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GOOD NEIGHBORS JAMBOREEと結い市/結いのおと 10年間のプレイリスト 前編

「フェス」という言葉自体が社会的な認知を獲得し、今も市場を拡大している一方で、 「フェスは飽和しているのでは?」との声も多く聞かれるようになりました。
そんな中、毎年その価値を問い直し新たな挑戦を続ける、2つのフェスがあります。

鹿児島の山間にある廃校で開催されている<GOOD NEIGHBORS JAMBOREE>と、茨城県結城市の酒蔵や古民家が舞台の<結い市/結いのおと>。
どちらも今年で10年目の開催となる節目を記念して、主催者のお2人に、それぞれを振り返った10曲のプレイリストを作成いただき、それを聴きながらトークショーを行いました。
モチベーションの源ともなるお2人の音楽体験やアーティストブッキングについてお話を伺いながら、これまで/これからの『フェス』を考えるお2人の思いを、前後編に分けてお伝えします。(後編はこちら)

坂口修一郎
(GOOD NEIGHBORS JAMBOREE/BAGN Inc)
Double Famous/Landscape Products/BAGN。プロデューサー/ミュージシャン。鹿児島出身。野外イベントGOOD NEIGHBORS JAMBOREEを主宰。

野口 純一
(結いのおと主催/日本ミュージックフェスティバル協会理事)
2007年アパレル企業を退職し結城商工会議所へ入所、2009年経営指導員。2010年に結いプロジェクトを飯野氏と立ち上げ「結い市」や「結いのおと」などを展開。2017年にCoworking&Cafe「yuinowa」を設立し、運営。現在、小規模事業者の経営全般や創業などのサポート業務を行う。その他に商業者外郭団体(結城市商地連)や 3 セク(TMO 結城)の事務局などを担当。

※このトークショーは、BUKATSUDO文化祭2019にて行われた『地方フェス/祭の10年後にある場づくりまちづくり』のアフタートークとして、レコード部が企画したものです。

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皆さんよろしくお願いします。まずは会場にいる一般の方にブッキングという言葉はなじみがないかもしれないので、ブッキングとそのプロセスなどについて簡単にお話しいただけたらと思います。まずアーティストに出演の交渉をすることがブッキングですかね。

野口:はい、そうです。

お2人のフェスでは、何ヶ月前からアーティストのブッキングを始められるんですか。

坂口:(野口さんは)何ヶ月くらい前からやるんですか?

野口:<結い市/結いのおと>に関してはだいたい半年前からいっているかな。最近はやっぱりフェスがすごく多くなってきて、日にちがいいところはだいたい押さえが入ってくるので、なるべく早めにこっちも先手を打ちたいというところがあって。

坂口:半年前か〜。<GOOD NEIGHBORS JAMBOREE>は、年にほぼ1組しか呼ばないんですよ。
残りはだいたい地元にいる人たちが出演するので、ブッキングというと2年くらいかけて。

野口:おお、そうなんですね。

坂口:1組なので狙い澄まして。だからUAにも「今年来てよ」と言ったら、「いや、今年は子供が生まれるから駄目やねん」と言われて、「あっ、そう」と(笑)。「じゃあ、来年は?」と聞くと「どうかなあ、来年は1歳だしなあ」と言われて、「じゃあ、再来年ね」みたいな。なんかそんな感じです。

野口:一発がでかいですからね、早めに。

坂口:そうなんです。僕らはたくさんの人を呼ぶというスタイルじゃないので、逆に時間をかけてやっているという感じですね。

なるほど、ありがとうございます。時間がかかるというのは意外でした。やっぱりそれだけの期間があって、あれだけのラインナップが揃うんですね。

野口:ここは(<GOOD NEIGHBORS JAMBOREE>と)一緒だと思うんですけど、やっぱり熱量というか、そういったものを伝えないと。財政的にもあまり大きなギャラを積んで引っ張るというようなイベントじゃないので。そうすると「出たい」と思ってもらえるようにするには、趣旨だとか、若干エモーショナルな部分を伝えるプレゼンの時間が必要になってくるんです。あとはツテで紹介してもらったりとか、当然そういったコネクションも必要になると、パッとすぐにはいかないかなあという感じですね。

なるほど、ありがとうございます。
では、早速お2人に選んでいただいたプレイリストを順番に聴いていきたいと思います。まず1曲目、坂口さんの<GOOD NEIGHBORS JAMBOREE>は、2010年の第1回目からですね。

坂口:はい、第1回に出てもらった……出てもらったというか、自分のバンドなんですよ(笑)。第1回なので人が何人来るかも分からないし、「みんなの足代と飯は出すから」というノリで。

野口:大事ですね(笑)。

坂口:そうそう。
それぐらいの勢いで第1回に出たのがDouble Famous。

野口:初回ってやっぱりどうしても持ち出しで、赤字覚悟でやらないと。いきなり黒字を出すのは相当至難の業かなあと。

坂口:僕らもいろんなイベントに関わっていますけど、まず初回というのはお金の使い方が分からないじゃないですか。その会場でどれくらいお金が掛かるかとかが見えないから、やっぱり赤字になりがちですよね。

野口:そうですよね。

坂口:それはしょうがないです。だから3年くらいかけて回収するような感じで考えないと。

野口:そうですね。まあ、(1回目の)チケットは売れなかったですね、本当に(笑)。

坂口:そうなんです。

では早速、曲を聴いていきたいと思います。

坂口:Double Famousのアルバム『DOUBLE FAMOUS』に入っている『DF』という曲です。

♪Double Famous/『DF』(DOUBLE FAMOUS)

坂口:これはDouble Famousなので『DF』という曲なんですけど。『DOUBLE FAMOUS』というアルバムに入れるテーマ曲を作ろうということで、「DF、DF」と言っていたので、じゃあDとFの2コードだけで曲を作ろうといってできた曲なんです。ただそれだけなんですけど(笑)。自分たちではそれを全然説明してないので、何なのか分からない人たちばかりだと思うんですけど、まあそういう曲でした。

ありがとうございます。では続いて、<結いのおと>からはbonobosの『THANK YOU FOR THE MUSIC』を聴いていきたいと思います。

♪bonobos/『THANK YOU FOR THE MUSIC』(electlyric)

野口:皆さんご存じのbonobos。これは、バンド形式でがっつりと呼ぶ(アーティストとして)最初のハードルになったところという思い入れがあって。それまで<結のおと>が呼んでいたのはどちらかというと自分たちの身内で、インディーズ寄りの呼びやすいアーティストの方が多かったんですが、そこからの変革がこのbonobosなんですよね。

坂口:何年ぐらい前に来たんですか。

野口:えーっと、 3年前ですね。割と最近といったら最近なんですけど。bonobosが来てくれるということで、うちらからしてみるとロッキン(<ROCK IN JAPAN FESTIVAL>)なんかにも出たりしているアーティストさんが、いよいよ結城に来てくれるというところもあって、すごく勢いづいたんです。本当にこの楽曲は音楽という部分での良さもあるし、この『THANK YOU FOR THE MUSIC』というタイトルのように、僕たちのイベントは音楽を使って街の潜在的な魅力をPRしているので、10年のプレイリストをタイトルも含めて考えたときに、割とパッと挙がったのがこのタイトルでした。

ありがとうございました。やっぱり一つ一つのブッキングに、思い入れがたくさんありますよね。

野口:ありますね。俺は10曲選ぶのがすごく大変でした。

鈴木(結いプロジェクト/レコード部):基本、<結いのおと>の初期の頃は知名度が全くないので、オファーはアーティストのコンタクトからメールで全部送っているんですよ。それに野口さんがアツい文章を書いて、反応があるところを説得して、みたいな。「どこ?結城ってどこ?」みたいなね。

野口:ほとんど返事が来ないので、相当ラブレターを送って返ってくるのを待つ。好きな人からメールが来るのと一緒で、何か(メールが)来るとちょっと「おっ!」と思うけど、見たら全然違ったりして(笑)。でもそのときに、「趣旨にすごく感動したので出ます」と言われたときは、やっぱりすごくうれしいですよね。それぐらい最初はがむしゃらにとにかくオファーして、自分たちが思っているアーティストさんに来てもらいたいという一心でやりましたよ。

なるほど。後でその殺し文句というか(笑)、野口さんの名言集もぜひ伺いたいなと思います。

野口:そうですね(笑)。

では続いて、レコード部からも質問を用意しているので、いくつか聞かせていただきたいと思います。フェスをやっていく中で、フェス全体のバランスみたいなものはどういうふうに決めているのかなあと思ったんですが、簡単に伺ってもいいでしょうか。

坂口:ブッキングのバランスということですか?僕らはさっきも言ったとおり、1組しか呼ばないことを基本にしているんですね。2組が来るときもあるんですけど。その理由というのは、僕がフェスティバルに出演する側だったときに、<FUJI ROCK(FESTIVAL)>にしても<RISING SUN(ROCK FESTIVAL)>にしても、どうしても日本全国のいろんなフェスに出ると、行って、やって、帰るということが多いんですよ。フェスツアーみたいなのを10年くらい前に1回やったことがあって、1年で十何本ものフェスに出演すると、「あのステージってどこだったっけ?」と分からなくなることもあるんですよね。

野口:印象が薄くなると。

坂口:そうそう、印象が薄くなっちゃう。今、フェスがこれだけあると、フェスに積極的に出るバンドならどこでも平気で5個、6個は出ると思うので。それはそれで全然いいことなんだけれど、僕らはできれば(<GOOD NEIGHBORS JAMBOREE>に)来たら前夜祭から参加して、本番をやって、翌日は鹿児島のあちこちを周ってほしいので、拘束時間が長いんですよ。という思いもあるので1組だけにしています。それ以外は、地元の<しょうぶ学園>という知的障害のある人たちのバンドだったりとかもすごく素晴らしくて、来るゲストにもそれを知ってほしいというバランスでやっているので1組なんですよね。

野口:じゃあ、メジャーな方は1組で、そこに地域の音楽をやっている方たちが入ってくるというような。

坂口:そうです。そんな感じにしているんですよね。まあ、予算的なものもあるんですけど。ただ、その分、1組に(予算を)掛けられるので、オーケストラみたいなものも呼ぶことができるという感じですね。

野口:ちなみに結城のほうは、やっぱりバランスというのは会場に合わせているんですよね。近くに住宅があったり、編成を組みやすい会場だったり。例えば<結城酒造>という酒蔵があって、そこは本当に蔵の中で、ちょっと暗がりの中で、ライブハウスだったりクラブっぽい雰囲気でできるから、ヒップホップのちょっとトガったアーティストを呼んだり、結構大きい音を出せるようなバンドを呼んだり。
同じ酒蔵でも外を会場にしている<武勇>さんなんかには、アコースティックのアーティストさんを呼んだりとか。当然、全体のラインナップは自分の好きなアーティストさんを呼ぶんですけど、その中からすぐに会場の割り振りをします。酒蔵、紬問屋、あとはお寺の本堂でもやるので、この人はこういう場所を使うという前提である程度のバランスを考えていきますね。会場の内容で決めていく部分と、自分の好きなところをうまく当てはめていくというのとどっちもありますね。とにかくキャパが小さいので、紬問屋でやるならこういうふうにとか、キャパも含めて2日間をうまく当てはめていくんです。

鈴木:ライブハウスがないというのが前提ですよね。どこでやれるだろうといって交渉したら、ここを使わせてもらえる、ここを使わせてもらえるとなって、そこの雰囲気に合わせていくというのが野口さんの仕事だね。

野口:そうですね。

鈴木:アーティストさんから「ここでやりたい」という希望も出てくるので、場所をマッチングすることはすごく重要になってきます。

野口:坂口さんの話を聞いて共感できたのは、うちらも地域の柄をすごく感じてもらいたいし、やっぱり来てもらったからには印象に残したいというのもあるから、アーティストさんに一番合った場所を考えたりとか。あとは、ステージ衣装に結城紬を着てもらって地域を大事にしてもらうとか。前乗りをしてもらったら必ず俺と(鈴木)哲さんで街をアテンドします。

鈴木:スケジュールは難しいかもしれないけど、できる人には前日入りしてもらって、僕らが必ず街の人を紹介して、次の会場になるようなところの人と会わせて話してもらってからライブをやってもらうので、一つ一つ前日に話したことがMCとかに出るんですよ。そうすると場所を認識してもらえるので、そこはすごくいいなあと思います。

坂口:(街を)見ていないアーティストのMCって、絶対に分かるんですよ(笑)。

野口:結城市のことを「ゆい市(し)」って言ったり(笑)。地名すら全然覚えないという人もいますね。

坂口:瀬戸内の香川でやっているのに「岡山ー!」って叫んだアーティストがいて(笑)。「違う」ってみんなドン引きするんですよね。

野口:そうですよね。うちだと「栃木ー!」って言われちゃうようなもんですね。

坂口:それはある意味しょうがないといえばしょうがないのだけれども、僕らみたいな小さいフェスだと、できればそういった関係性をつくることが第一の目標なので。

野口:そうそう。だからうちらもそういう人を複数回呼ぶようになっていて。大きいアーティストだったらもう4回、5回くらいは連チャンで出てもらって。やっぱりそれだけ結城という場所のイメージ、<結い市/結いのおと>に対してすごく愛情を持って接してくれたアーティストさんたちは、パフォーマンスも上がるので。

坂口:いや、絶対にそうだと思います。

野口:だからまた次も呼びたい、向こうも呼んでほしいという関係性ができるので、そこは割と大事にしてやってますね。

ありがとうございます。では、2曲目を聴いていきたいと思います(笑)。

坂口:はい、まだ2曲目です(笑)。次はみんな大好きなEGO-WRAPPIN'なんですけど。

野口:おおーーー!呼びたーい!

坂口:2回目に来てもらったんですよね。僕らは拘束がすごく長いので、バンドの都合がつかないかもということになって、急遽このときだけは全員女子という別のバンドで来てくれたんですよ。

野口:ほー、それもレアですね。

坂口:レアなんですよ。森君だけが男であとは全員女子だけというバンドで来てくれて。「これ、いいからもっとやろう」と言ってたけど、結局そのときだけで終わってしまった。

野口:でもそれは特別感がありますね。

坂口:そうそう。

野口:揃わなくてもやっぱり出たいと言ってくれるのはすごく嬉しいですね。

坂口:そう、言ってくれたので。さっきの(野口さんの)ラブレターと一緒なんですけど、だいたいは僕が全員に会いにいって、「こういうことでやっているんです」「だから時間を取ってほしい」と口説くので。まず一番口説きやすかったのが、よっちゃん(中納良恵)だったというところがありますけど。

野口:ああ。よっちゃん、呼びたいですねえ。

♪EGO-WRAPPIN'/『くちばしにチェリー』(Night Food)

坂口:この年は盛り上がり過ぎてしまって、2回目にして初めて警察が来たという(笑)。

野口:うちは街中でやるので、結構来ます(笑)。

坂口:僕らの場合は周りに家がないので、騒音は問題ないんですよ。ただ、車がすごい渋滞になって。

野口:ああ、なるほど。

坂口:あのすごい過疎地域で史上初めて渋滞が起きて、通報がすごくいっちゃって。

野口:渋滞がないっていうのはね、そりゃあそうですよね。一大事ですよね。

坂口:そうなんです。まさにこれでボッカンボッカン盛り上がっているときに、僕は警察に呼ばれて「何事だ」という話になって(笑)。この曲を聴くとそれを思い出しますね。

野口:へーーー、すごいな。まあ、EGO-WRAPPIN’が来たら盛り上がりますよね。人が来ますよね(笑)。

では続いて、<結いのおと>からはU-zhaan、環ROY、鎮座DOPENESSで『サマージャム'95』。

♪U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS/『サマージャム'95』

野口:これは今年ですね。今回の<結いのおと>です。皆さん割と個人では関わりがあって、環君も鎮座さんもその前の年にも出てもらったし、鎮座さんとはラジオも一緒にやったりしたことがあったんです。U-zhaanさんは全然別で、ROVOの野音(<MDT FESTIVAL>)のときにご挨拶をさせてもらって、「<結いのおと>はこういうイベントです」と直接口説いて出てもらう形になったんです。この日は全員に紬を着てもらったんですよね。環君と鎮座さんは「着たい、着たい」と言ったんですけど、U-zhaanさんが渋って(笑)。たぶん、タブラが叩きづらかったんだと思います。でも、たすき掛けをしながらやってもらって。

坂口:そんなときのためのたすき掛けですよ(笑)。

野口:でもU-zhaanさんは前乗りしてくれて、どこかの出店者さんが『サマージャム』を流していたら、急遽「じゃあやろうかな」とセットリストの中に『サマージャム』を入れて演奏してくれたんです。
そんな流れでセレクトさせてもらったんですけど、U-zhaanさんたち3人は結城の最高峰の着物を割とラフに着ていたので、結城紬の大御所たちに叱られるというエピソードもありました(笑)。「何て着方をしているんだ」と。芝生に座っちゃったんですよね、浴衣みたいにあぐらをかいてこう……。結城紬はユネスコの無形文化遺産に登録されていて、1着200万円くらいするんですよ。自分もそこを最初にレクチャーしなかったのがよくなかったんですが(笑)。

坂口:なるほど。

野口:そんなハプニングもありながらやりましたね。

ありがとうございます。では続いてはレコード部からの質問なのですが「出演を断られたことはありますか?」……野口さん、ありますか?

野口:いやもう、めっちゃありますよ。あり過ぎて、どこを切り取って話したらいいかなというくらいなんですけど。当然うちらの場合はギャランティが安くて会場が多いので。1人当たりのギャランティは相場から若干低めになっちゃうので。うちらの趣旨には共感してもらっても、バンド編成だとそれなりに旅費も掛かるし、ちょっと見合わなくなると断られちゃう。今は「ヒップホップのアーティストさんが多いね」と言われるけれど、バンド編成だと大所帯になっちゃうので、その編成が少ない1MC、1DJくらいであればブッキングしやすいし、あと、今の世の中の流れ的にも集客しやすいという部分もあるんです。ちなみに質問としては、出演を断られてどういうふうに痛かったかというところなんですかね?

そうですね、そういった苦労話があれば聞きたいです。

野口:坂口さんはどうですか。断られたことはあるんですか?

坂口:断られても諦めないので。じゃあ来年とか、じゃあ再来年ねとか、2年くらい(待ちます)(笑)。

野口:そうですね。うちらも「前に断っちゃったから今回は」という人は当然いるので。

坂口:それはありますよ。今年も某ピアニストとかなり具体的なところまで話していたら、「ごめん」と。「村の祭りと日程がかぶって行けなくなった」と言うので(笑)。しょうがないから「来年は日程がかぶらなかったら来てよ」みたいな、そういうことはありますね。

野口:今、話しながら思い出したんですが、1回は断られたけどいろんな条件も含めて粘って、出演までいったという逆のパターンもあります。沖縄のアーティストの唾奇(つばき)に来てもらったときに、イベントの趣旨も含めてやりづらそうだなあというのがあったので、うちのほうもステージの方向性などをプレゼンしながら立て直しをすることで、「だったら行ってみよう」みたいな感じで出演にまでこぎつけたというパターンもありました。

お話ありがとうございます。やっぱりいろいろなご苦労が積み重なった上での、このプレイリストなんですね。

鈴木:そうですね。今、野口さんが言ってくれたように1回来てくれるとリピートしてくれるくらい、いいところがあると感じてもらってるんですよ。僕らも地元の方とアテンドするけど、その1回目を突破するのが難しくて。どういうイメージなのかが分からなくて。それもあって、ここ(会場ブース内)に来ているタカハシさんに初めてPVを作ってもらったんです。それを見せて交渉するようになってからはイメージがダイレクトに伝わるので、「いい」と思ってくれることが多くなってすごくやりやすかったですよね。

野口:言葉で伝えるよりも百聞は一見にしかずで見てもらってね。それが割とでかかったので、そういうツールはありがたいですよね。

なるほど、やっぱりフェスを始めようとしたらその辺のことをエンパワーするというか、推し進める力も必要になってくるんですね。ありがとうございます。
続いては坂口さんのプレイリストからTOKYO No.1 SOUL SETの「Wonderland」。

♪TOKYO No.1 SOUL SET/『Wonderland』(Grinding Sound)

坂口: SOUL SETには3回目に来てもらったんです。どの曲でもいいんだけど、あえてこの曲というのは、自分がトランペットで参加しているからです。今日選んでいるプレイリストの半分以上は、自分がトランペットを吹いている曲なんですよ。

野口:ああ、そうなんですか!

坂口:そうやって毎年というか……。「今年一緒にやったので次のJAMBOREEに来てよ」とか、そんな感じで来てもらっているんですよね。僕を含めた全てのコンテンツがそうなんですけど、みんなが1年間過ごす中で出会った人をその次のJAMBOREEに呼んでる。割とそういう感じなんですよね。

野口:そうか、ご自身で演奏されるから。

坂口:そうなんです、そうなんです。

野口:そこはやっぱり大きいですね。

坂口:「ずるい」って言われます(笑)。

野口:いや、ずるいっすね(笑)。でもね、そういう方がフェスをやるということで、こういう大御所のミュージシャンが来られるということが理解できました。

坂口:そう。(TOKYO No.1 SOUL SETのDJ)川辺ヒロシさんは鹿児島の出身でもあるので、DJとしては毎年来てくれています。やっぱり今、ここでしかできないことというのは、1年間で出会った人たちと、その1年の集大成で集まるみたいなところもあるので、それで来てもらってますね。 

続いて<結いのおと>からNujabes、Shing02。Shing02さんは<結いのおと>に来てくれたんですか?

♪Nujabes,Shing02/『Luv(sic) pt3』(Modal Soul)

野口:そうですね。Shing02さんには、Nujabesが亡くなって5周年のトリビュートツアーをやっているときに来てもらったんです。Shing02さんは非常にクレバーな方で。結城紬、結城のポテンシャルにすごく感銘を受けてくれて、当然、結城紬も着て出てくれたんですけど、MCでも素晴らしい解説をしてくださいました。彼は今年、日本語の曲を出したんですけど、その中でのリリックにも結城紬を入れてくれて、それぐらいすごくリスペクトしてくれたのでありがたいです。
<結いのおと>には今年やその前にも出てもらっていますが、共通して言えるのは、自分よりも年上の大御所なのに、すごく近い距離で話を聞いてくれるんです。結城はローカル線なので、(出演者の)皆さんが新幹線の小山駅まで来ると、うちらはお殿様を迎えにいくような感じで「お待たせしました」と送迎するんです。それはうちらなりのおもてなしなんですね。でもShing02さんは「いや、僕は結城まで行きますよ」と。今年はDJのA-1さんと一緒に、電車の本数が少ない中を来てくれて。打ち上げもホテルから距離があるところまで1人で歩いてきてくれて、すごく結城が好きなんだなというふうに、こちらに対する愛情の矢印を感じさせてくれるアーティストさんなので、非常に思い出深いですね。
そういえば今回セレクトした10曲のラインナップは、割と紬を着た方の率が高いです。

坂口:なるほど。僕ら(鹿児島)にも大島紬というのがあるんですけどね。

野口:そうですよね。三大紬(注:結城紬、大島紬、塩沢紬)ですよね。

坂口:そうなんですよ。あともう1つは何でしたっけ。

野口:あとは何だろう。だいたい「三大」というと1つは思い出せないんですよね(笑)。

三大紬については、終わるまでに調べておきます(笑)。では、曲をどんどん聴いていこうかなと思います。次はハナレグミさんです。

♪ハナレグミ/『明日天気になれ』(hana-uta)

野口:永積さん。

坂口:ハナレグミは4回目のJAMBOREEに来てくれたんですけど、ハナレグミはもちろんDouble Famousとしても昔からの友達なんですよ。ハナレグミになる前のSUPER BUTTER DOGの頃からよく知っていて。この歌詞がすごくいいんですよ、すごく。『ここで待ってても変わらない』『独りぼっちでも行くんだ』みたいな曲で。JAMBOREEもそうですけど、いろんなことを始めるときって不安になるしつらくなるじゃないですか。僕も(東京と鹿児島の)2拠点でやっているので、鹿児島空港へ帰るバスの中で、たまたまこれがiTunesからドーンと流れてきて、不覚にも涙が出てしまったんですね。

野口:おお、すごいですね。

坂口:友達の曲を聴いて涙が出たので、これはやっぱり来てもらおうと思って。この『明日天気になれ』という曲がすごくいいなあと思って。

野口:いやあ、いい曲ですよねえ。

坂口:それで呼んだらですね……当日土砂降りだったんですね(笑)。台風が直撃して、マジで、本当に土砂降りで。土砂降りというかもう台風なんですよ。

野口:(笑) 。開催できたんですか?

坂口:鹿児島県内の全てのイベントが中止になったんですよ。鹿児島の台風って半端じゃないので。やるか、やらまいかと悩んだんですけど、気象庁が出す天気予報とアメリカの海軍が出す気象情報はネットで公開されていて、アメリカ海軍の定義ではこれは台風ではないと。でも気象庁は悪いほうに予報するんですよ。

野口:最悪の事態を想定してね。

坂口:そう。最悪のことを言っておいて来なかったらいいじゃんだけど、来ないと言っておいて来たらすごく叩かれるから。それでどっちを信じるかとなって、このときばかりは米軍を信じたんです(笑)。

野口:ポジティブなほうをね(笑)。

坂口:はい。そうしたら、雨は降ったけど台風ではなかったんです。それでハナレグミが登場してこの曲を歌っていたら、雨がやんだんですよ。

野口:おおー、ドラマチック。すごい!

坂口:それはたまたまですけどね。

野口:それは今日のプレイリストにも入れますよね。

坂口:そうそう。もうこの曲は特別なんですよ。実行委員も含めてみんながタカシくんにね、本当、「ありがとう!」って。

野口:俺も呼びたいなあ(笑)いやあ、すごーい。

坂口:はい、では続いて韻シストですね。

♪BASI(韻シスト)/『あなたには』(RAP U)

野口:韻シスト、BASIさんですね。坂口さんがさっき言ったように、僕も『あなたには』の歌詞がすごく好きで今回入れたんですけど。リリックが……。

坂口:おっ、ラップします?

野口:いや、ラップしないです。できないです(笑)。リリックがやっぱり音楽のことをすごく語っていて、『若かったときは憂さ晴らしだった音楽も今は素晴らしい宝物だと言える』みたいな。『その宝物の音楽をもっとたくさんの人とつなげたい』というようなリリックがあるんですよ。それがすごく刺さってきて。もともと韻シストはすごく好きだったんですけど。僕も超リスペクトしているEVISBEATSさんがこのトラックを作っていて、初めて聴いたときからこれはもう絶対に呼びたいと思ったんです。
過去、韻シストとしてもオファーはしていたけど(条件が合わず)断られたという流れがあったので、じゃあBASIさんを単独でと話をして来てもらえたんです。あと、清水さんというマネージャーが哲さんとすごくつながりがあるので。ブッキングにおいては、哲さんが僕の大事な後押しをやってくれていますね。

鈴木:やっぱりマネージャーさんにも地方に思いがあると、思いを伝えたときにすぐ返ってくるんですよね。そういうところのつながりは、すごく大事にしたいなあという感じです。

ありがとうございます。では次の曲の前に質問を少しだけ。出演されるアーティストさんとはいろんな出会い方があると思うんですが、お2人の新しい音楽との出会い方について聞いてみたいなと思います。先ほど「哲さんがブッキングに大きく関わってくれている」とおっしゃいましたが、野口さんはここ最近、どんなときに新しい音楽と出会いますか? 人から紹介されるとか、ライブとかを結構観にいったりするものなんですか?

野口:そうですね。ライブとか、自分のすごく好きなアーティストさんのライブでオープニングアクトをやっている人だったりとかチェックしますね。実際にライブに行く前は、自分の気持ちを高めたいからYouTubeのプレイリストを聴いたりするんですが、今は似たようなアーティストだったり、他のアーティストが(プレイリスト)に入ってくるじゃないですか。そこでたまたまふっと聴いてみるとか、そういうふうに偶然、新しいミュージシャンを知るというきっかけは結構ありますね。今は、その場所に行って会う機会と、ネットで知るということの両方かな。

坂口さんは?

坂口:僕は完全に知り合いからのレコメンドですね。ネット経由で知ることも多いんですけど、AmazonとかApple MusicとかSpotifyのおすすめで知ったものは、名前が覚えられないんですよ。全然。例えば<BUKATSUDO>とかこういう場所に来て、ここでかかっていたものをShazamしてというのは覚えていますよね。

野口:ああ、自分で動いたものは(覚えているけど)、何となく流れてくると覚えてないというか。

坂口:そうそう。だから友人がということではないけどここで流れているものって、たぶん同じような感覚を持った人が選曲したもので、その中でおすすめしたいからかけるわけじゃないですか。わざわざセレクトして、選曲して。そういうのはやっぱり覚えているし。SNSでも友達が上げているもので、あっこれは新しいのが出たんだとか、このアーティストは知らないとか、そういうのは多いですよね。ただライブとなると、ネットで聴いてよかったからライブに呼ぼうかとはなかなかならない。やっぱりライブパフォーマンスと作品は別だったりするので。

野口:まあ、多少違いはありますよね。

坂口:どうしてもそこまでは分かりきらないので、そういうのはできるだけ足を運びます。

野口:そう。だからライブがよかったときに、この人のCDはもっといいんだろうなという印象はあるので、ライブ会場での新しい音楽との出会いは、まずライブが良かったからというパターンが多いですね。

坂口:うん、そうですね。

野口:そこの流れでCD、作品を聴いてみようとか。

坂口:そういう意味だとフェスっていいんですよ。ちょっと聴いてみたかったけど、どうなのかなぁということが、一網打尽にできるので。自分たちが(フェスを)やっているというのもあるし、それに来てくれたら録音よりもライブのほうがすごくよかったとかということもあるので、フェスには音楽をレコメンドするという機能がすごくあると思うんですよね。だから僕らのフェスに来て、「このアーティストは知らなかったけど、観たらすごくよかった」という出会いみたいなものを大事にしたいなと思っています。

野口:ああ、確かにそうですね。

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トークショーの後半は来週公開いたします。
お2人の音楽にかける思い、10年からその先に思うこととは?
ご期待ください。

ここまでのプレイリスト

【GOOD NEIGHBORS JAMBOREE】
M-1 Double Famous/『DF』(DOUBLE FAMOUS)
M-2 EGO-WRAPPIN'/『くちばしにチェリー』(Night Food)
M-3 TOKYO No.1 SOUL SET/『Wonderland』(Grinding Sound)
M-4 ハナレグミ/『明日天気になれ』(hana-uta)

【結い市・結いのおと】
M-1 bonobos/『THANK YOU FOR THE MUSIC』(electlyric)
M-2 U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS/『サマージャム'95』
M-3 Nujabes,Shing02/『Luv(sic) pt3』(Modal Soul)
M-4 BASI(韻シスト)/『あなたには』(RAP U)


音楽を共有して繋がる新しい街のミュージックコミュニティ『レコード部』と、食を通じて繋がる美味しいモノ/コト/ヒトのイベント『ALL MY RELATIONS』をやってます。