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「黄色」は「黄泉」に通じる?高原英理 × 豊崎由美、フリオ・リャマサーレス『黄色い雨』(河出書房新社)を読む

2022年10月の月刊ALLREVIEWSフィクション部門は高原英理さんをゲストにお迎えし、スペインの作家リャマサーレスの『黄色い雨』を取り上げます。高原さんと豊崎さんは同世代。対談の導入、まずは豊崎さんが高原さんの読書遍歴について尋ねます。高原さんが初めて読んだ小説は「グリム童話」で、豊崎さんは「私と同じ!」と興奮。その後、青春時代に触れた澁澤龍彦や種村季弘の話のあと、リャマサーレスの『黄色い雨』の話に入っていきます。
※イベントは10月25日に開催されました。アーカイブ視聴が可能です。

心をはって読む小説(高原)

豊崎さんは課題本『黄色い雨』が出版されたとき、書評を書いています。
この小説は、一人また一人と人が出ていくスペインの寒村が舞台。物語の語り手である主人公は、妻と最後まで村に残り、そしてその妻も自死してしまい、一人死を待つ、あるいはすでに死んでいるのかもしれないという、決して明るくない話。それでも、読んでいる時は、何か心が満たされるという詩のような小説です。

ソニー・マガジンズから2005年に出版された『黄色い雨』、短編を加えて河出文庫で文庫化され、現在も入手可能。外国文学が翻訳されにくく、かつ本の寿命が短くなっている現在でも根強い支持を受けている小説です。豊崎さんは最初に出版したソニー・マガジンズ、文庫化した河出書房新社の両方を褒めます。文化の継承はとても大事。

高原さんはこの小説を「心をはって読む」小説といいます。先もない、希望もない話なのに、なぜか読んでいると心が満たされる。

タイトルの『黄色い雨』は川に降りしきるポプラの落ち葉のことなのですが、この黄色は死の象徴でもあります。高原さんは、「黄色」は「黄泉」に通じるのではないかといいます。

滋養強壮のある小説(豊崎)

高原さんはアマゾンか何かのネットレビューで「自分はスペインのモデルとなった村にいったが、スペインの人はもっとたくましい」と書いてあるのを発見します。自分の狭い体験や見聞にもとづく自分が認識するところの「事実」とは違うフィクションを受け入れられない、高原さん曰く「そこにはいたっていない人」のレビューです。
豊崎さんは、「実際にスペインの村の人が明るかったとしても、その裏は明るさだけではないことがわからないのかなあ」と指摘、「若い人のレビューなんでしょうか。」とつぶやきます。これに対し、高原さんは、若くない人でもわからない人はわからないといいます。寂しいことですが、老いてもなお、小説を読む筋力は鍛えていきたものです。豊崎さん曰くこの小説は「滋養強壮のある小説」。小説を読む力を鍛えるにはうってつけの作品です。秋の夜長の読書にぜひ。

対談では、朝ドラ『舞いあがれ!』に出てくる又吉直樹扮する古本屋の話も出てきます。まさかこの対談で朝ドラの話がきけるとは!アーカイブ視聴可能です。

【記事を書いた人:くるくる】


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