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それでも合法的な高利貸は必要~小島庸平 × 鹿島茂、小島庸平『サラ金の歴史-消費者金融と日本社会』(中央公論新社)を読む

2021年10月のノンフィクション部門は小島庸平『サラ金の歴史-消費者金融と日本社会』です。若いころ、複数のサラ金から借りまくってたという鹿島さん、実体験もあいまって、この本を今年の新書大賞に推してます。
サラ金という、決して歴史は長くないが資料が少ない分野を、小島さんは地道に調べ上げています。
対談は、小島さんの調査を、鹿島さんが実体験から裏打ちする形で進みました。
※対談は2021年10月28日に行われました。
※対談はアーカイブで視聴可能です。

Uber Eats があれば団地金融は廃れなかった?!

サラ金の直接の源流は、団地住まいの人対象の「団地金融」。団地に入居するには住宅公団の厳しい審査を受けなくてはいけなかった。自ずと、団地に住む人は借金を踏み倒さない、「理想の貸し手」となる。小島さん曰く「60年代の団地は現在のタワーマンションに近いのでは」。

鹿島さんは「団地」が高級という価値観を知っている世代。鹿島さんの好きな成田三樹夫が出演する『続・高校三年生』では、団地がハイ・ソサエティーの象徴として描かれています。

信用の高い「団地妻」への貸し出し競争に陥った団地金融は、営業車を使った現金配達サービスの提供という、高コスト競争に陥り廃れていきます。
「”Uber Eats””のような配達人を外部化するサービスがあれば生き延びる道があったのかも」と小島さん。

アコム、プロミス、レイク…草創期の創業者は個性的な経歴

団地金融の次に生まれたサラ金。アコム、プロミス、レイクの古参のサラ金三社の創業者は皆個性的。アコムの木下政雄は呉服屋から質屋となり、サラ金に参入。プロミスの神内良一は農林省香川作物報告事務所に勤務し、ここで神内は統計を学びました。「統計学は全ての基礎学問」と鹿島さん。レイクの浜田武雄は自衛隊出身。そして、3人に共通するのは、「表の金融」にこだわっていたこと。初期のサラ金は、多重の債務を負わせる、厳しい取り立てをする、という後のサラ金のイメージとは違っていたようです。

この流れを変えたのは、武井保雄が創業した武富士。アグレッシブな武富士の経営により、サラ金業界全体が活気づき、全フロア―サラ金というサラ金ビルも、各地に出てきます。90年代、鹿島さんはそんなビルをみて「看板を出しているサラ金すべてから借りている」と思ったそうです。

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2000年代に入り、サラ金は規制強化の時代に入り、2006年に改正資金業法が成立。武富士は2010年に倒産、アコム、プロミス、レイクは銀行傘下となります。いわゆる消費者金融からの借り入れは減少傾向。

「それでも合法的な高利貸は必要」と小島さん。サラ金が廃れたあと、「親戚・知人からの借り入れ」が増えていきます。現在は、SNSを使ったリスクの高い私的貸し借りも散見されるようです。それは、サラ金よりも危険なもの。

動画では、小島さんの分析と、鹿島さんの実体験が交互に話され、話が立体的になっていきます。鹿島さんの回想が、オーラルヒストリーともなっています。ぜひ、動画をご覧ください。

【記事を書いた人:くるくる】

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2021年2月には、鹿島茂さんとの対談6本をまとめた『この1冊、ここまで読むか!超深掘り読書のススメ』が祥伝社より刊行されています。
本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください。
ALL REVIEWS友のTwitter:https://twitter.com/a_r_tomonokai


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