人のいないオフィス

人のいないオフィスで
ただ一人沢山の暗号を受け取っている
私は組織からはぐれたかのように一人働いているが
その実は組織をつなぐ要となるために
組織により深く入り込んで一人になったのだ
その組織の要に送られてくる無数の暗号

明滅するLED
持ち主不在のパソコン
静寂を埋める風を受けたブラインドの騒音
すべてオフィスにあるものは
幾分膨張し人間の領域に踏み込みながら
ひそかに暗号を送りつけてくる

私は一人仕事をしながら
脳のどこかの岬に暗号の解読を高速で行わせている
それは例えばパソコンの持ち主の愚痴であったり
幹部の間で交わされる機密事項であったり
とにかく人間には隠されるけれど
オフィス用品にはしっかり把握されている秘密の物事だ

誰もいないオフィスに電話がかかってくる
無に宛てられた電話だ
人のいないオフィスは一斉に暗号の送信をやめる

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