませんでした。

4.考察

本試験は
保湿剤を使用し、バリア機能を強くすることで
アトピー/湿疹の発症を抑えることができますよ
という一つの根拠となる文献ですね。

この文献で間違った解釈となるのが
発症を予防するだけであって
 アトピーが完治するわけではない

ということです。

保湿を継続して
アトピーと上手に付き合っていくことが
大事ですね。

本文献では
離脱したアトピー患者さんについても
丁寧に解析している良い文献でした。

これから乾燥するシーズンになりますので
しっかり保湿していきましょう!